恋に恋するお年頃⭐︎

かづき舞

第1話

右を向けば男。

左を向いても男。

聖葉大付属高等学校に入学して、はや一ヶ月。

俺は幸福の絶頂である。

今年から共学になったとは言え、女子はクラスに一人か二人。

一年生の九割は男である。

おかげで校内は男だらけ。

端正なインテリ系の美少年からさわやかスポーツマンまでよりどりみどり。

うーん。目の保養!

はっきり言って、俺は男が好きだ。

好きなものは好きだ。

こればっかりは仕方がない。

物心ついたときからこうだったので、もはや開き直っている。

神無祐介、十六歳。

ど派手な金髪。ピアスは5つ。

お世辞にも、柄がいいとは言えないが、心は純情一直線。

念願かなってこの高校に入ったからにはやる事は一つ。

すなわち理想の彼氏をゲットして、目指すは薔薇色ハッピーライフ!

文句ある奴ぁかかって来い!



あ。

角を曲がった所で俺は足を止めた。

のどかなる早朝の通学路。

前に見えるはわがクラスの紅一点、春日瑞樹…と、誰だあれ?

俺の位置からはその後姿しか見えないが、背の低い男が一人。

同じブレザーのところを見ると、聖葉の生徒なんだろうけど。

男が何事かを告げる。

瑞樹は首を振り立ち去ろうとするが男は瑞樹の腕をつかみ、なおも引き止める。

おおっ。修羅場だ修羅場。

なんだ?痴情のもつれか?

さすがは貴重な女生徒。

多少性格に問題があろうともやはりモテる。

うらやましいことに。

…本人絶対迷惑してるとは思うけど。

切れ長の瞳に黒く長い髪。瑞樹も黙っていればなかなかの美少女なんだけどなぁ…

俺は面白半分に会話の聞こえる位置まで歩みよる。

「お願いです、瑞樹さん!」

「嫌だと言っているだろうが!」

「あなたが欲しいんです!」

な…朝っぱらから、なんと大胆な。

ドキドキドキドキ

「断る!」

「そこを何とか!」

「放してくれ!」

「せめて髪の毛一本でも…」

「気持ち悪いわぁぁぁ!」

メコッ

思わず放った俺のかかと落としが見事男を沈黙させた。

ちっ。手ごたえのない。

「よぉ。祐介。今日も元気だな」

重々しい口調で瑞樹が声をかけてくる。

瑞樹の話し方は性格と同じく暗く淡々としてる。

どーにかならんか、このテンションの低さ。

すがすがしい朝にはちょっと似つかわしくない…

「瑞樹は相変わらず不機嫌そうだな」

「ああ。不愉快極まりない」

俺は頭を抑えてうずくまる男にチラッと目をやり、

「で。何なんだよ、こいつ?」

「聞いての通り、私の髪が欲しいらしい」

「何のために?」

「おまじないに必要らしい」

それ、おまじないって言うより呪い系なんじゃ…?

「お前、変な奴に好かれるよなぁ…」

「女というだけで珍獣扱いだ。高校男子に好かれたところで嬉しくもないのだが」

「もったいない」

俺の言葉に瑞樹は少し眉をひそめる。

「物好きな…」

「さ、瑞樹。さっさと学校行こうぜ。英語の予習見せてくれよ」

「少しは自分でやったらどうだ?」

「無駄な努力はしない性質なんでね」

「威張れることじゃないだろう」

そのまま俺たちは何事もなかったように歩き出す。

瑞樹は女にしては背が高い。

俺は小さい方だから、一緒に並ぶと俺の方が5センチほど低い。

「ちょっと待ってっ!」

いきなり背後からかかった声に振り返ると、先ほど蹴り倒した男が俺を睨みつけている。

おや。もう復活したのか。

胸に付けた校章は緑。ってことは俺と同じ一年か。

だが…

時代を無視したぐるぐる眼鏡(ビン底眼鏡とも言う)が邪魔で顔がよくわからない。

うざったい前髪。ちょっと猫背。

なんて言うか暗そう。

凄げぇな…

俺は思わず息を呑んだ。

まさかいまどきこんな男がいようとは。

ある意味天然記念物じゃねーか。

「そのわざとらしい金髪…確か神無君だったね」

んで俺の名前…?

しかもわざとらしいとかどーよ?

男はビシィ!と俺を指差し、

「ふふ…この僕に蹴りを入れるとは…まずは見事と褒めておこう。しかぁし!瑞

樹さんは諦めないからな!」

うわ。なんか激しく勘違いされてるし。

「五反田君」

瑞樹がボソッと口を挟む。

「何度も言うが、私は年下にしか興味ないんだよ」

きっぱりと言い切る瑞樹。

そう。実は彼女、根っからのショタコンである。

だからこそ俺たちの間には異性間の友情というのが存在している。


瑞樹は入学式の日、自己紹介で「十六歳以上の男に興味はない」と断言し、クラスをざわめきの渦に包んだという凄腕の持ち主である。

俺はその自分に正直なところが気に入った。

方向違えど苦労は同じだし。

「神無君の馬鹿ぁぁぁぁぁ!」

「何で俺のせいなんだよ!」

俺のツッコミを無視して走り去る少年。

おお。結構足は速いぞ。

背中がみるみる小さくなる。

「何、あれ?」

「同じクラスの五反田一君だ。なかなかしつこいぞ」

ああ。だから俺の名前知ってたのか。

「記憶にないなぁ…」

「お前の記憶はいい男にしか働かないのだろう」

「違いねぇ」

その時、遠くからチャイムが聞こえた。

「走れ。祐介」

「はいよ」

俺たちは慌てて駆け出した。

季節は春。

桜の花が舞っていた。

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