第105話 郷のつく人による又四郎くん保護し隊(ゴウレンジャー)
福原広俊さんが、大友軍の兵3000を難なく蹴散らして帰ってきた。ついでに、大内軍兵5000が香春岳城を包囲していた大友軍兵12000と対峙して、双方ともに迂闊に動けない事態になっているという情報が入ってくる。
両軍が一度に激突できる平野が近くにある訳じゃない。しかも住んでいる豊後(大分南部)は敵が占領しているという非常事態。迂闊に動けないのも当然と言えば当然である。
「ではこの記録をお納めください」
そういって東郷十三さんが一巻きの巻物を差し出す。ざっと巻物を広げると、今回得たであろう射撃のデータが十三さんの所見入りで丁寧に書かれている。何故巻物なのか判らないけど、そこは彼のポリシーらしい。
「ではこれを」
俺は茶釜狸銅貨を3枚差し出す。お金だと(いや、茶釜狸貨幣もお金だよ?)無駄に使う可能性があるという理由で臨時の仕事の給金には茶釜狸貨幣を使っている。
「かたじけなく」
東郷十三さんは仰々しく茶釜狸銅貨を受け取ると、懐から革袋を取り出し大事そうに仕舞う。ちなみに東郷十三さんは、伊作又四郎くんのお世話係として石見(島根西部)に来た5人衆のひとりだ。
俺はこの5人衆をこっそり影でゴウレンジャー(郷のつく氏による又四郎くん保護し隊)と呼んでいる。
このゴウレンジャー。リーダーは本郷四郎剛士さん。暗器を使って敵を殺さずに捕縛する捕手術という技の使い手だ。
実力を見せる場で、正座で座っている四郎さんに木刀で殴りかかったら一瞬で取り押さえられて驚愕したのは良い思い出。熱血の正義漢。心の中でアカ・レンジャーとも呼んでいる。
次席は東郷十三重朝さん。弓術というか投擲術の使い手。弓だろうが投石だろうが鉄砲だろうが、飛び道具による命中率がとにかく高い。
弾の速度と相手の移動速度から、標的の未来位置を予想する力が凄いのだと思う。飛ぶ鳥を小石を投げて落とすとか初めて見た。クールな皮肉屋。心の中でアオ・レンジャーとも呼んでいる。
三席は南郷次郎三郎氏親さん。棒術というか大槌の使い手。身長が2メートルぐらいあって、幅も大きい。たぶんこの人が妖怪ぬりかべのモデルだよ。間違いない。
ゴーレムと並んで立つとゴーレムのほうが貧弱に見える。気は優しくて力持ちの大食漢。心の中でキ・レンジャーとも呼んでいる。
四席は西郷九兵衛基純さん。剣術の使い手。先手必勝の二の太刀要らず。まるで示現流のような剣技の使い手・・・と思ったら、単に打ち込む速度が異常に早くて二の太刀要らずに見えたというトンデモさんだった。
槍の突きに至っては一瞬で五段突きとか洒落になってない。もっとも普段は明るい・・・いやお調子者。心の中でミド・レンジャーとも呼んでいる。
そして末席というか番外というか紅一点の北郷美華ちゃん。又四郎くんのお世話係だと言い張る少女。もっとも若干13歳にして矢滝城の井戸端会議という情報機関を持っている末恐ろしい女傑である。
なんでも日向(宮崎)都城を本拠とする北郷忠相さんの次女らしい。本人もそう言ってた。無論、そ、そんなこと信じていないよ?考えるだけでも恐ろしい。心の中でピンク・レンジャーとも呼んでいる。
ただ、心の中で呼んでいるのにも関わらず、呼ぶと何故か気付かれる。というか底冷えする殺気のある目で睨まれる。
で、彼らの目下の任務は、伊作又四郎くんのお世話をしながら伊作氏が作った500貫文という借金の返済である。
そう東郷十三さんがこの度の遠征についてきたのは、鉄砲の実戦データ収集という内職のためだ。
「九兵衛は戻りましたか?」
東郷十三さんが、今回の遠征についてきたもう一人の同僚について尋ねてくる。
「手紙はきた。伊東氏の参戦は促せなかったが、動きは封じたらしい」
「ほう。それは重畳」
東郷十三さんは僅かに笑う。結構珍しい光景だ。
「ただ、島津実久は大友を支援するらしい。兵をかき集めている」
「馬鹿ですな。
東郷十三さんの笑いが冷たいものに変わる。まあ、こちらの当初の予定通り、豊後(大分南部)西山城には毛利軍兵6000が着陣している。そして3日後には兵は8000に、食料も順調に到着している。
知らずに飛び込んで来たら、擂り潰されるのは必定なのだ。
「実久の背後を脅かすよう、
東郷十三さんが意味ありげにこちらを見てくる。早い段階で、
「報酬込みで10貫文。将来の本領安堵」
「十分であります」
東郷十三さんは深く頭を下げた。
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