第4章 東部戦線 戦あり

第29話久光。死んでしまうとは情けない・・・

 尼子国久さんの村を出た俺は南東に向かって走り出す。安芸(広島)に戻ると言ったがあれはウソだ。目指すは備後(広島東部)の加井妻城。ここを高橋氏に押さえられると、毛利領と石見がますます分断されてしまうので、石見(島根西部)の銀山を貰う予定の俺としては面白くない。掘り出した銀の運搬に陸路が使い辛くなる。潜在的な敵に情報をくれてやる訳にはいかないからね。


 山の麓に入ると、タブレットを取り出しゴッドアイアースを起動。加井妻城までの最短経路を検索。同時に周辺にいる配下のオオカミたちに招集をかける。主に獣除けだけどね。

 「うおおおおおおお」と山に向けて叫ぶと、暫くして山の方から遠吠えが返ってくる。そして三頭のオオカミが姿を現す。オオカミと意思疎通ができるのは俺のチートではなくオオカミ側のチートっぽい。ある程度の交流があるとチートでなくても交流はしてくれるらしいけどね。

 少なくとも神楽団の娘たちとは仲がいいようだ。餌をやっている姿をたまに見る。ローテーションを組んで肉を食べにくるオオカミの群れってどうよ・・・


「よろしく」


 さっと右手を上げ挨拶を交わし、山に入る。それから縄張りの区域が変わるごとにオオカミのローテーションが変わる。出雲(島根東部)を出て中国山脈を越え、二日ほどで備後、加井妻城が見える所まで到達する。


 備後の加井妻城は江の川と上村川との合流点に築かれた山城で別名は青屋城。あと粟屋城とか卑城とか飼地城と呼ばれる城だ。城主は三吉一族の青屋友梅。高橋氏と三吉氏の勢力の境にあって、すでに触れたけど、高橋久光さんの嫡男である元光が1515年(永正12年)に攻めるも討ち取られた因縁の場所だ。

 つまりどういうことかというと・・・あ、既に城のある尾根の最北にある突端部の郭から煙が上がっている。速いなぁ・・・ヤル気満々じゃないか。

 望遠鏡を取り出し、城の周りを眺める。いたいた。陣幕は張ってないが、煙の上がっている郭の麓から少し離れたひらけたところに高橋久光さんの本陣がある。しかし、いくらなんでも陥落が速すぎやしないか?

 ・・・ああ、なるほどワザとか。今回の絵を描いたのは周防(山口南東部)の大内義興かな?。高橋久光さんで備後に尼子氏を釣り出す為の贄とする。あたりだろうか?高橋久光さんの動きが早過ぎて失敗した感があるけど。

 俺は索敵範囲を広げる。たぶん三吉氏は高橋久光さん本隊を討つ別動隊を出しているはず。何度か高橋久光さんの陣と周囲を眺めていると、不意に高橋久光さんの陣が崩れる。

 来たか!?望遠鏡で周囲を見回す。いた。三吉氏の部隊だ。かなり多い。勝ったと油断していた高橋軍にこの奇襲を受け止め跳ね返すことは出来なかった。やがて高橋久光さんの本陣で槍の穂先に首が括られて晒される。望遠鏡に飛び込んで来たのは正月に月山富田城で会った高橋久光さんの首。

 「ああ高橋久光。死んでしまうとは情けない・・・」いや知ってたけどね。史実より半年ほど早い退場だ。


 隠居して孫の高橋興光さんに家督を譲っていたとはいえ、この度の戦の総大将である高橋久光さんが討たれた高橋軍は敗走を開始した。それを見逃す三吉軍ではない。即座に追撃が開始される。

 加井妻城の戦いの結末を見た俺は、側にいたオオカミの首に戦いの詳細を書いた手紙を巻き、急いで安芸の俺の領地に向かって貰う。元就さまは、周防から安芸に東進してくる大内軍に備えるか敗走する高橋軍を助けるために後詰に入るか・・・とりあえず安芸に戻ろう。今の俺が出来るのはここまでだ。



 1日と半分かけて安芸の三入高松城まで戻って来た俺は、城の麓にある土居屋敷に入る。コンクリートで石垣と城壁を大幅強化しているので、郭といっても良いけどね。

 ちなみにコンクリートは粘土と砕いた石灰石を混ぜて高温で焼成し、できた塊を粉砕して作ったセメントに砂と砂利を混ぜたものだ。石灰石の焼成も粗銅を溶かすときの窯を利用しているので地球にやさしい・・・はず。


「三四郎よく戻った」


 三入高松城の城代である志道広門さんが出迎えてくれた。鎧を着ていないという事は志道広門さんは出陣しないという事かな?


「殿は高橋の後詰めに入るそうだが、俺たちは留守居だ」


 志道広門さんが正解を教えてくれる。いま芸北で毛利と敵対している勢力はない。五龍城の宍戸氏とも尼子氏の西進が本格化した辺りで不可侵協定を結んでいる。

 それに対し三入高松城は近隣に先代当主を討たれた武田氏という敵がいる。城を開けたら喜んで攻めてくるだろう。すぐに西からの脅威で顔色を変えるだろうけど。


「で、お前さんはどう読む?」


「殿の後詰めの成果次第でしょう。雪が降るまでには武田は動員を完了させるでしょうし」


「だろうな・・・」


 志道広門さんは小さく頷く。雪で進軍スピードが落ちれば武田氏が動かない訳がないのだ。


「とりあえず150人ほど近隣から兵を募集しましょう」


「はぁ?」


「武田が兵を集めることを妨害できますし、あと、この城の防御も少し高めておきましょう。なに、資金はそれがしが都合します」


 俺がそう提案すると志道広門さんはポンと手を打った。



 とりあえず元就さまに許可を貰って三入高松城補強の人足という形で人を募集する。三入高松城領内からの賦役による招集ではなく、銭による日雇いだ。たぶん近隣の国人たちが密偵を紛れ込ませてくるだろうけど、こちらの力を見せるにはいいデモンストレーションだと割り切ることにする。


「まず大きく40人で組を5つ作り、その後小さく10人で組を作れ」


 人足募集は大反響で、近隣の村々から200人ほどの人間が集まったので組み分けを行う。秀吉得意の早普請の採用とガチャで出たシャベル、ツルハシ、土嚢袋、ネコ車(一輪車)をお手本に生産した道具を工事現場に投入する。

 そして城の周りに空堀を掘って、出た土を土嚢袋に詰めて土嚢の壁を築いていく。土嚢の壁は高さ9尺(2.7メートル)堀は深さ10尺(3メートル)で完成したら上からコンクリで固めていく予定だ。


「なお、割り当てた区域を一番最初に完成させた組には追加で1いや2貫文(2000文)を払おう」


 野太い歓声が上がる。ちょっと太っ腹なところを見せておこう。金は(造るから)ある。

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