第7話 その1
現役女子高生コンビ「ホワイトブレンド」がお笑い業界につけた火は、瞬く間に燃え広がった。
深夜番組を席巻したかと思えば、すぐにゴールデンタイムのネタ番組に呼ばれるようになった。
さらに、美穂の万人受けする明るさと、聖愛の独特の視点のトークが跳ね、バラエティ番組やトーク番組にも呼ばれるようになった。
まさに悦司が小学生の頃に体験した“ブレイク”を体現していた。
このブレイクを一時的なものにするか、ここからしっかりとしたポジションを確立するかが、今後の芸人生命を左右するのだが、二人はそれすらも計算していたかのように、様々な番組で結果を残し続けた。
テレビへの対応だけではなく、ネタの精度もさらに上がっていた。
悦司はこのコンビに弱点があるとしたら、ツッコミの美穂の印象が薄いことだと思っていたのだが、見事にそこも「かわいいフレーズ」を繰り返し使う技術によって修正されていた。
もはや弱点はない。
この一度ついた火は、しばらく消えそうに無かった。
一方、悦司はライブイベントのオーディションに合格した直後から、毎日真幌と練習を続けていた。
もちろん悦司も「ホワイトブレンド」の活躍は知っていたが、真幌が口癖のように言っている「他人は他人。私たちは私たち」という言葉のおかげでペースを保つことができた。
「真幌のおかげで、新しいチャレンジは成功しそうだよ」
「わたしは自分がやりやすいキャラを演じてるだけだから、わたしの手柄にしないで」
「そんなこと言うなよ、これでも真幌の成長に手応えを感じてるんだから」
「ありがと」
「そんな成長著しい真幌に、もっと試練を与えてもいいかな?」
「何?できることならやるけど、できないことはやらないよ」
「簡単なことだよ。毎日キャラを変えて学校に来てくれないか?」
「どういうこと?」
「真幌は今日までクラスメイトたちのことをたくさん観察してきただろ。その中で見つけたキャラを1日1人ずつ交替で演じてくれないか?」
「それがコンビのためになるの?」
「もちろんコンビのためになるよ。真幌の演技にどれだけの幅があって、どれがマッチするか知りたいんだ」
「なるほどね。わかった」
「ただし、オレに答えは言わないでくれよ。当てるから」
「それいいね。なんだか楽しくなってきた」
翌日真幌は、スカートを長めにして、髪をストレートにして、ハードカバーの本を片手に教室に入ってきた。
教室はざわついていたが、真幌は全く気にせず、悠然と席に座り本を読み始めた。
悦司は近づいて答えを告げた。
「読書好きの清楚キャラだろ」
「正解!簡単すぎたね!」
真幌はパッと笑顔になった。
「いいよ。初日にしては上出来だよ。いきなりサンバ部の衣装で来たらどうしようかと思ってたから」
「わたしをなんだと思ってるの?」
「変わり者だよ」
「ありがと」
それから真幌は毎日のようにキャラを変えてきた。
――優等生、体育会系、サイコパス、ボーイッシュ、留学生……などなど。
だんだんクラスメイトたちも、真幌の“キャラ変”が楽しくなってきたようで、リクエストをしてくるまでになった。
相変わらず美穂と聖愛は教室には来ていなかったが、今のクラスの注目は真幌に集まり始めていた。
そんな中、久しぶりに美穂がクラスに姿を見せた。
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