第1話 その1
高校へ向かう通学路の桜並木は、淡いピンクの花より緑の葉の方が多くなっていた。
そんな葉桜を、ぼーっと眺めながら歩いていた男子生徒の後ろから、女子生徒が小走りで追いついてきた。
「悦司!おはよう!」
「あぁ美穂か。おはよう」
二人はいつも通りの挨拶を交わすと、並んで歩き始めた。
「どうだった?久しぶりのデートは」
「デート?あぁ、デートね」
悦司は少し寂しそうに視線を外した。
「解散することになったよ」
「そっか。あーあ、一世を風靡した『しいな&ポケッツ』も解散かぁ」
「まぁ、潮時だったよ」
美穂は悦司の正面にまわり、顔を覗き込んだ。
「で、悦司はどうするの?」
「そうだな……お笑いは続けるかな」
「良かった」
「でもさ、やっぱりオレはツッコミだから、相方がいないとダメかもな」
「だったらさ“ピン芸人”って手もあるんじゃない?」
悦司は首を振った。
「ピンっていうのも考えてみたけど……ダメなんだ。ネタが全く思いつかないんだよ」
「……そっか。それじゃ仕方ないね」
美穂はネタ作りに苦労してきた悦司をずっと見てきたこともあり、「ネタが全く思いつかない」という悦司の言葉に「頑張ればなんとかなる」というような軽々しい言葉はかけられなかった。
無言になった二人は、そのまま学校へ向かって歩き続けた。
しばらく歩いたところで、美穂が突然立ち止まり、悦司の背中にこう告げた。
「そ、そしたらさ、私が相方になるっていうのは……どうかな?」
悦司は立ち止まると同時に振り返り、即答した。
「それはムリだよ」
「えっ?なんで!?」
即答されたのが予想外だったのか、美穂は目を見開いた。
悦司は「ふっ」とため息をひとつ吐き、諭すように言った。
「美穂はどっちかというとツッコミ側なんだ。しっかりしててリーダータイプだから、ボケが務まるとは思えないんだよ」
「えっと……それ、褒められてるのか、否定されてるのかわかんないよ」
「褒めてるんだよ」
悦司は戸惑いの表情を見せる美穂をなだめるように、ポンポンと肩を軽く叩いた。
美穂は悦司の手を取り、きゅっと握った。
「だったらさ、クラスメイトから探すのは?」
「……それもムリだよ」
「どうして?」
「だってオレは“元”有名人だから。相方になろうなんて度胸があるやつは、あのクラスにはいないよ」
寂しげな表情を浮かべ、再び歩き始めた悦司の後ろを、美穂は何か考えごとをしながらついていった。
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