第12話対安芸武田家。現状の確認
一旦家の中に入った元就さまを前に一枚の紙を広げる。ゴッドアイアースで手に入れた有田城周辺の地図だ。今回は河や山、丘陵といった地形も完璧だ。
「ご説明します」
そう言って俺は白と黒の碁石を、白の碁石は安芸武田氏の今田城に置く。黒の碁石は吉川家の小倉山城と有田城。毛利家の吉田郡山城、多治比猿掛城に置く。
「武田軍は当主武田刑部を筆頭に熊谷、香川、己斐、伴、品川、粟屋、山中、板垣らの一族が今田城に入ったようです」
「農閑期以降に農兵を動員すれば四千。これに、いまは日和見の近隣国人が兵を出せば五千に届くかと」
「こちらは、吉川殿の兵と併せても千をいくらか越える程度だぞ・・・」
俺の説明を聞いた志道広長さんが唸る。吉田郡山城の北にいる宍戸氏を無視するなら、もう少し兵力を拠出できるだろうが、それは無理な話である。隙を見せれば、宍戸氏は容赦なく襲ってくる。千対五千。野戦であれ城攻めであれ、激突すればこちらが確実に擂り潰される戦力差である。
「よ、よく今田城に入った国人の名前が判ったな」
志道広長さんが顔を引きつらせながら笑う。
「周囲の国人衆に対する恫喝と従属圧力でしょう。いま今田城には国人たちの旗差しが翻っていますので」
そう言って俺が四郎に目配せすると、四郎はこくんと頷く。農作業にかかる時間を圧倒的に圧縮しているので、俺と四郎と六郎太で順番に今田城の偵察と有田城周辺の地形調査をしたのだ。
とくに熊谷元直と武田元繁、己斐宗瑞が討ち死した場所の地形は念入りに調査したのだが、このことは元就さまには言わない。手柄は俺が美味しく頂きます。
「そうか・・・ふむふむ」
元就さまが腕を組み、何やら思案している。
「情報の収集は重要です。いずれ、尼子の鉢屋衆に対抗しなければなりません」
俺の鉢屋衆という言葉を聞いて、元就さまが右の眉だけを器用に上げる。さすが元就さま。尼子忍軍の事を知ってたか・・・
鉢屋衆は、表向き祭礼や正月に芸を演ずる芸能集団だが、元を辿れば平将門の乱で将門に加勢した飯母呂氏にたどり着く一族だ。飯母呂一族は、常陸の筑波山へと逃れた一派が北条氏に仕えて活動した乱波の集団「風魔」になっているという折り紙つきの忍者集団である。
出雲の尼子経久との付き合いは、尼子経久が居城の月山富田城を京極氏に追い出され奪還する1484年(文明16年)から1486年(文明18年)からだと言われている。
「尼子忍軍。どうすればいい?」
「そうですね・・・戦乱に飢饉で孤児や捨て子といった身寄りのない子供を集めて、専門家に教育させればよいかと」
「専門家?」
元就さまが興味ありそうな顔をする。
「情報収集や破壊工作などの裏方活動の専門家の事を忍びの者といいます。身内であれば高橋さま配下の世木政親殿」
元就さまが嫌な顔をします。あと忍びとして有名なところでいえば、京は山城の東、南近江を治める六角氏が繋がる伊賀の伊賀衆や南近江の甲賀衆。京は山城の南、大和を治める畠山氏が繋がる紀伊の根来寺の根来衆や雑賀衆であると説明する。あと、彼らの扱いは基本使い捨ての傭兵であり、幾らか金を積めば来てくれるだろうということも話す。そして、鉢屋衆と同じように彼ら忍びを家臣として抱えることも提案する。
「まあ忍びの者の件は武田軍を撃退した後に話し合おう」
元就さまはポンと手を叩く。
「では作戦検討を」
まず考えられるパターンを俺と元就さまと志道広長さんとで話しあう。
その1。
武田軍が今田城を出陣したら速やかに吉川軍と合流し有田城に入り籠城。
→戦力差がありすぎ。主家である大内氏の援軍までとても持たない。
その2
武田軍が有田城を包囲する前に先制し一撃を与える。
→その後反撃してくる武田軍によって撃滅される。論外。
その3
武田軍が有田城を包囲したあと武田軍本隊を背後から攻撃。
→位置的に包囲網を大きく迂回する必要があり発見される可能性が高いが、状況によっては効果的。
その4
こちらが後詰に出たのを叩きに来る部隊を叩いて削っていく。
→俺が最初に進言したパターン。武田が出して来る迎撃部隊の数次第。
まあ、元就さまを挑発しようと熊谷隊を差し向けるも撃破。
怒った武田の総大将が前線に出張ってきたところを討たれるのを知ってるから提案できるパターンである。
志道広長さんに、迎撃部隊を撃退できなかった場合はジリ貧と指摘される。これは元就さまも思い至っていたらしく追随。
エトセトラ、エトセトラ・・・
最終的に、武田軍が有田城を包囲したあと複数の進路で後詰を出したと偽情報を流す。
敵が部隊を分散させて迎撃に当たれば、数の少ない部隊から撃破していく。
混乱した武田の本隊を少数精鋭の隊で叩く。
というものになった。
まず少数精鋭の決死隊を編成する。数は50人。
毛利氏と吉川氏で雇っている常備兵から選抜。
指揮官は志道広長さん。俺も決死隊に参加する。言うだけ番長にならないために最前線に出ることを志願したのだ。ただ、部下である四郎と六郎太はこの決死隊から外す。
ふたりは多治比猿掛城から有田城を経て今田城に至るまでの南側の道を知っているから、斥候の取り纏めという任務を与える。
斥候はいくらいてもいいから組織しておくようにお願いする。武田に対する対策本部の雛型が生まれていったのである。
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