第13話宮庄経友さんと知己を得る

1517年(永正14年)7月。


 元就さまのもとに小倉山城の城主である吉川国経さんの娘で妙さん(※史実では名前は不明。妙玖は法名)が正室として輿入れすることが決まった。※結婚については1513年(永正10年)、元就さまが多治比家を興した年に結婚したという説あり。

 安芸武田氏との戦を前に、吉川氏と多治比氏の絆を深めるためということだ。もっとも、輿入れしてくるのは当面の敵である安芸武田氏を撃退してからという結構でっかいニンジン作戦ではある。

 そしてこの婚姻が、元就さまのこれまでの波乱の人生がこれから混沌とした人生に切り替わることになる。具体的には、現当主の吉川元経さんの叔母にあたる吉川夫人が輿入れした先、出雲の守護代である尼子経久が、この縁を利用して調略の手を伸ばして来るのだ。

 ただ余計なことは言わない。なにしろこのお二人の間に生まれてくる子供たちは、どれも優秀で、結ばれてもらわないと非常に困るのだ。


「お初にお目にかかる。それがし宮庄下野守と申します」


 多治比猿掛城の弓の訓練場に、年の頃なら20代後半の青年がやってきて、俺に頭を下げる。この男性はこの度、元就さまに婚姻を申し込む吉川家の使者としてやって来た宮庄下野守経友さんだ。

 経友さんは、「鬼吉川」「俎板吉川」の異名を持つ吉川経基さんを祖父に、先代吉川氏の当主吉川国経さんを父に、現吉川氏の頭領である吉川元経さんを兄に、妙さんを妹に持つ吉川氏の重臣である。


「多治比家の食客をやってます三四郎と申します」


 俺が頭を下げると、宮庄経友さんが値踏みをするかのように眼を細める。なにしろ今の俺の立場は、志道広長さんが率いる隊の副隊長であり、多治比氏の弓術指導者の取り纏めでもある。単に腕に覚えのあった老猟師を集めて師に迎え、配下の人間にひたすら弓の特訓をさせるための武具、食住の工面をしているだけなんだけどね・・・


「弓か?」


「はい。数の差を少しでも埋めるためです」


 宮庄経友さんの問いに、武田元繁や熊谷元直が戦死する原因だからという訳にもいかないのでそういう。数の差を補うというのも嘘ではないからね。


「そのような短弓でか?」


「短弓隊は初手で敵の前衛を散らせればいいのですよ。槍にも工夫を凝らしてありますので問題ありません」


 宮庄経友さんの疑問に力強く応える。なにしろ今回の戦は戦力差が5倍だ。必要なのは敵を殺すことより、数多くの矢を撃ちだして敵の雑兵を牽制することの方が重要だ。


「槍に工夫?」


 宮庄経友さんが口の端をにいっと上げる。


「はい。おおい誰か、例の三間槍を持ってきてくれ」


 意外にも宮庄経友さんが喰いついてきたので、今回の戦で用意した三間(約五・四五メートル)もある長槍を持ってこさせる。ただ、短期間で数を用意することを優先させるため、穂先だけが立派な竹槍ではあるが。


「竹槍か」


 運ばれてきた竹槍を見て、宮庄経友さんの顔が納得したような、がっかりしたような顔をする。まあ厳密にいうと槍というよりは矛だもんな。

 あと、竹槍というと農民が一揆で使う先を斜めに切っただけの竹のイメージがあるけど、柄が竹ならいずれも竹槍と呼ばれたりする。明智光秀が落ち武者狩りで農民の竹槍に討たれたというのも先を斜めに切っただけの竹で討たれた訳ではないのだ。(たぶん)


「おーい。俺の槍もだ」


 ガチャで出したRな槍を持ってこさせる。今のところ元就さまと志道広長さんと俺しか持っていない正にレアな一品である。まあ、同じものがあと2本あるけどな。


「いずれ、この長さで統一した槍で部隊を編成しますが、今回は数を優先しました」


 前にも言ったけど、槍の主な使い方は突くのではなく叩くだ。きちんとした槍が揃わないなら、叩くだけに特化した(叩けるだけとも言う)槍で水増しするしかない。なに、戦までにはきちんと黒く色を塗るし、遠目に見たら立派な槍に見えるさ。(たぶん)


「なぜこの長さの槍を?」


「これより長いと扱いに難く、これより短かければ長さが生かせません」


「いやいや」


「叩くだけなら、2間半(約四・五メートル)槍より長い方が先に叩ける分だけ有利じゃないですか」


「ああ」


 俺から槍を受けとった宮庄経友さんは、槍の重さを測るように二、三度振る。そしてブンという風切り音と共に豪快に槍を振るう。さすが応仁の乱で「鬼吉川」とか「まな板吉川」という厨二な異名がついた吉川経基の孫である。見事な槍捌きだ。


「どうやらお気に召したようですな。どうです、お持ちになりますか?」


「なんと、こんな素晴らしい槍を頂けるのか?良いのか?」


 あまりにも欲しそうな顔をするのでそう話を向けると、宮庄経友さんの顔が喜色満面になる。稽古用の槍一本で有力者と縁が出来るなら安いものである。本番用の槍は、三國志の英雄である張飛の愛槍である丈八蛇矛ある訳だし。


「構いませんよ。それがし、槍を新調しまして」


 俺の言葉に宮庄経友さんの目が光る。


「それは是非とも拝見したいところですなぁ」


 ギリギリと俺の肩を掴む宮庄経友さん。痛い痛いですよ!

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