第135話 京は治まりそうで治まらない 軍事的にも文化的にも
1531年(享禄4年)9月
細川高国さんが自害したという報を聞いた元就さまは、翌日には将軍足利義晴さんを奉じて京に入った。ただ、主上と足利義晴さん、それぞれに正式に謁見して官位のお礼を述べると、異母弟である相合元綱さんに京の治安維持のための兵7000を預けると早々に安芸(広島)へと戻った。
足利義晴さんからは、元就さまに管領代にならないか?という打診を受けたそうだけど、大内義興さんの例を挙げて丁重に断ってもらった。
で、管領不在の状況に付け込んだのが細川晴元くん。どうやら細川晴元くん、細川高国さんを討って細川京兆家の家督と管領の地位が手に入ればそれで良かったようだ。松井宗信や木沢長政を通じて足利義晴さんとの和睦を画策しているという。
しかし古参の人間は足利義晴さんとの和睦に反対していた。何故なら足利義維幕府を蔑ろにする行為だからだ。反対派は三好元長さん以外には畠山義堯さんがその筆頭だ。なので細川晴元くん、最近では松井宗信や木沢長政といった新参者たちとつるんでいるらしい。木沢長政なんて先の戦で早々に京の守備を放棄して細川高国さんに京を明け渡した張本人なのにだ。
古参の言葉は諫言で耳に痛く、新参の言葉は甘言で耳に心地よいのだろう。
- 京 山城(京都南部) 施薬不動院 -
丹波(兵庫東部から京都西部)亀山城の建設指揮のため京に残っていた俺の元にひとりの男がお忍びでやって来ていた。
「儂は六郎(細川晴元)さまのためを思ってだな」
本堂で差し向かいに座っていた三好元長さんが「だん」と音を立てて湯飲みを床に置く。疱瘡神を踏みつける不動明王というこの寺の建立理由となった仏像を前に酒を飲むというのはいささか不遜な気もするが、まあ
「まあまあ」
俺は、主上にも献上した石見(島根西部)の清酒を三好元長さんの湯飲みに注ぐ。三好元長さんはぐびぐびと酒を飲み干す。悪い酒の飲み方だが、仕方ない。「まあまあ」と再び注ぐ。
「六郎さまは幼いころから聡明で」
三好元長さんの口から次から次へと自分の主への不満が零れてくる。頼られ、追放されるほど疎まれ、頼られて戦場で大活躍、今また疎まれる。でも本人には細川晴元くんを見放すつもりはない。何というチョロイン気質。
「しかし、なぜ大宰権帥さまは管領代にならなかったのです?」
三好元長さんはぎろりと目を動かし俺を見る。管領は武士としては将軍に次ぐナンバー3の地位だ。それを欲さない元就さまに疑問を持ったのだろう。
「九州探題の地位を得てすぐに管領代では多くの混乱を招きましょう。まぁ、うちには先の大内周防権介 (義興)殿が管領代としてどれだけ苦労したのかを知る者が多い。暫くは西国の治安安定に力を注ぎたいのです」
そう言って笑って見せると、三好元長さんは「はぁ」と深いため息をつく。
「大宰権帥さまにお伝えくだされ。公方さまに付かなかったことに感謝しますと」
「確かに承りました。そうそう。六郎殿との間、拗れれば最終的に仏敵討滅に及びます。ご注意を」
俺の言葉に三好元長さんは大きく目を見開く。
「それは?」
「最悪を考えてみてください。六郎殿が筑前殿という槍を折る力を求めるとして、どこに求めますか?毛利?六角?朝倉?京の周辺でですよ」
俺の言葉に、三好元長さんは口から干した烏賊の足を覗かせながら、ふむと唸る。今のところ三好元長軍に質で互するとすれば播磨(兵庫南西部)の赤松氏のみ。仮に足利義晴さんに取り入って、一応は足利将軍派の大名である毛利、六角、朝倉が動かせるかと言えば疑問だ。
ではどうするか?数で攻めるしかないだろう。俺が言いたいことを理解したのだろう三好元長さんが微かに震える。
「はは、肝に命じます」
三好元長さんは苦笑いした。
- 京 某屋敷 -
「書類大処分会を開催します!」
三好元長さんと入れ替わるようにやって来た司箭院興仙さんがそう宣言すると、俺の首根っこを掴み色々な屋敷を連れ回す。屋敷の人間と司箭院興仙さんと手分けして、表に出せない手紙やら書類とかを片っ端にエクスチェンジボックスに放り込んでいく。
途中から紙以外に、壊れた家具やもう着そうにない服とか投げ入れていく。気分は廃品回収屋である。家の人に物凄く感謝された。
- 施薬不動院 -
「何が出るかな、何が出るかな、ちゃらぁららら、ららららぁ、ぽちっとな」
怪しいリズムを口ずさみながら司箭院興仙さんがガチャ箱のボタンを押す。
がしゃん。ぽん。
出てきたのは長さ200センチ。最大径50センチ、重さ20.6キロという巨大な黒い木材。木材というよりは流木だな。
SSR 伽羅
「ただの汚い丸太なのに伽羅?え?SSR」
「お、欧仙よ。いま伽羅とか言わんかったか?」
「ええ。伽羅らしいです。この汚い木」
スパーンという心地よい音が鳴り響く。
「いったーい。何するですか!」
俺は頭をはたいた司箭院興仙さんに抗議する。
「えすえすあーるということは、最上品であろう。天下第一の名香と謳われる黄熟香、蘭奢待に匹敵するんじゃないのか?」
「・・・え・・・本当に?」
思わず聞き返す。蘭奢待って言えば、織田信長が権力にものを言わせて正倉院から強奪したあの蘭奢待だよね?
「調べるべきじゃな」
司箭院興仙さんが真面目な顔をして断言した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます