ゆーめいドリーム ~笑っちゃうほど恋をして~
薪木燻(たきぎいぶる)
前説
どこにでもあるファストフード店の二階。混雑している店内の窓際の席に、高校生が二人、横並びで座っていた。
一人は学校指定のブレザーを着た痩せ型の男子。もう一人は大きめのパーカーを着た少し太り気味の男子だった。
彼らは取り立てて仲が良い風でもなく、かと言って他人行儀でもなく、お互い窓の外をぼんやり眺めながら、とりとめもない話を続けていた。
しばらくすると話題が尽きたのか、沈黙が二人を包んだ。
やがて沈黙を破るように、痩せている男子が、太り気味の男子に尋ねた。
「で、高雄、結局何の用なんだ?」
「……だいたい予想はついてるだろ」
「……まぁね」
この日初めて二人の視線が絡み合った。と同時に、高雄と呼ばれた太り気味の男子は息を吸い込み、店内に響き渡るような大きな声を張り上げた。
「オレたち……別れよう!」
店内の視線が一斉に二人に向けられた。
「カップルか!」
痩せてる男子がすごいスピードで高雄の頭にチョップした。
「お前、昔からボリューム調節がおかしいんだよ」
「ははっ、ごめんごめん」
店内のざわめきが収まったところで、改めて高雄が呟いた。
「やっぱさ、オレが悦司の『手』を引っ張ってたんだよな……」
「『手』じゃなくて『足』!『手』を引っ張るって、なんかお前がリードしてきたみたいになってんじゃん」
「ごめんチャイナタウン!」
「うるチャイナ!」
再び高雄にチョップが叩き込まれた。オリジナルギャグからのツッコミ……。これまで何度も繰り返してきた流れが、二人にとって寂しくも心地良かった。
その気持ちが悦司の口からこぼれ落ちた。
「……楽しいよな」
「うん。これはこれで楽しいんだよ」
「だったら……」
「でもさ、悦司はプロでやっていきたい思いが強いだろ」
「ああ、当然それしか考えていないよ」
「でもオレは、のんびり高校生活を謳歌したいんだよ!こうやって放課後に友達とダベったり、女子高生といちゃついたり、恋したり、デートしたり、ムフフなことしたり……」
「ほとんど女子絡みだな!」
悦司は反射的につっこんだものの、すぐに泣きそうな顔をして首を振り、うつむいてしまった。
「心の準備はできてたつもりだけど、実際こうやって「別れよう」って言われるとさ……」
高雄は優しい笑みを浮かべてから、悦司の肩にそっと手を置いた。
「オレさ、ずーっとさ、本気でやってきた悦司に、申し訳ないって思ってたんだよ」
「だったら!もう一度……」
「いや、悦司ならきっと、一人でもやっていけるからさ」
「なんか……本当にカップルの別れ話みたいだな」
「そりゃそんなムードにもなるだろ」
高雄は名残惜しい雰囲気を断ち切るかのように、トレイを手に取り、立ち上がった。
「オレたち、コンビだったんだからさ」
「……ああ」
悦司はもう引き留めることができないことを悟った。。
高雄は去り際に「じゃあな。楽しかったよ」と悦司の肩を叩き、階段を降りていった。
少し寂しそうなその後ろ姿を見ながら、悦司がつぶやいた。
「まぁ、悪くないコンビだったよ……」
友人でも家族でもクラスメイトでもなく、コンビ。
その関係はカップルに例えるのが一番近いのかもしれない。
――こうして高校生お笑いコンビ「しいな&ポケッツ」は、その5年間の活動の幕を閉じた。
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