第12話 聖剣と聖鎧
「………………」
ウルザさんの口から語られたその衝撃的な内容を受けて、僕の目はある一点のみに釘付け状態になってしまっていた。
それこそ瞬きする
「………………」
こ、これが、あの……?
と、脳裏に甦るのは幼いころにそれこそ幾度となく繰り返し読み返した英雄叙事詩……。
その中に登場する一人の英雄……。そして彼の剣であり鎧こそが正にこの……‼
ドキドキドキドキドキドキッ……。
――い、いやいや、落ち着け僕っ‼ 早合点するなっ‼ こ、ココは一旦落ち着くんだっ……‼
早鐘の如く打ちつける心臓……。湧き上がってくる感情を必死に押さえつけるかのように、自らを必死に説き伏せていく。
いいか、リック・リパートン……。先ずは冷静になるんだ。その上で、よぉ~~~~く考えるんだ。はたしてそんなことが本当にありえるのかどうかを……。
何てことはない、ひょっとしたら、単純に僕の聞き間違いの可能性だってあるんじゃないか? そういった点も踏まえ、もう一度だけよく考えてみよう……。
「………………」
そ、そうだよ、さっきから訳の分からないお
ア――アハハハ……♪ な、なぁ~んだ、そうかぁ……。そ、そうだよね、そうに決まってる……。いくら何でもあの伝説の武具がこんな場所にあるなんて……。そ、そんな馬鹿な話が……。
ドキドキドキドキドキドキッ……。
逸る気持ちを抑え、そう思い込むことで半ば強引に自分を納得させようと試みていたところへ、
「……かの叙事詩に名を連ねる英雄にして、
「――――(ドックンッ)‼」
瞬間、僕の心臓は今まででもって一番大きな音を奏でた。
き――聞き間違いじゃないっ⁉ 今のは間違いなくハッキリと聞こえたっ‼
そ、それじゃあやっぱり、こ、ここここコレが、あ、あああああの……⁉
「――……う、ウルザさん、こ、コレ……。ほ、ほほほ本当に、ほ、ほほほ本物、なんですか……?」
「ああ、間違いなく本物さね……」
「ほ、本当の本当に?
「ああ、本当の本当さ」
「………………」
「………………」
「あ、あの……。ほ、本当の本当の本当の本当の本当の本当の本当の本当の本当の本当の本当に……⁉」
それは普段の僕からしたら考えられないほどの念の入れようであって……。
というのも、英雄叙事詩は数あれど、中でも僕が一番大好きなお噺がこの剣聖スルトに関するお噺なんだ……。
弱い僕だからこそ、スルトへの憧れは人一倍強く……。決して彼のようになれないとは知りつつも、今でもスルトの存在は僕の心の大部分を占めていて……。
だからこそ、嘘なんかでスルトのことを穢してほしくなかった……。
そんな僕の想いなど知る由もない彼女ではあるものの、その深い
「ああ、紛れもなく本物さね……」
そう言って、力強くも頷いてくれた。
「――――‼」
「ま、アンタの疑いたくなる気持ちも判らないでもないさ。当然さ、なんせあの
まるで心を見透かされていたかのようなセリフに一気に顔が一気に顔が紅潮していくのがわかった。
「――い、いえ、そ、そんな……。け、決して、ウルザさんの言う事を疑ってるとかそういうことではなくってですねっ‼ あの、その……」
しどろもどろになりながらも、必死に言い訳を並べていくも、
「ふ、気にしなくてもいいさ。アンタの反応こそ普通なんだ。けどね、あたしにはこれらが間違いなく本物だと証明できる根拠があるのさ」
「え? こ、根拠……?」
「そう、根拠さ。つまりは証拠だね。ホラ、ここをよ~~く見てごらん」
そう言って、ウルザさんの指先が刃に浮き出ていた
「………………?」
「ねぇ、リック。コレ、一体なんだと思う?」
「え? な、何って……。
「フフ、やっぱりねぇ、そう、普通はそう思うさねぇ……」
僕の答えにウルザさんが薄く笑う。
え? 何だ? どういうことだろう? ち、違うのか?
「でもね、一見
「え? さ、
ウルザさんがそっと頷く。
「え、えと、そ、それじゃあ、コレは一体……?」
僕の質問にニヤリと薄く笑みをこぼしたかと思えば、
「こいつはねぇ……。何を隠そうドラゴンの血さね……。
「――――⁉」
ど、ドドドドドラゴンの……返り血ぃいいいいいいいいっ⁉
「そうさ、ま、アンタは知らないかもしれないけれど、ロストハイムは今でこそ聖剣という名で世に広まっているが、元々はそこそこに名のある名工の手によって鍛えられた
「し――知ってますっ‼ そ、それが数々の強敵、そして
そ、その力は鎧となってなお衰えることもなければ、いかなる魔法をも通さぬ絶対障壁という能力を秘めた最強の聖鎧になった……‼ そ、そうですよねっ⁉」
「あ、ああ、そ、その通りさ……」
「………………」
「………………」
「……――あっ⁉ ご、ごごごごごめんなさいっ‼ ぼ、ぼぼぼ僕、つい興奮しちゃって……⁉」
鼻息荒くも気が付けば、まるで接吻でも迫るかのようにグッと至近距離までまで顔を近づけていた。
「ほ、本当にごめんなさいっ‼ ぼ、僕、スルトの大ファンで、彼のことになるとつい……‼」
「そ、そうだったのかい? ま、まぁ、気にしなくてもいいさね……。コホンッ、そ、そんなことよりもだ、リック……」
「え?」
ウルザさんが軽く頷いた。
「これまであたしの言ったことを踏まえ、もう一度、目を凝らして、よぉ~~~く剣と鎧を見てもらえないかい?」
そんな言葉に誘われるまま、改めて剣へと意識を高めていく。
「どうだい? 違いがわかるかい?」
「………………」
「………………」
それこそ、細部に至るまでくまなく観察し続けた結果、
「…………――――‼ た、確かに……。い、言われてみれば、普通の錆に比べて、赤黒いような気がしますっ‼」
僕のこの反応にニカッと白い歯を見せるや、
「だろ? アンタならきっとこの違いを理解してくれると思っていたよ。それにねぇ、
「そ、それじゃあ、こ、コレは本当に……。あ、あの……」
再びウルザさんが力強くも頷いた。
「――――‼」
その様を目の当たりにするや、粟立つような興奮が全身を駆け抜けていった。
と、ここでウルザさんが思いもしなかった提案を持ち掛けてくる。
「あっ、そうだ……。もしよかったらだけど、装備してみるかい?」
「――――⁉ えっ⁉ えぇええええええええええええええええっ⁉ ……い、イイんですかっ⁉」
「ああ、武器や防具なんてものは所詮使ってなんぼだからね……。いかに伝説の武具だろうと飾っておくだけなら、それこそ
「……――あ、あの、その……。ほ、本当に、いいんですか?」
「ああ、勿論さね。アンタ自身でこれらが本物か否かを判断するのが一番いい方法だからね」
結局、ウルザさんに促される形で
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~‼」
ま、まさか
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~‼」
天にも昇るとはこのことかってくらいに僕の体は打ち震えていく。
「……どうだい? 初めて握ってみた感想は? まるで手に吸い付くような感触だろ?」
「は、ハイッ‼ け、剣も鎧も、め、めっちゃいいっす‼」
最早自分でも何を言ってるのかよく分からなかったが、ウルザさんに指摘された通り、手になじむというかなんというか……。
くぅ~~~~、こ、これが
「……………………」
ああ、こうして目を閉じているとまるで自分がスルトになったような錯覚に陥るよ♪
そしてスーッと目を閉じるや、僕は
スゥーーーーーーーーッ……。
「?」
ゴッ……。
「あん? な、何だい……?」
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ‼
「――ッ‼ こ、コイツは、じ、
ふぅあぁ~~、何だろうこの感覚は……。
『――Ψ¶ΛΦΨθδйδδδδδδδδδδδδδδ‼』
「――ヒィッ⁉」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……――
「――……ハァ~~~~……。ま、満足したぁ~……。う、ウルザさん、どうもありがとうござ……。って、あ、あれ? う、ウルザさん? ち、ちょっと、ど、どうしたんですか?」
ソコにはいたのはさっきまでの自信に満ちた彼女とは一転、頭を押さえまるで何かに怯えるように蹲るウルザさんの姿。
その表情にしてもすっかり血の気が引いていて、ただでさえ白い肌が青白くさえ感じられた。
「あ、あの、ウルザさん? な、何だか顔色が悪いですけど……。だ、大丈夫ですか? もしかして、
「へ? な、何って……。あ、アンタ、い、今の
「え?」
へ? 咆哮、じ、
そういわれて店内へと目を配ってみるや、ウルザさんの言葉通りまるで地鳴りでも起こったかのようにさっきまで棚に並んでいた商品らしき品物がそこかしこへと散乱していた。
う~~~む、剣と鎧に意識を集中しすぎたあまり、全く気が付かなかった……。
「うぅ、ま、まぁ、いいさね……。それでどうだい? 少しは実感できたのかい?」
「へ? あ、は、ハイッ‼ この度は、すっごく貴重な体験をさせてもらえて、本当にありがとうございましたっ‼」
「そ、そうかいそうかい……。ソレは何よりだ。そう言ってもらえるとあたしも態々見せた甲斐があったってもんさ」
ようやっと調子を取り戻したのか、さっきまでの彼女に戻るなり、僕は手にしていた剣を再びウルザさんに返していった。
正直、このまま持ち去ってしまいたい、そんな衝動に駆られるも、ソコはグッと堪え
そんな思いが顔に
「……欲しいのかい?」
「――――(ドキッ)‼」
ソコにはまるで、そんな僕の心さえも見透かすようなウルザさんの表情があった。
「うぇっ、い、いや、そ、そんな、ぼ、僕なんかがそんな……‼」
「欲しいんだね……?」
「――……は、はい……。ほ、欲しい、です……。で、でもでも、か、買えるなんてこれっぽっちも思ってなくて……。そ、そもそも、これって売り物なんですか? ちなみに、お値段は、いかほどで?」
いやいや、買う気なんてないよ? あ、あくまでも興味本位で聞いただけであって……。そんな、僕なんかが買えるなんてこれっぽっちも……。
「そうさねぇ、流石に物が物だけに何とも言えないってのがホントのところだけど……。それでもあえて値をつけるとするならば……」
――ごくっ……。
「
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