第77話周防・長門の今後

1525年(大永5年)8月


 筑前(福岡北西部)の大内義興と毛利氏との間に和議が成立した。大内氏は長門(山口北西部)、周防(山口南東部)の所有を放棄し、毛利氏は大内氏を慕う国人や領民。京での戦災から逃れてきて引き続き大内氏の庇護を欲した公卿を筑前に押し付けた。なんだかんだで三千人近くの人間を筑前に送ることになった。公卿の三分の二が大内氏を頼って筑前に落ち延びて行ったのは笑ってしまったよ。

 捕縛された義隆くん(昇格)は人質として安芸(広島)吉田郡山城に残ることになった。彼の嫁を名乗る万里小路貞子ちゃんが萩から乗り込んで来たのはちょっとびっくり。長らく義隆くんの補佐を務めていた陶興房さん(昇格)が傅役というか補佐というか警護のためにやってきたのは想定外だった。

 そしてすぐに、彼と共に捕らえられた弘中興勝さん(昇格)と共に俺の石見(島根西部)矢滝城で預かることになる。俺が義隆くんの助命嘆願をしたのだから、責任をもって監視しろという事らしい。いつまでも元就さまのお膝元に置いておくのもなんだしね。


 まず筑前からの防御拠点にするため長門の西端、あの源平合戦の決戦の地である壇ノ浦を望む場所にある甲山城の大改築を行う。これは、今年の長門では農作物の収穫に全く目途がつかなかったことによる救済策という意味合いがあるので、領民たちには賦役ではなく銭雇いという形にしてモチベーションを上げさせた。

 材料は甲山城から半径5キロ以内にある城の大半を破却して集めた。抵抗なく城を破却できたのは、城が多いということは維持費その他諸々がかかり過ぎて大変だと石見を平定したときに書類片手に元就さま以下家臣の皆様を納得するまで説得した成果でもある。城があり過ぎるということは、奪われたときに奪い返す時にも手間が掛かるってことだしね。


 戦働きなく手に入った周防は、安芸と長門に挟まれ完全な安全地帯になったこと、今年の周防と長門の食糧事情を鑑みて、俺の指示のもと空いている土地という土地を片っ端から唐芋サツマイモ畑に替えていった。晩秋。広大な唐芋サツマイモ畑を見た志道広長さんが膝から崩れ落ちて号泣し、尼子国久さんが「芋焼酎」と雄叫びを上げるのだが、それは別のお話である。


 また周防では実験的に統治の方法を変えてみる。土地はすべて毛利氏の直轄とし、治安維持の武官や政務を行う文官は試験で選抜し銭で雇う簡単にいえば中央集権方式を導入してみる。一応、名目として吉川国経さんに周防に入って貰ったけど、肩書は守護代とかではなく代官で。

 なにしろ鎌倉時代から明治維新まで続く御恩と奉公。いわゆる本領安堵と新恩給与には、領主が安堵すべき本領は有限という大きな欠点がある。

 元寇が襲来したときのように新恩が発生しても与えられる給与が少ないと貰う側に不満が溜まって結果倒幕に至った過去もあるからね。

 なにより、親の資質を子が受け継ぐかはどうかは未知数であり、外れたときに自身も周りの人間も悲惨が襲うことになる。

 だからといって中央集権が素晴らしいかというと、採用側の贔屓や色眼鏡、採用を希望する側の賄賂やコネで簡単に狂っていくという問題が出てくるんだけどね・・・まあ、この辺は追々改革かな?


 ちなみに、俺は畝方村と矢滝城周辺の本領を元就さまに安堵して貰って、石見銀山や温泉津港の経営で得られる利益の3割を銭で貰う方式を取っている。客将である桂広澄さんと司箭院興仙さんを含む配下全員が、新恩給与は俺からの銭払いだ。

 とくに本領経営の経験がある今川貫蔵さん世鬼煙蔵さん広澄さんからは、文官仕事に力を割かなくていいと評判がいい。最初は土地を欲した服部半蔵さんも、住居以外の土地は早々に返上し銭払いに変更したんだよね。金を貰って領内で商品を買って、諜報活動の傍ら諸国で売り捌いた方が儲かるから。


 - 石見矢滝城 愛宕司箭院学舎 -


「諸君らはこれより数年間。この学校でいろんなことを学んだ後、周防や長門を立て直すために働いて貰います」


 俺の言葉を、目の前の10歳から15歳の子供たち200人ほどが真剣な顔で聞いている。彼ら彼女らは今回の周防と長門の混乱で全てを失った者たち。一将は得難いけどそれを支える人材は育ててなんぼだから。

 戦国時代だと政治の世界で女性が活躍することは特殊な事情でもない限りまずないけど、緊急で人手を集めなければならない周防ではいまがその特殊な事情だ。採用試験の基準は老若男女を問わない方針でやってる。

 さて、どんな人材が集まって巣立っていきますかね?

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