第137話 あっちで激怒、こっちで激怒、そっちで激怒で京の周りが荒れる

1531年(享禄4年)12月


- 京 山城(京都南部) 施薬不動院 -


 臥茶七曜の第一回会議のテーマは京に蔓延る宗教勢力への対応だった。史実通りに進むなら、京近辺の宗教分布は庇護する三好元長さんが討たれて日蓮宗が衰退し、三好元長さんを討った一向宗が台頭してくる。

 ただ織田信長と激突したときは巨大な戦国大名だった一向宗も、この時期はちょっと大きいぐらい。まだ抑え込める規模の集団だから叩いておく。

 臥茶七曜に堺の商人である武野仲材さんを引き込んだのも、一向宗を弱体化させるためだ。武野仲材さん、加賀で起きている大小一揆で山科本願寺に物資を援助している商人のひとりだからね。


「首領。宗滴殿の朝倉軍が加賀(石川南部)手取川で山科一向宗軍を撃破。下間頼盛が討死しました」


 服部半蔵くんが報告してくる。ふむ。どうやら朝倉宗滴さんに援助したかいが有ったようだ。ついでに山科本願寺を、武野仲材さんを通じて揺さぶっておこう。あと、一向宗を牛耳っている本願寺蓮淳によって二度も破門宣告されて困窮している南近江(滋賀南半分)の堅田本福寺にこっそり献金をして煽らせる。


「蓮淳は、この度の戦いに大敗した責任を取るべきではないか?」


 南近江の堅田本福寺、第五世住持である明宗を中心として、三河(愛知東部)の一向宗の間でもこの言葉に同調する者が出てくる。この動きに、もともと堅田本福寺を目の敵にしていた本願寺蓮淳が激怒。堅田本福寺を三度目の破門を宣言した。

 まあ服部半蔵くんと友好関係にある伊賀(三重西部)の有志の皆さんに情報操作をしてもらって堅田本福寺の破門宣言は蓮淳の逆恨みだと喧伝させたけどね。で、この混乱の最中、摂津(兵庫南東部から大阪北中部)にあった一向宗の大坂御坊が、厨から出た火によって一部燃失した。

 この小火騒ぎに乗じて「本願寺蓮淳の専横に天が怒っている」と三好元長さんにチョット動いて貰って摂津と和泉(大阪南西部)、河内(大阪東部)の一向門徒の間に悪い噂を流して貰ったんだけど、これがもう効果覿面。

 本願寺蓮淳が癇癪を炸裂させて関係者各位に当たり散らした。纏まりかけていた一向宗が摂津と山城と加賀と南近江・東海地方で分裂状態である。


「一向宗。そんなに封じなきゃならん相手なのか?」


 清酒をちびりちびりと飲みながら、司箭院興仙さんが尋ねてくる。


「仏の為に死ねば極楽に叛けば地獄に落ちるって、坊主に都合の良い御高説垂れてるんですよ?」


「ああ、なんかそんなことを言ってるらしいな」


 現状、仏の教えを守るが坊主の言葉を守るにすり替わって信者を煽っているのだから笑えない。古今東西を問わず良いも悪いも指導者リモコン次第なのである。


「死ぬのは誰だって怖い。その恐怖から救うのが宗教のハズなんですけどね」


「同じ仏教なんだがなぁ」


 ふたりして自嘲気味な笑いを浮かべる。ふたりとも肩書きだけは一応坊主だからね。


「まあ、いまの宗教を抑えるのは簡単なんですよ」


「ほう?」


 司箭院興仙さんは目を細める。


「腹一杯食うことが出来れば何とかなります」


「ああ、生きるの辛いから死後に救いを求める。それが解消できれば、そうか。唐芋サツマイモを筆頭に食うだけならうちには沢山あるからな」


「ええ・・・」


 俺は嗤って見せる。毛利領には栽培方法も耕作する土地も十分にある。多少安く売り捌いてもビクともしない。死後の世界の保証してくれるらしい宗教と、すぐにでも腹一杯食わせてくれる大名。いずれが支持されるかなんて火を見るより明らかだ。

 まあ、年数は掛かるけど、安く売り捌くことで東国の農業に致命的なダメージを与え、生産率がガタ落ちしたところで食糧を売るのを止め兵糧攻めをするというエグイ侵略方法もある。

 自給率大事。安いからで外国に完全に依存したら必ず手痛いしっぺ返しを食らう。気を付けないとね。


 1532年(享禄5年)1月


 細川高国さんを自刃に追い込んで名声を上げた細川晴元くんにすり寄っていた木沢長政が、細川晴元くんから勅を受けて、形だけの主だった畠山義堯さんを河内から追い出す計画を立てていたことが発覚した。(元々は畠山義堯さんに仕官していたが、とある事件をきっかけに出奔。細川晴元くんの元に身を寄せていたらしい)

 当然のことだけど、この事を知った畠山義堯さんが大激怒。三好元長さんに援軍を要請して木沢長政が居城としていた飯盛山城を包囲した。

 慌てた木沢長政が細川晴元くんに泣きついて仲介を求めたところ、細川晴元くんは一方的に木沢長政の肩を持つ形で介入してきて畠山義堯さんと三好元長さんに矛を収めさせることに成功する。

 しかし、畠山義堯さんの怒りが完全に収まったとは思わない木沢長政は、畠山義堯さんと三好元長さんの地位を追い落とす策を練り始めた。

 三好元長さんの従叔父である三好政長と共謀して、三好元長さんと細川晴元くんとの間を割くべく離間の計を仕掛けてきたのだ。

 贔屓にする木沢長政の諫言と三好元長さんの身内である三好政長の虚偽の告発を信じた細川晴元くん。再び三好元長さんに阿波(徳島)に蟄居することを言い渡した。三好元長さんが激怒したのは言うまでもない。

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