第14章 四国の分水嶺編
第114話 主上への九州平定の報告と近畿の勢力確認
1528年(享禄元年)12月
三好元長さんとの宴会は、準備に時間をかけたいという武野信久さん(堺商人・茶釜狸信者)の要望により、本来の仕事を先に済ませることにする。
「主上、御成りになりました」
声と共に簾の降りた上座に人の座る気配がする。
「面を上げよ」
促され静かに顔を上げる。簾越しだから表情までは判らない。
「主上のご威光をお借りしまして、我が主である大江治部少輔、九州の戦乱ことごとく平らげました」
そう言って主上(公式の場なので心の中でもそう呼ぶよ)に目録を乗せた長三宝(みたいなもの)を差し出す。
「・・・」
これは何じゃ?という主上の心の声が聞こえてくる。
「お借りしたご威光のお礼にございます。お納めください」
「・・・!」
あ、物凄い怒気を感じる・・・
「
怒気が緩む。この頃の朝廷の懐事情は本当に悲しいからな・・・ちなみに目録には、毛利、大内、島津、龍造寺からの連名で銭2000貫文を寄進することが書いてある。
「・・・、・・・」
覚えていろよという心の声が聞こえてきた・・・ような気がする。
- 京 山城(京都南部) 施薬院 -
「これが京周辺の状況です」
そういって服部半蔵さんは地図を広げる。地図には近畿の勢力が描かれている。
・越前(岐阜北西部を含む福井嶺北)は朝倉氏。
・北近江(滋賀北半分)は浅井氏。
・南近江(滋賀南半分)と伊賀(三重西部)は六角氏。
・美濃(岐阜南部)は土岐氏。
・尾張(愛知西部)は斯波氏。
・山城と摂津(兵庫南東部から大阪北中部)と和泉(大阪南西部)と河内(大阪東部)と紀伊(和歌山から三重南部)は細川(晴)氏。
・大和(奈良)は宗教の聖地。
・伊勢(三重北中部から愛知、岐阜の一部)と志摩(三重東端)は北畠氏。
毛利氏が九州を統一して揺らぎが出たのか、近畿の畠山氏と細川晴元くん以外の細川氏が勢力図から完全に追放されてる。
次に友好関係は、
・朝倉氏と浅井氏が若干親密。地図には無いけど朝倉氏と足利(義)が若干親密。
・浅井氏と土岐氏が険悪。浅井氏と六角氏が険悪。
・六角氏と足利 (義)が若干親密。六角氏と細川 (晴)氏が若干親密。
・北畠氏と六角氏が若干険悪。北畠氏と足利 (義)が親密。
あとの友好関係は親密-普通-険悪を揺らいでいる程度である。
ちなみに、後に美濃を奪う斎藤道三は土岐氏の家臣長井氏の家臣に、織田信長はまだ生まれておらず、父の織田信秀が尾張の斯波氏の元で台頭を始めた頃である。
「石山の本願寺は本格的に発展する前に叩くべきだな」
「首領さま。坊主はそんなに怖いのですか?」
服部半蔵さんは頭を捻る。
「死後を保証されて死を恐れない信者が怖い」
「ああ」と服部半蔵さんは手を打つ。この時代の戦、参加する兵の大半は農民兵で勝ち負けにはとても敏感である。少しでも不利になれば、命がとても大事で、簡単に離散し軍が崩壊することも珍しくない。だが宗教が率いる軍勢は違う。死後の極楽を保証をしてもらえる。いや、拒否すると地獄に落ちるとまで言われるのだ。
「なぜ石山はダメなのですか?」
「包囲殲滅をするにしても海路が使える石山では金がかかるからな」
服部半蔵さんは更に大きく手を打った。
「欧仙さま」
部屋の外から俺を呼ぶ声がする。
「どうした」
「朝廷から使者が」
「うむ。すぐ行く」
服部半蔵さんと視線を合わせ、俺は席を立つ。
「失礼いたします」
上座で待っていた使者、三条西公条さんに頭を下げる。三条西公条さんは三条西実隆さんこと逍遙院さんの次男だ。
「欧仙殿。朝廷よりの内示でおじゃる」
そう言って三条西公条さんは懐から書簡を取り出すと内容を告げる。
・元就さま・・・従三位と九州探題職の幕府への推薦。(九州探題職は筑前(福岡北西部)渋川氏の世襲だったが、今回の九州遠征で渋川氏が帰農したため)
・大内義隆くん・・・従五位上左京大夫。(なお大内義興さんは正式に家督を義隆くんに譲って隠居した)
・島津貴久くん・・・従五位下修理大夫。
・龍造寺家兼さん・・・従五位下修理大夫。
である。
九州探題は・・・当分無理だろうな。任命権限がある足利義晴さんが、支援してくれた朝倉教景さんが越前(岐阜北西部を含む福井嶺北)に撤退した途端に攻められ、少し前に再び京から逃亡していて現在行方不明だからだ。
「そうそう。九州探題職に推挙するにあたり、毛利からも幕府に幾ばくかは献金しておいて欲しい。探題職なら屋形号、白傘袋、毛氈鞍覆、塗輿、朱の采配の免許も許されるでおじゃるからな」
元就さまの称号にお屋形さまキター
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