第275話 最新武器の御披露目

- 1542年(天文11年)11月 -

- 武蔵(東京、埼玉、神奈川の一部)江戸城 -


「構え・・・撃て!」


 パパパンという乾いた音がして、100メートル先にあった10個の水瓶が中味をぶち巻けながら壊れた。


「おぉ・・・」


 観客席から感嘆の声が漏れるのと同時に再び乾いた音が鳴り響いて、更に10メートル先にあった水瓶が中味をぶち巻けながら壊れる。そして間髪入れず三度同じことが起きる。


「実際にはこの3倍の距離を水平で攻撃できます」


 そう言って合図を送ると、四度目の破裂音が鳴り響く。暫くして鎧を持った兵士がやってきて武田信虎さんの前に置く。


「おお、これはこれは」


 武田信虎さんが胴丸に開いた穴を見てポンポンと手をたたく。

 弓は狙いをつけなければ400メートルほどの射程があるが、狙って命中させるとなると最大のものを使っても約80メートルほどまでに落ちる。しかし目の前で披露された銃なる武器は100メートル先のものを打ち抜き、更には数倍先のものまで狙撃できるという。興味を引くのは当然だろう。

 ちなみに尺貫法で距離を表す単位である丁は一丁が約109メートルである。弓の有効射程距離から僅かに外れているというのは偶然だろうか?


「この武器は、毛利では既に防御の武器として配備も進んでおります」


 俺の説明に、武田氏の家臣たちがゴクリと喉を鳴らす。既に実戦配備済みと聞けばそうなるだろう。


「守備側の使い方はこんなものです。では次に攻撃側としての使い方を」


 そう言うと武田氏からざわりとした空気が流れる。銃が個人で携帯出来る大きさの時点で侵攻にも使えると思い至らなかったのかな?まあ配備済みとなると、今まで御披露目していなかったことへの驚きの方か。


 指笛を鳴らすと、わらわらと藁人形を抱えた兵士が現れて人形を配置していく。


 ジャキッ


 銃を持っていた兵士たちが持っていた銃の先端に直刀を装着する。


「突撃!」


 五人一組になった兵士の塊が銃を構えて十体の藁人形に突っ込む。

 移動しながら銃の引き金を引き、藁人形の着ている鎧を穴だらけにして接近し、銃の先端に付いた剣を突き立てる。


 ジャキン


 銃から弾倉を引き抜き、腰の弾倉と付け替えると、更に10メートル先にある藁人形の集団に突撃していく。


「弾倉と呼ばれる銃の弾丸を収納する箱に五発。弾倉は六個を携帯。あと銃は、いざという時に短槍としても使えます」


 ニッコリ笑って説明すると、更に武田氏の人間はドン引きしたような顔になる。


「投擲!」


 兵士の一人が腰の袋から卵型のものを取り出し、上部の栓を抜き差して投擲する。


 ドゴン


 投擲されたものが10数メートル先に落ちて爆発する。所謂焙烙玉だが、使われているのは黒色火薬ではないので爆発力が段違いである。まあ、それが判るのは火薬の威力を知っている毛利の極一部の者だけだろうけど・・・


「次は、あの銃を大きくした砲という武器の御披露目です」


 そう言って合図を送ると、四本足走行のゴーレムがドスンドスンと足音を鳴らしながら姿を現す。


「な、なんだあれは・・・」


 武田氏の皆さんがゴーレムを見て顎を外している。


「式神ですよ式神」


「そ、そうなのか・・・」


 驚いている武田氏の皆さんに何時もの言い訳をする。この言い訳でゴーレムが動く事の説明が通用するから不思議である。


「撃て!」


 合図と同時に焙烙玉と比べられないほどの轟音が鳴り響いて、ゴーレムの背中に設置した大砲が火を吹き、200メートル先の地面を派手に吹き飛ばす。が、銃とゴーレムのインパクトが強かったからか、反応がイマイチである。

 まあ、地面を耕しただけだから仕方ないか・・・


「では最後に、毛利最大の戦力である鉄鋼船の御披露目です。港へ向いましょう」


 武田氏幹部の皆さんの心をへし折る最後の場に向かうよう促すのであった。

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