第25話秋祭り ~謎の出雲商人来襲~
1519年(永正16年)10月末日
例大祭の前日、夕暮れ。村のはずれの俺の前に7人の子供が集まっていた。子供たちの手には提灯が握られていて、煌々と明かりを灯している。
提灯は竹ひごを輪に組んで円状に巻骨を形成する京提灯・・・いや畳んだ時に胴の部分が蓋に収まるようにしているから小田原提灯かな。中の蝋燭は漆の実を蒸篭で蒸して加熱し圧搾して絞り出した木蝋で作ったものだ。この提灯と蝋燭は、今年の冬、村人の内職のためのサンプルだったりする。夜光灯は珍しいだけで実用性はないからね…
「では領主さま。いってきます」
年長の少年が俺に向かって頭を下げると、鬼やカラス天狗を模したお面を被って・・・
「みーなーこい」と大声で叫び、続く6人が「もーてーこーい」と後を追うように叫ぶ。
叫びながら村の家々を回り、戸を叩き、住民からキビ団子や蒸かした
神楽殿の舞台の上で手平鉦が、かしゃんかしゃんと響き、神楽鈴がしゃりんしゃりん鳴る。神楽笛のぴーひゃら、太鼓のとんとこという音が鳴り響く。
演じているのは石見神楽の「恵比寿」という簡単にいうと恵比寿さまがタイをエアフィッシングするという演目をアレンジしたものだ。完コピは難しいのでいろいろと簡素化はしている。
この演目の好きなところは、恵比寿さまが観客席に向かって菓子を撒くことだな。※演じる社団の演出により異なります。
お、恵比寿さまの竿にヒットしたらしい。竿が大きくしなる。
ばっ
空中にタイを模した袋が飛び出し・・・空中で分裂。観客席にタイの袋に詰まっていた紅白の餅がばら撒かれる。わぁわぁと村人や近隣の村からきていた農民、行商人が競って餅を拾っている。
大騒ぎだ。やりすぎたか?(なお後日、元就さまに怒られた)
例大祭当日。
日の出と同時に、昨夜村の子供たちが村人の家々から集めた食べ物が神社に奉納される。
「「「「「「「わっしょい」」」」」」」」
村の若い衆が神輿を担ぎ参道を駆けだす。若い衆には時間をかけて村中を田んぼと畑も含めて練り歩くように指示を出している。
境内には食べ物の屋台。といっても焼き芋とか焼き栗。蕎麦掻き蕎麦焼きといった簡単なもの。ちなみに蕎麦の実は、出雲からきたという謎の行商人が安く譲ってくれたものだ。
「やあ領主さま」
境内の一角を占領していた蕎麦の実を売ってくれた出雲からきたという謎の行商人の一行が湯飲みを掲げる。中身は戦国チートご用達である清酒。
春先に吉田郡山城の城下で流通していた濁酒を布で濾したあと樽に詰めて半年ほど滓引き。のちに炭を入れて濾過し、火入れして発酵を止めた清酒だ。
もっとも、濁酒を濾して作った清酒なのでアルコール度数は高くても17度。麹菌によって米のデンプンをブドウ糖に変える糖化と、ブドウ糖が酵母菌によってアルコールになる発酵を同じ容器で行う並行複発酵ならアルコール度数は20度近くになるので俺的には納得はしていない。
「まさかこの地で京の僧坊酒にも劣らぬ酒を鱈腹飲めるとは思いませんでした。いや甘露甘露」
おい謎の行商人。
ちなみに清酒自体は15世紀初めに奈良菩提山正暦寺ですでに作られていたと言われている。この正暦寺の作った菩提泉の技術を起点に、すでに山樽、大和多武峯酒といった奈良酒。越前の豊原酒に近江の百済寺酒。河内の観心寺酒といったブランドもある。
また1469年~1487年(文明年間)には西宮の旨酒、堺の堺酒、加賀の宮越酒といった地酒が産声を上げていたりもする。だからといって地方の一国人のさらにその部下である
「で、領主さま。今日はこの村に宿泊したいのですが宿はありますかな?」
謎の行商人が、つまみの蕎麦掻を食べながら尋ねる。
「寺にする予定の建物でよければ」
事情を知らない定純(四郎)が謎の行商人に掴みかかろうとしたが何とか抑える。殴った場合、知らなかったで済む相手じゃないんだよ。こらえてくれ。
「夜露が凌げれば十分ですぞ」
謎の行商人はかんからと声を上げて笑った。こっちが地か・・・
謎の行商人は毛利氏と吉川氏に立ち寄って商売をして、雪が降る前に慌ただしく出雲に帰ったらしい。元就さまに何を売って忠心を得たのだろうか?
史実ではこの後に元就さまは大内氏から尼子氏に旗を変えるんだよね。一番の可能性は血縁。謎の行商人と元就さまは吉川氏を通じて縁戚関係にある。この時代、養子であろうが書類上の血族であれば同盟として集合するのが普通なのだ。
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