第167話 閑話 波浪院の百鬼夜行

1533年(天文2年)9月某日


- 京 施薬不動院 -


 主上の即位礼正殿の儀は、雲霞の如く集まった庶民が庭上にも乱入するという珍事に見舞われたがなんとか終わった。で、大量に生み出される大量のゴミや表に出せない処分もできないお手紙の数々。請け負った端からガチャ箱に投入されていく。ゴミも積もればお宝になる。


「何が出るかな、何が出るかな、ちゃらぁららら、ららららぁ、ぽちっとな」


 司箭院興仙さんが謎の踊りを踊りながらガチャのボタンを押す。


 がしゃん。ぽん。


 R ジャガイモ100個(男爵50個・メイクイーン50個)


 おお、ジャガイモさまじゃ・・・これでカレー(完全体)がこの世界に降誕なされる。ちなみにタマネギはガチャでニンジンは明(中国)と貿易を始めたときに入手済みだ。


「これはなんじゃ?」


 ジャガイモを片手にじろじろと眺めながら司箭院興仙さんは唸る。


「ジャガイモという芋です。サツマイモほどではありませんが救荒植物になります。何より酒のツマミになります」


「個人的な感想じゃろ・・・」


「何か問題でも?」


「ある訳がない」


 ふたりして悪い顔をする。(悪いダメ人間の典型)


「ただ、生で食べたり、生えた芽は食べないでくださいね。危険です」


「おお、気を付ける」


 なお、それから二日間連続でジャガイモが出た。司箭院興仙さん大激怒のち大歓喜。チップスポテチにフライドポテト大変美味しかったです。ビールだビールを所望する!



1533年(天文2年)10月31日


- 京 施薬不動院 -


ごーん


 施薬不動院の鐘が18時 (毛利領では時間は24時間である)を告げる重厚な音を鳴らすとともに境内の松明に明かりが燈る。


「さあ始まるぞー」


 真っ黒な狩衣と烏帽子を被り、表側に黒色の、裏地側に赤色の衣被 (ベールのようなもの)を肩に掛けた服部半蔵くんが錫杖を振るう。


「いくでガンス」


 オオカミの毛皮を頭から被ったマタギ姿の世鬼煙蔵さんが鉈を振り上げ叫ぶ。


「ふんがー」


 赤と青の継ぎ接ぎした肉襦袢に身を包み、顔にも継ぎ接ぎを描いた今川貫蔵さんが金棒を振って吠える。和製の吸血鬼、狼男、フランケンシュタインを表現したのだが上手く表現できているだろうか?間違っていると指摘されることはないだろうけど・・・


 とん、ちん、しゃん


 軽快な音が鳴り響き、彼らの周りに、鬼や骸骨の面を頭に付けた人が手に提灯を持って集まってくる。いまから行うのは、俺が最初に貰った村で始めた秋祭である。本来は子供だけのお祭りなのだが、今回は治安や防犯を考慮して父兄同伴だ。参加する面々は顔に赤鬼面や青鬼面。幽鬼や骸骨に見える扮装をしている者。狐面や犬面、猿面、猫面といった獣面を被っている者もいる。所謂お化けの集団だな。

 なお、これらお面や覆面は俺の配下である御伽衆の面々には非常に馴染みがあるモノで、頼んだらすぐに持ってきてくれたよ。普段から非常に悪乗りしているのが良く判る・・・


「それ、皆こい、持ってこい」


「「「「皆こい、持ってこい」」」」


 施薬不動院の山麓にある施薬院についたお化けの一団が掛け声を上げながら周辺の家の戸を叩くと、家の中から住人が出て来て米やら笹の葉に包んだ団子、栗や柿といった果物を渡す。いまから俺たちがやるのはハロウィンの仮装行列もとい主上の即位の礼を祝して行う提灯行列だ。


「ドウ見テモ百鬼夜行デス。本当二アリガトウゴザイマス」


 紙袋に入ったチップスポテトをバリバリと咀嚼しながら小山田虎親が呟く。ちなみに今の彼の姿は下半身がもふもふで上半身が裸で肌があおぐろく頭は捻じれた角を持つ黒山羊だ。はい。どうみてもバフォメットです。本当二アリガトウゴザイマス。


「御所から見ての鬼門の入口は、先日大急ぎで整備した賀茂大橋だったな、そこに向かおうか」


「大急ぎで整備とかこのブルジョアめ・・・」


 小山田虎親がジト目でこちらを見てくる。いいじゃないか。連れてきた兵を無駄に遊ばせるぐらいなら京のインフラ整備に活用したって。応仁の乱後の京って織田信長が実行支配下に置くまでかなり荒廃していたからね。


「では先導を頼む」


「御意」


 服部半蔵くんが錫杖をシャランと鳴らして歩き始め、仮装した人たちが提灯を持ってそれに続く。

 ・・・

 ・・

 ・

- 京 賀茂大橋 -


 俺は延暦寺のある方向に向かって二拍手する。


「では参ろうか」


 俺が合図を送ると「とん」「ちん」「しゃん」と軽快な音が鳴り響く。


「それ、皆こい」


「「「「皆こい、皆こい」」」」


 お化けの一団が掛け声を上げながら賀茂大橋を渡る。うん間違いなく百鬼夜行だこれ・・・

 一応、毛利氏とこの俺、畝方氏・・・京では施薬院氏の家紋の描かれた提灯と物差しを持たせているし、事前に通りの住人には告知しているから騒ぎにはならないだろう。と、不意に橋の方から雅な篠笛の音が聞こえてくる。


「やあ、楽しそうでおじゃ・・・だね」


 狐面を付けた10人ほどの従者を引き連れた、顔半分が骸骨の騎馬武者が篠笛を吹くのを止め、俺たちに話しかけてきた。もともと主上の即位の礼を祝うための催しだし正体がバレなければいいか。

 その後、仮装お化けの行列は大内裏の周りを時計回りに一周半して南西の方角へと立ち去っていったのだが、後にお化けたちが消えたという場所に波浪院という名前の神社 (院がつくけどね)が建立され、神無月最後の日に出雲(島根東部)に出かけた神さまが帰ってきたことを告げる祭のための夜行列が行われるようになったという。


-☆-

施薬不動院は位置的に円山公園かその麓の京都〇×大学だろうなぁ・・・

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