家族ごっこ
文字ツヅル
第1話 家賃・光熱費無料。ただし、子連れに限る
序章
「わたしのかぞく。二年三くみ、あしはらいちよう。私の家ぞくはかわっています。わたしのすんでいる家は、わがやという、いっけんやのかしやです。」
トーカパパは、普段はヨレヨレの格好をしていますが、とても美人です。おそらく、綺麗な格好をしたら女優さんみたいになると思います。トーカパパの仕事は作家です。水木凍華(ミズキ トーカ)というのが、トーカパパのぺンネームです。トーカパパは、タバコも吸わないし、お酒も飲みませんが、毎日浴びるほど珈琲を飲みます。そのため、こだわりもあって珈琲ミルがうちにあります。
次は、如月ママを紹介します。如月ママも私の本当のママではなく、私の叔父さんです。二十二歳の大人ですが、低収入です。ある日、本当のママから預けられた私と暮らすため、安い家を探していたところ、『我が家』を見つけました。実際に観に行くと、家の前に綺麗な女性が立っていました。それがトーカパパでした。
トーカパパには担当編集者がいて、神田志臣(カンダ シオミ)さんといいます。トーカパパが、土木工事のアルバイトをしていた際に貧血を起こして倒れたのが信号待ちの神田さんの車の上でした。神田さんに助けられて、その後入院していたトーカパパが神田さんにお礼を言うため電話したところ、作家だということがわかり、出版社の神田さんは見舞いのついでに話を聞きに病院に来ました。神田さんはその時、トーカパパに一目惚れしたそうです。
この時まで、トーカパパはぶ厚いメガネをしていて顔が分からなかったそうです。(これを瓶底眼鏡っていうんだと、神田さんは教えてくれました。)それからずっと、神田さんはトーカパパに人としても、才能としても惚れているんだそうです。が、デートはしたことないそうです。
「どういうことなんだ。」
葦原如月は深いため息とともに、途方に暮れていた。目の前には赤いランドセルを背負った、一人の小学生が立っている。紛れもなく、姪の栗野一葉だ。いい加減な姉、栗野睦月と義兄の間の子どもで何度か会ったことはあるが、数回だしそれも姉と義兄が一緒にいた時だ。一対一で会ったことなど今まで一度もない。もっと言うと、一葉が一人で如月を訪ねてくることなどなかったのだ。嫌な予感がする。
「一葉、お母さんはどうしたんだ。」
「いなくなったの。おじさんのとこ行きなさいって。」
ジーザス。あの、テキトー夫婦。夜逃げでもしやがったのか。
如月は心中で悪態をついてた。それぐらい言いたくなるほど、睦月達には迷惑をかけられたのだ。あのときだって、そうだった。
如月が高校三年生の時、両親が亡くなった。その時、すでに睦月は家を出ていた。というか、勘当されていたのだが、両親が事故で亡くなってすぐに睦月に連絡を取り続けていた。しかし、睦月は葬儀に参列せず、夜になってやっとこ来たのだ。
「何で葬式出なかったんだよ。」
如月は親戚を頼りながら喪主をこなしていた。しかし、とてもじゃないが、両親が亡くなったばかりでほぼ言われるがまま動くしかなかった。どんなに心細かったか。ほとんど家に帰ってはこないし期待もしないが、いてくれるだけで心強かったのに。なんで。
「だって、私なんていたってしょうがないでしょ。勘当されているんだし。それより、これからの話をしましょう。きー君は子どもだからお金の管理なんてできないでしょ。だから、お姉ちゃんがやってあげるからさ。何も心配しなくていいよ。とりあえず、まずは・・・きー君は4月から一人暮らしでしょ。なら、この家いらないよね。管理がてら、私と夫と一葉で住むから。」
彼女は自分の都合の良い解釈で都合よく話を進めていく。如月はその日、両親と実家を永遠に失ったのだった。
なんとか両親の遺産は正当な額を睦月から勝ち取り、4月から大学生となった如月は大学三年生となった今までこの質素なアパートで一人、暮らしていた。あのときよりひどいことなんて無いと思っていたのだが、目の前の一葉はこれからどれだけあんな思いをするのだろうか。
困った叔父を見て、一葉も信じてもらえないかと思ったのか、
「ママは、『お金ない、遊んで暮らしたい』っていつも言ってるって、叔父さんに言えばママだって分かるからって言ってた。」
と言ってきた。ああ、そんな最低な確認方法あるんだな。心配しなくても小学生を勝手に預けてくる知り合いは姉だけだから・・・と心の中で一葉に言った。
一葉のためにこれからどう暮らしていくのか、如月は頭を切り替えた。そして、やっと玄関の扉の外に一葉を立たせたままだと気が付いた。
「ごめん。まあ、中へ入って。」
「お邪魔します。」
一葉はしっかり挨拶をして中へ入った。こうして、叔父と姪の生活が始まったのだ。ただ、この時はもっと人数が増えるなんて思いもしなかったと、如月も一葉も思うことになる。
あれから、如月は一葉の引っ越しに関して作業を進めていった。役所に行って驚いたのが、睦月は一葉の住所を如月の家へ移していたことだった。おかげで、手続きはしやすかったが、一葉を如月に預けることを勝手に進めていたのは、やはり、あの姉らしいとつくづく実感したのだった。
一葉はちょうど春休みで、しっかり、4月の新学期から新しい学校に通えることになった。如月は学期途中での転校は一葉が大変だと思っていたし、前の学校の方が良いかと思って一様に聞いたりしたが、一葉自身はそんなに前の学校にこだわりはないようだったので、本当に良かったと思った。
ただ、
「前の学校の友達と離れて寂しくない?」
と聞いた時、
「わからない。」
と答えた、一葉の表情がなんとなく引っかかっていたが、この時はまだわからなかった。如月は別のことに心とらわれ始めたから。それは、家だ。
アルバイト先、大学、一葉の学校、どれも今の家からだとちょうどよくない。通いづらいのだ。一葉がこの家まで歩いて帰ってくるとなると、片道四十分はかかる。友達と一緒ならまだよいかもしれないが、如月のアパートは単身者向けで、同じ学校に通う子どもはいないし、近所にいるのかわからない。それに、一葉はまだ小学二年生だしあまり、一人で留守番させたくない。なるべく、大学やアルバイトからすぐに帰ってきて、一葉を安心させてやりたい。
そう考えて、一葉の学校が始まる前に、と急いで不動産屋や友人に聞いて回った。だが、なかなか、見つからないでいるところに、不動産屋のある張り紙が目に入った。
「一軒家、同居人募集します。家賃・光熱費無料。ただし、子連れに限る」と。
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