第178話 優秀な物欲センサー
「これはまた買い込みましたね・・・」
司箭院興仙さんが買い込んできたという掘り出し物を見て、思わず笑ってしまう。生活雑貨はもとより花瓶や壺。茶器などに混じり、一向宗が由来の真新しい仏画や仏具がそれなりにある。
一向宗の信者という購買層と東と西の交易路の交錯点である堺。なるほど史実で一向宗と堺の会合衆が一大勢力になるわけである。まあ堺の方はいずれ西と東を繋ぐ軍都として復興し発展するだろうけどね。
「欧仙。足りない金を出してくれ」
「残額はいくらですか?」
俺の問いに武野紹鴎さんがパラパラと、大福帳と書かれた仕入れ台帳をめくる。
「残金は1939文です」
「判りました。余りは彦八郎くんをお借りした手間賃にしてください」
そう言って俺はアイテムボックスから一貫文の銭束をふたつ取り出す。なお、武野紹鴎さんというか秘密結社「臥茶七曜」の幹部たちは俺のアイテムボックスの事を知っていたりする。そして俺がゴーレムを使役するのも色々なものを一瞬で出したり消したりするのも俺が仙人でこれらの技を陰陽術だとか仙術だとか天狗術だと認識していたりする。あと
「そういえば新しい事をやっていると聞きましたが?」
渡された一貫の束を受けとりながら武野紹鴎さんが尋ねてくる。
「ああ、10文黄銅貨と100文
アイテムボックスから10文黄銅貨と100文
「これは・・・」
「10文黄銅貨、100文
「ほう。偽造はどうします?」
「貨幣の偽造は・・・どの口が言う?というやつですね。紙幣を偽造する者は族滅でしょう。ですが・・・」
俺は10文黄銅貨、100文
「紙幣の真ん中を日にかざして見てください。これを偽造できるならしてみろです」
言われて武野紹鴎さんは一貫文紙幣を日にかざし顔色を変える。一貫文紙幣の真ん中には、紙を漉くとき意図的に厚い部分・薄い部分を作ることで描かれた茶釜タヌキが鎮座しているのだ。紙幣導入のために小切手等の試験運用が始まって10余年。先日ようやく納得できるものが出来たのだ。ちなみにこの透かしの技術自体は1282年のイタリアはボローニャで既に実用化されてるものだったりする。
「これは凄いですな」
「雪舟の弟子で秋月等観という画僧が描いた厳島大鳥居です」
「この絵も素晴らしいのですが・・・日に透かすと絵が浮かび上がる技術が凄いです。この絵の価値が一貫文は安すぎませんか?」
武野紹鴎さんは顔をしかめて唸る。
「紙幣は多色刷りですが、版画なので数が刷れます。価値は出ないでしょう」
「それはそうですが・・・ん?このイ00032という数字は何でしょう?」
「偽造防止の通し番号ですね。意味を知らないと偽装防止だとは知らずに複製するのです」
納得したのか徐々に武野紹鴎さんの眉間のしわが取れる。
「欧仙さま。保存用と観賞用の2枚。売ってください。できれば切り通し番号で」
武野紹鴎さんは俺が渡した一貫文の2束をそっと返して来る。そういえば武野紹鴎さん蒐集家だったね・・・俺はアイテムボックスからイ00040番とイ00050番の一貫文紙幣を取り出して渡す。
「ありがとうございます」
武野紹鴎さんがほくほく顔で出て行ったので、俺は部屋に積まれたものを次々とアイテムボックスに放り込んでゆく。後日、武野屋でチョットした怪談話が囁かれることになる。
余談
「さあ、始めるぞ。何が出るかな、何が出るかな、ちゃらぁららら、ららららぁ、ぽちっとな」
施薬不動院に戻った司箭院興仙さんが謎の踊りを踊りながらガチャのボタンを押す。
がしゃん。ぽん。
ゴトンという重い音がして本堂に巨大な青地に白いまだら模様が鮮やかな石の蟹が落ちてくる。甲羅は横に潰れた六角形。頭部にはギザギザのとげが並んでいて、左右には一際大きなとげが突き出している。鋏脚にも多くのとげがあり、振り回すだけでもかなり凶悪な武器になる。後脚は先が平たく変形した遊泳脚。水中ではかなりの機動力を発揮するはずだ。甲羅の部分が荷台のようになっているのが心憎い。うん。どう見てもガザミだよね・・・鮮やかな青に鋏脚長節が三つ。タイワンガザミかな?
SSR ストーンゴーレム (蟹型)
なんというか司箭院興仙さん欲しがっていたゴーレムを一発ツモである。で、喜んでいるかと言うと身体をへの字にして床に突っ伏していた。うん。わかる。わかるよ。ボタンを押す瞬間、少しでも多くガチャを押したいって思ったんだね。げに恐ろしきは物欲センサーの感度。認可が下りるまで心行くまで押して貰おうか・・・
なお、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます