第86話攪拌同盟?いえ単なる怪しい一団です!

 松がケロケロした原因は多分妊娠。手帳の予定表に記した「くるべきもの」がもう3カ月来てないと。つねに報告をしなさいと松に注意したら、聞かない俺も悪いと久にガッツリ怒られた。ごめんなさい。

 久は旅行に来る前にきちんと「きた」らしい。なお旅行は残りの日程も少ないこともあり継続となった。


 昨日の酸化鉄で赤い血の池地獄。硫酸鉄でコバルトブルーの海地獄に続き、今日は熱湯が間を空けて吹き出す竜巻地獄。高温の泥が坊主の頭のように膨れ出てはじける鶴見の坊主地獄と見て回る。


「大変です首領」


 今川貫蔵さんがやってきて耳打ちをしてくる。なんというか凄い既視感。


「大友家家臣の大内高弘が兵50を率いてこちらに来ているようです。ただ、大内左京大夫さまを迎えきたような気配がないのです・・・」


「さもありなん」


 貫蔵さんの言葉にそう答える。

 大内高弘。前の名前を大護院尊光という。大護院の名から推測できるように、以前は出家していて僧籍にあった、義興さんの庶兄だったか弟にあたる男で、27年前の1499年(明応8年)に、大内氏の重臣だった杉武明が、豊後の大友親治と組んで謀反を起こそうとした際に、大内義興さんの代わりとして担がれる予定だった。

 もっとも謀反計画は事前発覚し、杉武明は粛清。大護院尊光は豊後に亡命したあと還俗し、大内高弘を名乗り、大友氏の客将に。大友義鑑にとっては、大内氏を乗っ取るチャンスが訪れたときに使用できるレアアイテムだ。うちに義隆くんがいるから、大内氏の後継者としてのレアリティは腐ってるんだけどね。


「では正体を隠して助けに行こうか」


「御意」


「正体を隠して」という言葉に貫蔵さんは悪い笑顔を浮かべる。多分俺も悪い顔をしている。


「俺と貫蔵さんは絶対としてあと3人の選抜を」


「はっ」


 貫蔵さんの笑顔が眩しいよ。



 - 三人称 -


「左京大夫さま。前方より兵の一団が接近していると」


「兵の一団?」


「はっ。その数およそ50」


 内藤興盛の言葉に大内義興は眉をひそめる。大友義鑑から、自分に出迎えを寄こすという話は聞いていなかったからだ。


「胡散臭いな。数からして野盗の類ではないと思うが・・・旗はあるのか?」


「いえ、それが・・・ありません」


 内藤興盛は言いよどむ。


「野盗の類か・・・」


 大内義興はちらりと供回りを眺める。10人ほどだが、百戦錬磨の強者ばかりだ。


「なら撃退するしかなかろう」


 大内義興の言葉に供回りの人間は良い笑顔を浮かべる。


「迎撃準備だ」


「「「「「「「「「応」」」」」」」」」


 大内義興の周りから豪気な声が上がった。


 - 主人公 -


「うむ。間に合ったようだな」


 10対50の乱戦の現場を眼下に望み、俺は安堵の息を吐く。義興さんの旅が急ぎでなかったのと、俺を含む5人の人間が驚異的な身体能力を持っていたのが幸いした。頭上で旋回していた配下の鷹に合図を送ると、鷹はさらに高度を上げて視界を確保する。


「着装」


 俺が命令すると貫蔵さん以下4人は覆面をする。

 二本の刀を両手に真っ赤なハートマークを描いた覆面を装備した貫蔵さん。

 身長に迫る斬馬刀に蒼いスペードマークを描いた覆面を装備した才蔵さん。

 痛々しい棘がびっしりと埋められた星球式鎚矛に朱色のダイヤマークを描いた覆面を装備した佐助さん。

 破城槌に黒いクラブマークを描いた覆面を装備した十蔵さん。

 そして、巨大な鎌に右半面は嗤い左半面は泣いているように見える道化師の仮面を装着した俺。

 はい。どこからどうみても秘密結社の怪人とその手下の一団です。


「義を見てせざるは勇無きなり。助太刀いたぁああああああああああす!」


 巨大なメガホンで戦場にむかって大声で叫ぶ。一瞬だけ静寂が支配する。


「いくぞ!」


 俺の命令を待って貫蔵さんたちが丘の斜面を駆け下りていく。当然俺もその後を追う。


「拙者、王者の心きんぐおぶはーといざ尋常に勝負」


それがし女皇の剣くいーんざすぺーど。掛かって参られよ」


「我は従僕の貨幣じゃっくいんだいやどっからでもかかってこい」


「俺は槌の英雄くらぶえーすである。邪魔する奴は叩き潰す」


暗黒の鬼札ぶらっくじょーかーおして参る」


 事前に取り決めていた敵味方ドン引きの名乗りを挙げながら俺たちは突っ込んでいくのであった。

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