第30話 卑怯者の末路……
「――……ち、ちょっと、チャモア……。ほ、本気でアレを相手にするつもりなわけ?」
「あん? あったりめーだろ? ココまできといて今更ビビってんじゃねーよ‼」
「そ、それはそうだけど……。にしたって、やっぱりこうも間近で見ちゃうと、その、ねぇ……?」
「………………」
誰にともなく同意を求めるような、そんなクローゼの不安そうな声だけが虚しく響いていく……。
草むらに身を隠すしているクローゼたちの見つめる先には、一匹の
その
更には、その手にはこれまた極太の棍棒という出で立ちでもって草むらの上を我が物顔で
そう、ここは奇しくも以前リックがオークを倒したのと同じハーミット大草原であった。
チャモア自身、当然そのことを知ったうえでここへやってきていたのである。
片やオークはというと、狩りの途中か、はたまた巣へと戻ろうとするところなのかは分からなかったが、都合よくも一匹だけで行動しており……。
襲い掛かるには正にうってつけの絶好の機会であることは間違いなかったのだが、
「ね、ねぇ、やっぱり、ココは万が一のことも考えて、ゴブリンとかにしといた方がいいんじゃない?」
「右に同じぃ……」
「おいおい、しっかりしろよクローゼ。あんな
そんな二人に対し、これ以上話してても埒があかないとばかりにチャモアが言い放った。
「このチャモア・ブレードと俺様の最強スキル・ブン回しさえあれば何も怖いものはないってんだよ‼ そんなに不安だってんなら、いいさ。テメーらはそこで俺様の勇姿を眺めてろってんだよっ‼」
「あっ、ち、ちょっとチャモアってば‼」
「あ~ぁ、行っちゃったぁ……」
自信たっぷりにそれだけいうと、二人が止めるのもお構いなしにオークの前に自ら姿を晒していった。
ザザッ。
「おう、ちょっと待て、そこの家畜くせー豚野郎っ‼ テメーに恨みはねーが、このチャモア様に目をつけられたのが運の尽きってやつよ。さぁ~、覚悟しやがれっ‼」
「ブギャッ!?」
突然目の前に現れ何やら因縁を吹っかけてくる人間に慌てふためく様子を見せるオーク。
一方チャモアたちからしたら、予め周囲に他の
この予期せぬ展開に始めこそたじろいだ様子を見せていたオークであったが、
「ブビャビャビャ♪」
相手が一人、それも脆弱な
「くっ、わ、笑いやがったな、この野郎……。上等じゃねーか、家畜の分際で人間様を舐めるとどうなるか教えてやるぜ‼」
吐き捨てるようにそう言うと、剣を下段に構えたままの状態でもって聊かの迷いも見せなければ、愚直なまでに猪突猛進といった感じでオークへと駆け出していく。
そして一人と一匹の距離が徐々に縮まり、ついにチャモアの剣の間合いへと入っていくやいなや、絶対の自信を引っさげて叫んだ。
「へへ、チャモア・ブレードの錆にしてやんぜぇえええええっ‼ 【スキル・ブン回し(辛)】くらえっ、どりゃああああああああああっ‼」
ビュンッ‼
万に一つも避けられることなど考えていないかのような大振りがオーク目掛けて振り抜かれていく。
まるでスイングでもするかのようなチャモア最大の奥義ともいっても過言ではない横薙ぎの一撃がオークの中段、ちょうど脇腹辺りに吸い込まれていったのをその目でもって見届けた瞬間、
決まった――。
そう自らの勝利を確信した時であった。
ガッシャーーーーーーンッ‼
「なっ――⁉」
一際甲高い音が大草原に響き渡ったかと思えば、まるでガラス細工が砕け散るかの如く剣は跡形もなく砕け散ってしまった。
それは正に一瞬の出来事であった。チャモアのスキル・ブン回しの威力を乗せた剣がオークの身体を捉えた瞬間――。正確にはオークの身体と刃先が触れた刹那の間に、今しがたまで刀身から眩いまでの輝きを発していた赤いオーラがまるで蠟燭の炎が吹き消されるかのごとく消え去るや、かつてのみすぼらしい状態へと立ち戻ってしまっていたのである。
無論、そんなことをチャモア自身が知る由もなく……。
「な――そ、そんな馬鹿な!? ど、どうなってんだよ、こりゃあ……。ま、まさか、まさかこの俺が、あ、あんなガキに一杯食わされたってのか⁉」
呆気にとられた感じで手の中に残された柄部分をまじろぎもせず見つめ続けていくチャモア。その真偽のほどはここでは分からなかったが、それ以上に、今のチャモアにそんな悠長なことを考えている時間はなかった。
ブォンッ――。
と、次の瞬間、オークの振り下ろした棍棒が轟音とともに呻りをあげてすぐそこまで迫っていた。
「ひ、ひぃっ!? ――くぅっ‼」
ズザッ‼
とっさに後ろへ飛び跳ねることで間一髪頭への直撃こそ避けこそはしたものの、
グシャッ‼
そんな嫌な音が大草原に響き渡ったかと思えば、直撃こそ免れたものの、オークの振り下ろした一撃によって無残にもチャモアの左足は膝下辺りからグシャグシャに潰されてしまっていた。
ドスンッ‼
と、地面へと背中から落っこち少しばかり苦しそうなそぶりを見せるも、左足を襲った不快感にすぐさま上半身を起こし確認したところ、
「――――⁉」
そこで目にしたものは、血が噴き出し、肉が潰れ、骨がグシャグシャな状態で肉を突き破っているという見るも無残な惨状であった。
「ぅ、うぎゃああアアアアアアアアアアアアアッ! あ、足が、お、俺の足がぁああああああああっ⁉」
同時に、これまで経験したことのない、頭の芯まで響いてくる激痛に気絶することも出来なければ、只々喚き続けるしかないチャモア。
「ブヒギャギャギャ♪」
そんなチャモアを心の底から嬉しそうに見下ろすオークの姿にチャモアは完全にパニックに陥ってしまう。
「(ヒィィッ!? こ、殺される……⁉) い――いやだ、だ、誰か、た、助けてぇ……」
そんなチャモアの願いも空しく、又してもオークが棍棒を振り上げる仕草を見せたかと思えば、
「ブヒャ♪」
ブォンッ‼
その厚ぼったい唇を大きく歪ませ、笑顔らしきものを浮かべるとともに先と同等の威力でもってチャモアの無事だったもう片方の右足目掛けて棍棒を振り下ろした。
グシャッ‼
「うぎゃぁあああああああああああああああああっ⁉ ごぎゃぐ、がぁああっ……‼」
再び耳障りな音を響かせ、自らに降りかかってきた耐え難い痛苦に声にならない悲鳴を上げるチャモア。
「~~~~~~~~~~~‼ た、助けて、助けて、クローゼ、マルカぁ……」
そんな絶体絶命の中、チャモアの頭を過ったのはクローゼにマルカといった、仲間たちの顔であった。
と、
「お――おい、クローゼ、マルカッ‼ お、お前らっ、な、何してんだよっ、さっさと俺を助けにこ――」
最早起き上がることさえできない状況の中、地面に這いつくばった状態で必死に体を動かし仲間たちがいる場所に向けあらん限りの大声でもって助けを求めていくも、
「お、お前ら……」
そこにはさっきまでいた筈のクローゼたちの姿は影も形もなくなっており……。同時に、それが何を意味するのかチャモアにもちゃんとわかっていた。
と、そんなチャモアを嘲笑うようにオークが次なる行動をとっていく。
ギュッ‼
「グガァッ!? ――い、痛いっ‼ い、一体、な、何を……⁉」
両足を潰され、最早身動き一つとれなくなったチャモアのその潰れた左足を太い指でむんずと掴み取るなり、
ズルズルズルズル……。
そのままチャモアの身体ごと引き摺り始めた。
「ヒィィィィッ!? な、何何何何何何何何ぃいいいいいいっ、い、一体、お、俺を、俺をどうするつもりだぁああああああああっ⁉」
その質問に答える代わりにオークの舌なめずりのような音が聞こえてきて……。
「――――‼」
瞬間、チャモアは理解した。オークはこのまま自分を巣へと連れて帰るつもりなのだということを……。
その結果、男である自分が連れ帰られるということがどういうことを意味するかも理解した。
チャモアの頭の中ではオークたちによる筆舌に尽くし難い拷問を受け続けていく自分の姿が映し出されていた。爪を剥がされ歯を抜かれ目玉をくりぬかれ、それでも決して殺してもらえない地獄の責め苦……。ソレが延々と続いていくのである。
「い、嫌だぁああああああああああああっ‼ だ、誰か、誰でもいいっ‼ だ、誰か助けてくれぇええええええええええええっ‼」
そこには唯一の頼みであったチャモア・ソードすら失い、半狂乱のように泣き叫ぶチャモアの姿があった。
そうして引き摺られる中、少しでも時間を稼ごうと、
ズルズルズル……――グッ‼
そこかしこに生えている草を掴み、必死に来るはずもない助けを信じ粘り続けてはみたものの……。
ブチッブチッブチッ‼
「――――‼」
無情にもあっさりと草は千切れ、再び……。
ズルズルズル……。
「ぅうっぐ、ぐすん、く、クローーーーゼッ、ま、マルカァアアアアアッ‼ だ、誰でもいいっ‼ た、助けて、助けてくれぇええええええええっ‼ うぐっ、し、死にたくない、死にたくないぃいいいいいいいっ‼」
最早、恥も外聞もなければ、子供のように泣きじゃくりながらも巣へと一歩一歩引き摺られていくチャモア……。
結局、誰かが助けに来るようなこともなければ、チャモアはそのままオークによって巣へと持ち帰られてしまった。
その後、チャモアがそこでどういう扱いを受けたのかは余りにも凄惨で惨たらしくて……。チャモア自身の想像していた以上の、口にするのも憚れる内容であった。
ともあれ、こうしてチャモア擁する冒険者チーム・
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