第262話 松平家の家臣とついでに松平広忠くんを拾う

 - 1540年(天文9年)3月 -


 毛利氏から十分な支援を受けた長尾為景さんが、「越後(新潟本州部分)守護様の後継者に不満がある」として、上杉定実の居館を攻めた。下克上とまでは行かないまでも、地位が上の人間に対し、力で要求を通す人はいるんだよね。

 長尾為景さんも代々の越後守護代の一族だけど、先代守護の上杉房能に反旗を翻して(上杉房能が長尾為景さんの力を恐れて、長尾為景さんに謀叛の疑いがあるとして挙兵するも逆に返り討ちにされたという説あり)敗死させ、今の守護である上杉定実を守護につけた過去がある。(まあ、その上杉定実も長尾為景さんに対して挙兵し一時は春日山城を占拠するところまでいってる。)

 既に裏で毛利氏に従属しているし、長尾為景さんに元主家に対し刀を向けることに躊躇いはなかった。まあ、この案を提案をしてきたのは長尾為景さんとその派閥の皆さんなんだけどね。

 毛利氏に従属したら、所領は問答無用で買い上げられるけど、そのぶん俸禄は嵩増しされると聞いて、少しでも所領を分捕ってから毛利氏に従属した方が得だと判断したそうだ。あと、いまの越後は大半が湿地帯で、収入となる米の収穫は常に不安定だからっていうのもある。

 結局、上杉定実は義息である伊達氏の三男である上杉実元、上杉実元の養子を斡旋した中条藤資と共に、陸奥(福島、宮城、岩手、青森、秋田北東部)の伊達領へと落ち延びていった。越後守護家は名実共に消滅となった訳だ。

 そしてその陸奥だけど、伊達氏と武田氏との間での話し合いに再開する目処がついていない。冬の工作活動の結果、武田氏と南部氏が共闘して伊達氏の包囲網を完成させ、無理に伊達氏と和睦する必要がなくなったのが原因だ。それを裏付けるように、武蔵(東京、埼玉、神奈川の一部)から常陸(茨城)や陸奥の南部領の港に食料や武器。建築材などが陸揚げされているという報告が来ている。更に常陸には海上輸送で運ばれた武田兵も二千規模で集結しているという。伊達氏に残された時間は少ないと思う。


- 美濃(岐阜)稲葉山城 -


「お初にお目にかかります。本多平ハ郎と申します」


「お、お久しぶりです。松平次郎三郎です」


 そう言って本多忠豊さんと松平広忠くん二人が頭を下げる。松平広忠くんすっかり空気が読める子になった模様。今回彼らを美濃に呼んだのは毛利氏への仕官のお誘い。元就さまに越後制圧を含む北陸での進捗状況の説明と新年の挨拶伺いのついでなんだけどね。


「次郎三郎と言うことは・・・なるほど松平殿は元服されたのか。おめでとう」


「ははっ」


 松平広忠くんが恭しく頭を下げる。


「単刀直入に言います。毛利に仕える気はありませんか?」


 俺が佐渡から、彼らが三河からここ美濃に来た理由を切り出す。


「前回は否定的な態度だと聞きましたが?」


 本多忠豊さんが眉を潜めて尋ねてくる。


「あの時は、毛利と松平で対等の同盟を結ぼう。まずは松平を支援しろと言われましてね?そんな話に乗る訳ないでしょう」


 俺は困ったような顔をしながらも嗤う。


「では何故いまになって我々にお声を?」


 本多忠豊さんは困惑した顔をする。


「東海道を一気に制したので、今の毛利は武官も文官も決定的に不足しています。スカウト・・・もとい、使える在野の将を勧誘するのは当然でしょう?領地は無理でも、お家は再興出来ます」


 俺はにっこりと胡散臭い笑みを浮かべて誘ってみる。


「何故、それがしだったのでしょう?」


 本多忠豊さんが不安げに尋ねる。


「三河(愛知東部)の本多一族は文や武に優れた者が多いと聞いてましてね。そのお一人としてお誘いしました。同じ浪人という境遇にある主君を一緒に連れてきたのは予想外でしたが、それはあなたの厚い忠誠心の表れとして評価しましょう」


 実に爽やかに笑って見せるが、嘘です。あなたを誘ったのは本多忠勝の祖父だからです。松平広忠くんがオマケでついてくるとは思いませんでした。

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