第27話経久さんと都合のいい起請文を交わす(多分裏になにかいる)
起請文は人が契約を交わす際、それを破らないことを神仏に誓う文書で単に起請ともいう。各地の社寺で頒布される牛王宝印という護符の裏に約束や契約の内容を書くことを前書。
次に差出者が信仰する神仏の名前を列挙することを神文。最後に約束を破った場合にはこれらの神仏による罰を受けるという文言を罰文という。
特に熊野三山の牛王宝印(熊野牛王符)がよく用いられ、熊野の牛王宝印に書いた起請文の約束を破ると熊野の神使であるカラスが三羽死に地獄に堕ちると信じられていた。
最初、尼子経久さんの冗談だと思っていたが、尼子経久さんは本気だった。すぐさま佐陀大社に使者を送り起請文を取り寄せる。
起請文
永正十七年一月二十日。
天の判定をお願い申し上げます。
佐陀大社と畝方神社、および日本国中一万三千七百余所の大小の神神の御前に謹んで申し上げます。
一、
一、尼子又四郎経久は畝方三四郎元近の米作、酒造、銀精錬技術を提供に対し石見銀山を提供する。
もしこの契約を畝方三四郎元近が破れば畝方三四郎元近は尼子又四郎経久に命を差し出す。
尼子又四郎経久が破れば尼子又四郎経久は畝方三四郎元近に血族を嫁がせる。
これを神々の力をもって行使することをお願い申し上げます。
畝方三四郎元近
尼子又四郎経久
吉田孫四郎国久
罰文は、最初は両者とも破ったら死!だったけど、それは俺が破った場合のみで勘弁してもらった。経久さんの命を賭けられても困る!と言ったら、経久さん国久さん共に笑われて結局、経久さんの血族から嫁を貰うという約束を交わすことになった。
あれ?待って・・・よくよく考えたらどっちに転んでも尼子氏大勝利になってない?神さま・・・なにやら作為的なモノを感じるのですが?
そして孫四郎さんも何も言わなかった。守るつもりもない約束なので、父親が見てきたという米作と酒造の技術が手に入るのなら一興というやつだろう。孫四郎さんって、後の尼子の親衛隊「新宮党」の頭領、尼子国久だったんだね。
なにやら神さまの作為的なナニかを感じる起請文を交わしたが、交わした以上はお仕事である。部屋を借りて元就さまに手紙を書く。
尼子氏側に検閲されても良いように内容は{尼子で農業指導するから春まで帰れません。誰か手伝いに寄こして」である。手紙を国久さんに預け、米作と酒造についての教科書を書き始めることにする。
1520年(永正17年)2月。
尼子氏の館に滞在して1週間。米作と清酒の製法の教科書の完成と、濁酒から清酒が出来るのを確認した尼子経久さんが兵2500を率いて上機嫌で月山富田城を出陣した。
清酒というと濁酒の中に誤って灰を落として一晩置いたら清酒になりましたという寓話があるけど、宮中で供された黒酒が、何らかの理由で飲み残されて清酒の発見になったんだと思う。黒酒は久佐木を炭化させ、粉末にした灰を白酒に加えたものだからね。
俺は久佐木を木炭に変更して濁酒を濾す方法で清酒を作る。尼子国久さんは技術のショボさにかなり憤慨していたけど、そういうものだよ。あまりに憤慨するので並行して新酒を仕込むことにしたけどね。
米作は指導しながら本にするということにした。銀精錬に至っては石見銀山と引き換えということになっている。
尼子経久さんの出陣は出陣というよりは巡行だった。出雲(島根東部)西部の出雲大社、鰐淵寺といった寺社勢力に三沢氏、多賀氏、真木氏といった有力国人に事前に回覧でも回っていたのか、ドミノが倒れるように尼子氏へと旗を代えていったのだ。
「ごめん」
「これは彦四郎殿。如何されましたか」
部屋に入って来たのは尼子国久さんを更にマイルドにした感じの塩冶彦四郎興久さんと、いかにも職人といった感じの太い眉毛に四角い顔のゴツイ体格のおっさんがひとり・・・
塩冶興久さんは尼子経久さんの三男で、尼子の将来の不安要素の人。名前の興久が意味するように大内氏寄りの人。尼子国久さんが出雲東部の引き締めの視察に出たので、代わりに酒を造っている俺の見張りになったそうだ。
「太刀斬の製作者を紹介いただきたく」
塩冶興久さんが頭を下げ隣りのおっさんも頭を下げる。おっさんは、たたら製鉄を造っている場所で刀鍛冶の修行をしている雲次さんというらしい。
「太刀斬、拝見させてもらいました。末青江の特徴をよく出しておられる。誰ですか?所々に俺も知らない新しい工夫があります」
末青江はいまから160年前の延文年間、いわゆる南北朝時代の青江鍛冶の総称で既に絶えた一派だ。しかし雲次さんが鑑定するに、末青江の「太刀斬」には所々に最近の工夫がみられるという。
すごいなそういうのが判っちゃう人なんだ。もっとも「太刀斬」なら既に鍛冶ゴーレムが再現できるから(当然だがR刀はガチャから消えた)作る工程を見せることは出来るんだけど・・・
「よい眼力をお持ちのようですが、
俺は苦笑いをして見せる。米作と酒造は
でも、高品質の武器の製造技術は保持者が俺の命令しか聞かないゴーレムなので簡単に教えるのは拙い。しかも、いま鍛冶ゴーレムの工房では灰吹法で粗銅や鐚銭から金、銀、銅を取り出して純銅製の私鋳銭を製造している最中だ。いまは専門家に知られる訳にはいかないのよね。
「判りました。見合うものを用意いたしますのでご一考を」
塩冶興久さんがそういって頭を下げた。え?なんで?
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