第4話 その4
明けて翌日、昼休みの途中に、事務所からショートメッセージが届いた。
『放課後でいいので事務所まで来てください』
悦司は机に突っ伏して寝ている真幌にも声をかけたが「緊張するから行きたくない」と拒否された。
「そしたら結果は後でLINEするから」
「……わかった。よろしく」
真幌は眠そうにそう言うと、再び寝てしまった。
放課後になり事務所に着くと、マネージャーが駆け寄ってきた。
彼女の手にはプリントアウトした紙が握られていた。
「悦司くん、結果が来ました。このメールを読んでください」
悦司は無言で頷いて紙を受け取った。
――要約するとこんな内容だった。
『残念ながら今回のライブ出演は見送りとさせていただきます』
「……残念でしたね」
マネージャーの言葉に、悦司は紙を差し戻してから答えた。
「まぁ半分ぐらいは覚悟していましたので」
そう言葉にしてから悦司は思った以上に、ショックを受けていることに気付いた。
「でも主催者の方と電話でお話した感じでは、合格にするか最後まで議論が重ねられていたそうですよ」
「そうですか……何が足りなかったんですかね」
「ちょっとだけ教えてくれた話によると『二人ならもっとできる』『いまステージに上げちゃいけない』って猛烈に反対した人がいたそうですよ」
「……」
「ずいぶん買ってくれた人がいたようですね」
「……はい。ありがたいです」
「あと……差出人がわからないのですが、事務所宛にこんなメールも届いていましたよ」
そう言ってマネージャーはもう一枚プリントアウトした紙を見せてくれた。
『君たちのポテンシャルは高い。もっと成長できる。ここで満足していてはダメだ。
神は細部に宿る。もっと練れ。考えろ。練習しろ。
必死にもがいたその先で、君たちの「ゆーめいドリーム」は叶えられる』
差出人の名前は書かれていなかった。メールアドレスからも差出人を読み取ることはできない。
しかし悦司はこのメールを見て、すぐに誰から送られてきたものなのかを察知した。
「これ、あなたたち宛よね」
「はい……間違いないです」
悦司は両手に持った紙をギュッと握った。
そして落選した理由にも納得がいった。
――付け焼き刃で成功できるほどお笑いは甘くない。
悦司は改めて自分の不甲斐なさを痛感した。
家に向かう電車の中で、悦司は真幌にLINEを送った。
『ダメだったよ。ごめん』
するとすぐに返信が来た。
『まだ始まったばかりでしょ。気楽に行こうよ』
真幌からの意外なメッセージに悦司は驚いた。
有名になりたいと熱望する真幌からは、もっと激情に駆られた返信がくると思っていたのだった。
(……今だけはこのゆるさに救われるな)
悦司は想像していた以上にショックを受けていた自分から、わずかばかり力が抜けた気がした。
ここでさらに真幌から変なスタンプが送られてきた。
『がんばろー』
「ははっ、なんだこのスタンプ」
悦司に少しだけ笑顔が戻った。
(……その通りだな。もっと頑張ろう!)
悦司は窓の外をぼんやり見た。電車は夕暮れの中を駅に向かって進んでいた。
翌朝、悦司が通学路を歩いていると、後ろから美穂に声をかけられた。
「悦司。一緒に行こう」
「おはよう美穂。……って、なんか美穂としゃべるの久しぶりだな」
美穂はその言葉に返事をしなかった。そして淡々とした表情で言った。
「悦司さ、鮎川さんとコンビ組んだんだね」
「なんで知ってるんだ?」
「事務所のホームページでプロフィールが更新されてた」
「そうだったのか。オレも知らなかったよ」
「あっという間に相方見つけちゃったんだね……」
「まぁ出会いなんてそんなもんだよ。タイミングかな」
「……私はそうは思わないけど」
美穂はそう言うと、そのまま黙り込んでしまった。
――悦司がふと見た美穂の横顔は、これまでに見たことがない顔をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます