第131話若狭武田の合流と因幡山名の降伏
1531年(享禄4年)1月
元就さまと細川高国さんという二匹の虎の威を借る浦上軍は、その後、在田源次郎の有田城と小寺政隆の小寺城を順次攻略。小寺政隆を自刃に追い込んだという。
一方我が毛利軍と言えば実にのんびりしたもので、但馬(兵庫北部)の国人衆を降伏させつつ京へと進んでいく。
「相手に合わせて進む。以外と難しいものだな」
元就さまが、今マイブームである煎茶を飲みながら地図を眺める。世鬼煙蔵さんの情報によると、浦上軍は細川高国さんと合流して播磨を更に西に進んでいるという。
「武田大膳大夫 (元光)さまが面会を求めています」
「うん。会おう」
元就さまがちらりと俺の方を見るので、俺も頷く。しばらくして、がしゃがしゃと鎧を鳴らしながら、一人の男が現れる。
「お初にお目にかかります。(毛利)三位さま」
「うむ。お初にお目にかかる。大膳大夫殿」
武田元光さんの挨拶に、元就さまは頷く。
「お久しぶりです。施薬院殿」
「お久しぶりです。武田大膳大夫さま」
武田元光さんの挨拶に、俺も頷く。武田元光さんとは、京で疱瘡が流行したとき石見(島根西部)から若狭(福井南部)を経由して京へ物資を輸送する際に便宜を図ってくれたときからの縁だ。
「お約束通り、丹後(京都北部)の山名領と一色義幸をたいらげて参りました」
武田元光さんは深く頭を下げる。そう。今回の毛利上洛で息を吹き返したのは細川高国さんだけではない。桂川原の戦いで三好軍に夜襲をかけられ撤退。高国軍の敗北を決定づけるという失態を犯している。そのせいで隣国の丹後や国内の特に海賊衆から舐められ、治安を脅かされていた武田元光さんもまた息を吹き返していた。
「武田の合力を期待しても宜しいですか?」
「はっ。京までの露払いを務めさせていただきます。いえ、お許しいただけるなら毛利の末席に加えて頂きたく」
元就さまの言葉に武田元光さんは力強く頷く。というか、臣従の申し込みである。元就さまの顔を見ると、問題ないと頷く。
「大膳大夫殿のお心承りました。ただ、臣従に関しては現在表向きにはお断りしております故、この地が安定するまで棚上げといたします。よろしいでしょうか」
元就さまの顔を見て頷いたのを見て武田元光さんの顔を見る。一応、今の毛利氏は臣従の申し込みを全て突っぱねている。まあ、武田元光さんの臣従が内定したの、俺との取引があるからなんだけどね。これで海路を使った補給線の確保ができたのは大きい。
武田軍と合流した毛利軍は侵攻の速度を上げる。今や毛利は350万石を越える大大名。行く手を遮る国人はいない。あっという間に山名祐豊の籠る生野城に迫る。
先代の山名誠豊は細川高国さん派だったらしいけど、山名祐豊は細川晴元派に転向したばかり。再び旗幟を変え元鞘に戻ること、あと毛利氏に屈するのはプライドが許さないようだ。
あ、武田元光さんも老舗の名門だけど、そういうプライドはとっくに丸めてゴミ箱に投げ込んだらしい。毛利氏に降ることは問題ないという。毛利氏は土師氏を源流とした名門だし元就さまも従三位だからね。あれ?なんで山名祐豊は降るのを良しとしないのだろう?
数日後、毛利軍に取り囲まれた生野城は開城。山名祐豊は弟の山名豊定に捕縛された状態で元就さまの元にやって来た。山名氏は降伏し、頭領である山名祐豊は出家して宗詮入道を名乗ることになった。
1531年(享禄4年)2月
細川高国さんと浦上村宗の連合軍が摂津(兵庫南東部から大阪北中部)の池田城を攻めた。同時に将軍山城にいた細川高国さん配下の内藤彦七が挙兵。京に侵攻を開始する。
京を警護していた木沢長政は何の抵抗もせず遁走し姿を眩ます。まあ、北西の丹波(兵庫東部から京都西部)に毛利軍。南西の摂津に細川高国・村宗軍。北東に内藤彦七軍。普通に逃げ出すよねって話。
で、京を掌握した細川高国さんが京に入って内藤彦七に命じて、将軍山城の改修を行わせたそうだ。この将軍山城は、細川高国さんが等持院の戦いで三好之長軍に勝って両細川の乱にケリをつけたときに陣を置いた城。そのときの戦勝を記念して将軍地蔵を勧請したというから、たぶんゲン担ぎだろうね。
さらに細川高国・村宗連合は神呪寺城まで進軍。これに対して細川晴元くんは伊丹城と富松城に増援を派遣。全面対決のときは刻一刻と近づいているのであった。
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