第01話 ~全裸黒髪娘が、そこにいた~
「いやぁ大橋、先週はよく抜け駆けしてくれたな、あ?」
「ごめんって。今度は俺が合コン組んであげるから許してよ」
「まあそれなら……って、結局ヤったの?」
「ヤったよ」
「殺すぞてめぇ!」
俺が胸ぐらを掴まれたところで、教師が勢いよく教室に入ってきた。
「はいじゃあ出欠取ります……相原!」
「はい」
月曜日が始まってしまった。
その倦怠感に苛まれながら、机上に目を落とした。
ん……?
机の上には白いプリント。
入部届、か。
そういえば金曜日に配られて机の上に置きっぱなしだったな。
部活のことなんか1ミリも考えてなかった。
まず見学にすら行ってないおかげで、何の部活があるのかも知らない。
もう、昔には戻れないし、新しい自分を探すのもアリなのだろうか。
別に、真剣にプロを目指すわけじゃなきゃ時間の無駄か。
いいや、適当に遊んで過ごそ。
「えー、次、大橋」
「はい……」
昼休みは、学校ブラブラしてみるか。
――――――――
―――――
――
「ここはどこだ?」
俺は廊下の真ん中で立ち尽くしていた。
何この学校、広くね?
だいぶ歩いたはずなのだが、どんどん新しい場所が現れてくる。
学生数が多くて学校が広いことは知っていた。
「しかし、迷子になるレベルだとはな……」
いいや、とりあえず突き進もう。
そのうち先生とエンカウントすれば、道案内でもしてくれるだろう。
「ここは……?」
ついに突き当りまで来てしまった。
人が誰もいない薄暗い廊下の先。
「この辺、使われてんのか?」
辺りを再度見渡す。
「ん?」
突き当りの大きな鉄の扉に、プラカードが張り付いている。
「女子……ボクシング部……?」
ボクシング、だと?
そのワードに、俺は目を見開いた。
何故ならそのワードは、俺の人生を形容するに相応しいワードだったから。
「…………」
恐る恐る、重い鉄の扉を引いてみた。
鍵は開いているようだ。
ギギギ、と鈍い音を轟かせて扉が開いていく。
中が確認できた。電気は付いているようだ。
「リング……!」
小さな体育館、のようだが。
真ん中にはリング。隅には5つほどサンドバッグが吊るされている。
ボクシンググローブやミットが棚にはズラリと並んでいる。
そして、一気に押し寄せる汗の臭い。
「うっ……!」
思わず腕で鼻を覆った。
こりゃひどい汗臭だな。
無意識に俺は、リングまで歩き出していた。
「懐かしい……」
ロープを潜り、リングの真ん中に立つ。
キャンバスマットの感触が、足に広がる。
俺はずっと、この上で戦ってたんだ。
ボクシングに人生のすべてを――
「…………ッ!?」
刹那、物音。
ガラガラガラ、とこれはきっとドアが開いた音だ。
でも入口は引き扉だからそんな音はしない。
周りを見渡す。
「えっ……」
目が合った。
人……?
視線の先には「シャワー室」と書かれたドア。
その目の前に、女の子。
女の子!?
「ちょ、え、え……?」
言葉にならない言葉が漏れる。
湿った腰上まで伸びた艶やかな黒い髪、大きな瞳。
スラッと伸びた手足に、コンパクトすぎず且つ出過ぎてもいない胸と尻。
そして裸体。
え、なにこれ?
「…………」
「…………」
少女の目が見開く。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあああッ!!!」
整然としていた空間に、その甲高い少女の叫びが響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます