第260話 須賀川城の戦い
-陸奥(福島、宮城、岩手、青森、秋田北東部) 須賀川城-
「教来石殿。斥候から報告です。伊達軍が二本松城を出立しました。その数およそ2500!」
「事前情報からすると全力投入か。まあ、こちらは軍師殿の授けてくれた新兵器がある。是非に及ばすだ」
教来石景政は口の端を吊り上げて嗤う。
「左翼、穴山殿に兵500を、右翼、真田殿に兵500を率いて伏せて貰います」
教来石景政の指示に、穴山信友と真田幸綱が静かに頷く。
「軍師殿の策は、まず
教来石景政は、事前に小山田虎親に授けて貰った策を開陳していく。
須賀川城の北、釈迦堂川を越えた所に伊達軍2500が着陣した。中央を伊達稙宗が、右翼を二本松稙国が、左翼を二階堂照行が率いている。対する武田軍は教来石景政が騎馬兵500を展開し待ち受ける。
「3倍の兵力差で魚鱗・・・妥当かな?まあいい。鶴翼に陣変えするよう伝令!」
伊達稙宗からの伝令が飛び、伊達軍の両翼は武田軍を包み込むべく左右に広がる。
「まあ、そうするよな」
ゆっくりと左右に展開する伊達軍を見て教来石景政は、持っていた采配を上げる。
「しかし、数的優位は揃えてなんぼのはずだが、バラすとか正気かね?まあいい。動きの鈍い右を崩すぞ」
「「「「応」」」」
教来石景政が采配を伊達軍の左翼を目指して振り下ろすと、教来石景政の側に控えていた白い流れ旗を持った騎馬が采配の指す方に向かって走りだす。その騎馬兵に導かれるように全体が動き、鯨波の声が上がる。
「弓隊、迎撃だ!」
伊達軍の指揮官が急速に接近する武田軍の騎馬隊を射掛けるよう指示を出す。しかし、武田軍の移動速度が早過ぎて、矢の大半は騎馬隊の後ろに着弾し、被害をほとんど出せていない。
「やあ!」
馬上で
「離脱!」
教来石景政が持っている采配で合図を出すと、ボフォ一と法螺貝が鳴り響き、
「よし。我らも引き上げるぞ」
教来石景政は、馬の踵を返して城へと引き上げる。それに引きずられるように、伊達軍も城へと部隊を近づける。
須賀川城は、小高い台地の上にある平山城で、周囲に土塁と水掘、空掘を巡らせ、標高が低い分、頑丈な柵や建物が建つ城である。
「矢を放て!」
城を囲む伊達軍に対して城に籠もる武田軍から一斉に矢が放たれる。一方、竹を縄で束ねた竹朿と呼ばれる盾を掲げてジリジリと城に迫る伊達軍。
「ぎゃあ!」
あと十数メートルで城の壁に到達出来るという距離まで近づいた伊達軍のあちらこちらから悲鳴が上がり始める。
普通、矢は放物線を描いて飛んでくる。故に普通は竹朿は上に掲げられる。それが、城の壁に近づくにつれて真っ直ぐ飛んでくる矢が混じり始める。矢の撃ち方を変えたのではなく、明らかに違うものから放たれた矢が伊達兵たちを襲う。
「この諸葛弩という弓は、矢をつがえなくても撃てるのが便利じゃの」
一際高い櫓で、軍師の小山田虎親によってもたらされた諸葛弩と呼ばれる連弩を手に伊達兵を狙撃していた武田兵は一人ごちる。
この諸葛弩、弓術の手練れでなくても短い時間で多量に真っ直ぐに矢が撃てるため、指揮官クラスからは拠点防御の武器としての評価が高い。しかし多勢に無勢。徐々に城門へと攻め寄せられる。
「よし、火縄を用意し、新兵器を準備せよ!!」
櫓で防衛の指揮を執っていた兵士が命令を下すと、諸葛弩を撃っていた兵士たちが脇に置いていた木箱の蓋を外し、内から荒縄と竹筒と紐のついた丸い陶器を幾つか取り出す。そして竹筒に何度か棒を押し込むと竹筒をひっくり返す。中から火種が零れ落ちてきて荒縄を近づけ、火縄にする。
「導火線に火を点けて、固まっている所に投げ込め」
命令のもと、陶器についた紐に火を付けて伊達軍が固まっている所に投げ込む。
バキャン
陶器が炸裂する音が鳴り響いて、固まっている伊達軍目掛けて鉄片や陶器片がばら撒かれる。
バキャン!バキャン!
あちらこちらで破裂音が鳴り響き、伊達軍はたちまち大混乱となる。
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