第221話 史実では三大悪人と呼ばれた二人が出会った
1537年(天文6年)8月
― 今浜砦(史実で長浜城になるはずだったところ) ―
近江(滋賀)の攻略では、事前の準備期間があまり取れず武によるゴリ押しだったので、美濃(岐阜南部)への攻略は多少時間がかかっても、絡め手でいくことが毛利氏の会議で決まった。
絡め手と言っても、安く物を売ることで相手の市場と生産力をガタガタにした後に締め上げていく、まだ毛利氏が国人レベルで周辺の国人を攻略するのに多用した方法だ。
違いがあるとすれば、土岐氏の重臣である斎藤利政さんを味方に引き込んでから、美濃の有力国人を確実に切り崩している事ぐらいだ。
あ、斎藤利政さんといえば、日本の戦国武将のなかで一番の梟雄を挙げろと言われれば真っ先に挙げられる人物だけど、どうも後世の作家によって織田信長の引き立て役として過剰に評価されているようだ。
なにしろやってる事は織田信長の方がスゴイ。病気を装って呼び寄せた実弟を誅殺し、同族の尾張守護代を討滅。尾張守護の乗っ取り。
宗教勢力を根切りにして比叡山を焼き討ち。足利将軍家を追放し幕府を滅ぼす。斎藤利政さんと松永久秀さんを足して1.5倍以上のことやらかしているんだよね・・・
西日本にある毛利領各地から、増産をかけた春小麦やじゃが芋。稗や粟といった雑穀の今年の上半期の予想収穫量が上がってきた。これを基に数年前からある余剰分の穀物や芋類も含めて、現在続々と補給基地として整備された敦賀の湊に陸揚げされている。
半分は越前(岐阜北西部を含む福井嶺北)と近江(滋賀)の地域安定のために、半分は加賀(石川南部)と美濃(岐阜南部)と
「他所に穀物を売るときは必ず脱穀」
壇上の緋色の腰丈の羽織・・・所謂法被を着た厳つい顔の男が大声を上げる。
「「「「「他所に穀物を売るときは必ず脱穀」」」」」
藍色の法被を着た大勢の男たちが大声を上げる。
「他所に大豆を売るときは必ず焙煎」
「「「「「他所に大豆を売るときは必ず焙煎」」」」」
「破れば即死罪」
「「「「「破れば即死罪」」」」」
「
「「「「「見逃してくれよ」」」」」
どっという感じで藍色の法被の男たちから笑い声が上がる。なお
「今日も一日頑張りましょう」
「「「「「今日も一日頑張りましょう」」」」」
倉庫の警備と巡回の責任者である男が訓示を叫び部下も後から大声で復唱している。
「訓示・・・ですか。えらく物騒な文言も混ざってますな」
斎藤利政さんが、引き笑いを浮かべながら、こちらにやってくる。
「ついうっかりを防止するための引き締め策ですよ」
俺は笑ってそう答える。これから美濃に対し経済侵略を行うわけだが、長期保存ができる状態の商品を売るのはいささか悪手である。また、毛利領で品種改良した穀物の種が仮想敵国に正規のルートで流れるのも面白くないというのもある。
まあ、種の選別方法とか栽培方法とか十分な収穫に至るには、色々と手順を踏む必要があるから、種がうっかり他国に流出するだけの事態は問題はないんだけどね。
「で、
「北陸攻めのための後方支援の仕組み作りを任されてね。斎藤殿との交渉を担当する者との顔合わせをしたいと」
俺の言葉に斎藤利政さんは不安そうな顔をする。
「あくまでも緊急時に即応するための担当者で、定期的な話し合いの時は
そういうと斎藤利政さんはホッとしたように顔を緩める。美濃を経済侵略すること、その謀略の美濃側の協力者が斎藤利政さんであることは先に述べたけど、このこと知っているのは、計画を承認した毛利の上層部と、美濃で斎藤利政さんを警護する任務を与えられた御伽衆の人間しか知らないからね。知っている人間を付けてくれると判って安心したようだ。
「ではこちらにどうぞ」
そういって斎藤利政さんを今浜砦に併設するように建立した施薬不動院(史実でいう長浜豊国神社)に招待する。
「お初にお目にかかります。毛利の交易部と諜報部に籍を置きます松永弾正久秀と申します」
「お初にお目にかかります。松永の部下の三好孫次郎利長と申します」
叔父と甥という雰囲気を満遍なくまき散らす壮年男性と少年がそろって頭を下げる。
「松永殿は阿波(徳島)三好氏の元家臣で、三好殿は堺公方を支えた三好海雲殿の嫡子です」
「美濃の斎藤新九郎利政と申します」
俺の紹介に斎藤利政さんも頭を下げる。なお史実では斎藤利政さんが斎藤の名跡を継ぐのは1年後の天文6年(1537年)だけど、歴史改変の影響なのか、かなり前倒しになっている。
まあ、戦国三大英雄のうち誕生が確認されてるのは織田吉法師くんのみで、最終的に天下統一するはずの徳川家康なんて父の松平広忠が未だ行方不明なんだよね。
しかし戦国三大悪人のうちの二人がご対面というのはスゴイ光景だよなぁ・・・
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