33.
自分に才能があると思ったのだ。そしてそれはいついかなるときでも失われず、発揮されていくものだと。だがそんなものはきっと存在せず、素晴らしい作品を作り上げる能力というものは日々の努力の積み重ねでしか発揮されないのだ。
今回の失態は日々の絵を描く作業の鍛錬不足と自分のなかで結論付けた。もちろん作品の出し直しもしない。今はただ目の前の彼女を描き続ける。
ふと振り返ると作品に対する賞賛を得ることで自らの欲求が満たされたことがないことに気づいた。ただ惰性で描き続けただけなんだと思う。でも本当にそうだろうか。描くことはたしかに惰性だけど、描くことでその意味を無意識に探っていたのではないだろうか。そいつが見失ってしまったその意味を。
ひとしきり描き終えた。満足のいく出来だと思う。この作品はこれで完成だ。しかし、何かが足りない気がしている。いつもは感じていないような違和感だ。目を離せば見逃してしまうような感覚。注意深く観察して考えてみることにした。
前提としてこの作品は何かのコンテストに出展するわけではない。誰か多くの人間に観られるわけでもないし、表現技法を評価されることもない。なので具にチェックする必要がない。そんな中、じっと見つめている。今日はやけに絵具の油の匂いが鼻を刺した。
彼女には描き終えた後のチェックをしているようにみえるのだろう。花をもって未だ描かれるべき対象として僕を見つめている。
僕はあらゆる作品は作られる意味があって、その根底にあるのはそれは何かのために、誰かのためになってほしいのだという祈りであると思っている。
この作品にはそれがあっただろうか。いつからか僕の作品は作品と呼べるようなものではなく単なる素描に過ぎないものとなってしまっている。祈ることが怖くなってしまったのだ。自分のためにも誰かのためにも。その祈りが与えてしまった希望あるいは絶望の責任はだれがとるのか。その祈りが自分の予期せぬ形で誰かを傷つけてしまっていたらどうしようか。絵を描こうとするたび、そのような思いが駆け巡るようになっていた。だれに理解されようもないそんな思いが。
「孤独だ。」思わずそう言葉が口を衝いて出た。気が付いたら彼女は僕の隣にいて、同じように絵を眺めていた。つい吐いた言葉がしっかりと彼女の耳に届いたかわからないが、目が合った僕に微笑みを向けていた。僕も微笑み返した。言葉の意味はきっと目の前の彼女には伝わらないだろう。
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