雨と猫 <止むころには>

逃猫

雨と猫 <止むころには>

 薄暗い道。人がいても分からないほどに暗く、寂しい。


 少し進んで、うっすらと人の影が映る。そんな道に1人の女性が立っていた。


 右手には赤いドライバーを握っている。持ち手が赤いのではなく尖った先端が赤く赤く。


 地面を打っている雨と同じようにまた、女性も大きな滴を地面に打ちつけた。


 「女性さん女性さん。なぜあなたは泣いているの?」


 女性の前に茶色の毛並みをした猫が現れた。


 「女性さん女性さん。あなたは悪いことはしてないのよね?」


猫が質問を重ねるたびに小さく小さく小刻みに女性は震える。


 「何故あなたはそんなに震えてるの? あなたがした事は良いことだと思っているのよね?」


強かった雨が徐々に弱くなっていく。それに合わせるように女性の涙も弱まる。


 「女性さん女性さん、あなたの握っているソレは何?」


 握っているソレを聞かれた瞬間、彼女の震えが一瞬止まる。


 「女性さん女性さん、ソレの先端についているモノは何?」


再び彼女は震えだす。大きな猫は質問を雨一粒一粒の量と比例するように増えていく。次第に声がブチブチと途切れ途切れになり、小さく小さく。


 「女性さん女性さん、私の身体に傷が出来ちゃったの」


 猫の横腹にポツリと穴が空いている。その中からは何も出ていない。まるで全てを出し切ったかのよう。


 「女性さん女性さん、もう大丈夫」

 

 「女性さん女性さん、痛いね、辛いね、苦しいね。でも大丈夫」


  猫は少し間を開けた。



 



 


 ーーーーソレは全部私のだから



 その言葉と共に雨もまた止んでいた。

 


 

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雨と猫 <止むころには> 逃猫 @Yachiru17

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