第16章 旧体制の落日 編

第130話 京への上洛と依藤城の戦い

1530年(享禄3年)10月下旬


-安芸(広島)広島城-


 広島城に細川高国さんがやって来た。予想通り救援要請だった。単身でやって来たことは凄いんだけど、恩着せがましいのと上から目線が凄かった。俺は彼の御仁と面識があったので遠くから見てた。見つかって下手に絡まれても拙いからね。

 後から元就さまから聞いた話だと、細川高国さんはしきりと俺の事を探していたらしい。遠くから見ていて正解だった。


「で、どう回答すればいい?」


 元就さまが毛利の政策決定機関である内閣府の重臣を集めて会議にかける。俺と尼子経久さんが助言役として参加だ。


「最善は無視すること。既に管領殿に力は無い」


「それが出来れば苦労せん」


 外交担当である口羽広良さんの提言に元就さまは笑う。まあごもっとも。


「因幡(鳥取東部)から但馬(兵庫北部)、丹波(兵庫東部から京都西部)を経て京に入る。高国には波多野を討つと言えばよいでしょう」


 中国地方方面軍の総司令であり異母弟である相合元綱さんが提言する。


「備後(広島東半分)から備中(岡山西部)、備前(岡山南東部)、播磨(兵庫南西部)を経て京に至らないのは?」


「管領殿に備前守護代の浦上掃部助殿が合力するようです」


 元就さまの問いに相合元綱さんが答える。


「合流しなくても良いのか?」


「浦上掃部助殿には播磨統一の野心があります」


「ああ、だとするなら我らと合流するのは嫌がるか」


 元就さまは静かに頷く。この辺は事前に打ち合わせている。まあ会議と言うより説明と認可だな。


「では、管領殿にはそう提案しよう」


「「「ははっ」」」とその場にいた全員が頭を下げた。


 1530年(享禄3年)11月上旬


 元就さまから京への上洛の約束を取り付けた細川高国さんは、上機嫌で現在拠点にしている備前に戻っていった。元就さまは、すぐさま阿波(徳島)の三好元長さんに、山陰を経由して上洛することを知らせる手紙を出す。ついでに、伊予(愛媛)から讃岐(香川)に攻め込むフリはするが攻め込まない・・・三好と敵対することがないことも伝える。

 三好元長さんからの返事は、毛利軍の欺瞞行動の了承と、できれば細川高国さんを裏切り背後から攻撃できないかと打診をしてきたが、それはお断りしたようだ。流石にそれをやったら拙いでしょ。


「首領。播磨の別所就治が挙兵し、柳本賢治の援軍を得て小沢城に進軍を開始しました」


 世鬼煙蔵さんがやって来て報告する。柳本賢治というのは、堺公方である足利義維さん(厳密には細川晴元くん)配下の武将。確か元長さんとは犬猿の仲だ。

 一方小沢城城主の依藤秀長は浦上村宗派の武将。どうやら城に籠り徹底抗戦を行っているらしい。


「また、依藤秀長の後詰めのため、浦上村宗が兵8000を率いて出陣しました」


 兵を出す大義名分はあるけど、救援にしては数が多いな。ああ、ついでに播磨の統一を目指すのか。


 1530年(享禄3年)12月上旬


 - 因幡 布勢城 城下 -


 上洛のための軍編成が終了した。相合元綱さんの兵2000を先頭に、口羽広良さんの兵1500.島津貴久くんの兵1500。元就さまの本陣の兵4000。後詰めの熊谷貞直くんの兵1000と尼子詮久くんの兵1000の合計11,000。これに俺が率いる工作隊5000と弘中興勝さんが率いる輸送隊5000を加えた2万1千の上洛軍である。あ、熊谷貞直くんは有田中井手の戦いのとき敵方だった三入高松城の国人の熊谷元直さんの嫡男。毛利氏の家臣になった同期だ。立派になったなぁ。


「出陣」


 馬上の元就さまが朱の采配を大きく振り下ろして叫ぶ。室町幕府から屋形号の免許が許可されて使用が認められた道具のひとつだ。なお、元就さまとその供回りが騎乗する馬は体高165センチの体格のいい日向馬。見た目は俺が知ってるサラブレッド種に近い。

 相合元綱さんが指揮する部隊の騎馬1000騎は在来の小型馬なので、元就さまたちの馬と見比べると物凄い違和感を感じる。整列した毛利軍が静々と動き始める。


「首領。播磨の状況報告をいたします」


 立派な日向馬に乗った世鬼煙蔵さんがスルスルと馬を寄せてきて耳打ちしてきた。


「今か?」


「はい」


 どうやら動きがあったようだ。話を続けるよう促す。


「柳本賢治、陣中で暗殺されました。柳本軍は瓦解、別所軍は三木城に撤退する途中に浦上軍に襲われて別所就治は遁走。三木城が陥落しました」


 暗殺?と聞き返すと、柳本賢治は陣中で酒を痛飲して暴れ、供回りが逃げ出したその隙を突かれたらしい。お酒の悪い飲み方ダメ。絶対。

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