酒好きとそうでない人

神奈川県人

第1話

 あぁこんにちは、初めまして。最初に言いますが私は主人公ではありません、語りだとでも思っていただきたい。


 この話の主人公を見守ってあげて欲しい。そう切に願う。

                   *

 あちゃ~やらかした。恒例、小言を聞く会の始まりだ。


「おいおい、何度言ったらわかるんだ?これでもう四度目だぞ、おんなじことをさぁ」


 早速椅子にふんぞり返ってこっちをじとじと見てきやがった。


「すっすみません、あまり物覚えが良くなくて」


「えぇ~言い訳かよ、良いか! 覚えが悪いならメモしろっ...て前にも言った気がするんだけどな~」


「以後気を付けます。すみませんでした」


「頼むよぉホントに」



 う~ん、うまく行かないものだ。こうも失敗ばかりしてしまっては昇進できる気がするわけもなくこうして気を落とし、今までの半分程度の作業速度に落ちざるを得ない訳だ。まあ作業速度を落とすと更に怒られるわけなのだが。

 そうやって考えると怒る奴もそのまた逆、私にとっても良いことなんか何にもないのだがなぜ人は怒るのだろうか...。う〜ん、なんか格好いいかも。


 あっ、どうもお初目にかかります。たった今怒られていた私です、怠慢な奴とでも記憶のすみっこに入れておいて頂ければ幸い。これから先、こんな奴にお付き合いください。


「おいおい、どうしたんだよ、そんなにぼーっとしてさあ、日本代表が居たら顔負けだぞ。落ち込んでばかりいるんじゃねぇよ」


 何を失礼なことを言うのかこいつは、ぼーっとする日本代表があったもんかよ。

 こいつだって怒られる人間だ、変わりは無いのに。


「あぁ俺はぼーっとしていたさ気を落としていたさ、だけどなお前にそこまで言われるほどじゃ無いよ」


「あれで言われる程じゃない方が心配になってきたけど。ところで今日もどう? 一杯」


 手をクイッと動かしながら間の抜けた顔でにやけてる。


「外は地雨だしまだまだ仕事は終わらないってのに呑気だな。お前の方が怠慢なんじゃねぇの?まあ今日も酒豪についていこうと思ってたさ」


「そうこなくっちゃな」


 すっかり意欲がなくなっても仕事は消えない。今夜もまた晩酌が待っている。ただそれだけで体が動いていた。時計の針は二人上を向いているがな。

                   *

「嫌ねぇ、地雨って長いし」


「まぁ最近暖かいですし雨も降りますよ」


 そう私が言うと雨嫌いはため息を生み出した。すでにここには生み出されたため息が溜まってただでさえ雨でじとっとしているのにどよんともしています。


 それにしても雨は長引いているし職場もじとじとするしそろそろ晴れ間が欲しいです!八意思兼命やごころおもいかねのみこと様ーー!


「まっそんなことよりもさあ、今日こそ一緒に飲まない?あんまりお供してくれないじゃない。軽くでいいからさっ」


 まだまだまだ厚い雲の上にはお天道様は居るのに何を言っているのでしょう。酒飲みに付き合うのは結構な労働に近いのですが、断る理由がとっさに浮かんできません。少し正直な私がここぞとばかりに現れて来たのを恨みます。


「良いですね、一緒に飲みましょう。ほどほどにしてくださいよ」


「わかっているわよ、私あんまり酒飲めないから安心してよ」


 うぅ、お天道様どうか沈まないでいてくださいな。今夜は嫌な予感がします。

                  *

 雨が近づくと蒸気に変わるほどのアツさで怠慢と酒豪は居酒屋に突撃していった。


 店内は長方形のようでこじんまりとしてるし見た目もいい。雰囲気があり私が見つけたらふらっと入ってしまうと思う。


 しかし私はびっくり箱を開けた気になった。だいぶ良い時間のはずなのだが店内にあまり人の姿が無かったからである。


「ホントに人気なのか? 客は数名のグループに女同士で飲んでる客しかないぞ」


「まぁまぁ、ここはな揚げ物が旨いんだ。席は...ここで良いな。すいませーん、生二つにタコの唐揚げと...蓮根のはさみ揚げで」


 揚げ物か...。

 昼頃から罵倒を浴び、めげてもこの酒豪との晩酌がほとんど決定していた。それを原動力に何糞と仕事をこなし続け、心身共にカラッカラで心は特に地割れをしている様な状態の今にはたまらないと言っても良いだろう。いや言わせてください

 たまんねーーよ!と。

 しかしこの店に来るのは初めてなのだがこの場所に飲み屋が有ったかどうか。どうも思い出せない、何度もここら周辺は飲み歩いたはずなのだが...忘れているだけなのだろうか。


「おい!ここでもぼーっとするんじゃないよ!せっかく来たんだからな楽しくしないとだろ!」


 それもそうだ、店が有ったかどうかじゃない、旨いかどうかだ。んでもって、この酒豪をもってして旨いって言うのならそれはもう旨いをとうに通り越しほっぺたどころか心が落ちる位なのだろう。期待は十分十二分。


「お待たせしました~、生二つに蓮根のはさみ揚げとたこの唐揚げですぅ〜」

                   *

 いやぁ、居酒屋に行くのなんて久し振りです。雨嫌い改め飲兵衛は私を連れてさっさと店に入ったのでした。


 その店は定食屋さんを思い浮かべる暖かさがあってとてもとてもホッとして、店内は狭く首を動かすこと無く見渡せます。


「相変わらず客は少ないわね。良くやっていけてるよ。この席でいいよね?」


 真ん中の席になりました、問題なんてなにもないです。


「あのね、ここはね揚げ物が旨いと良く言われるけど焼き物も良いんだよ...

 すいませーん、イカの丸焼きバター醤油味と、後焼きナスで。お酒はレモンサワー、私はそんだけ」


 飲兵衛は「ン?」と私に順番を回してきました。


 確かに揚げ物のメニューが多いけど焼き物も揃ってます。落ち着いた食べ物はあまり無いけど、


「私はししゃも焼きと冷奴、飲み物は緑茶割りで」

 少しだけ驚いた顔で私を見てきましたが食べたいものを頼んだだけですから文句を言われる筋合いはありません。といってもホントに少しだけ驚いただけですけどね。


「それじゃそんだけで」


「かしこまりました~」


 これから始まる残業にお金がほしい、なんて考えてちゃいけません。相手が飲むなら私も飲むまでです。いっそ飲みくらべ位飲んでやりましょう!こいつなんかとはもう飲まない方がいいと思わせる心意気で!


 注文したものがテーブルの上にのせられます。美味しそうなししゃもですねぇ、これをゆっくりと食べましょう。

 飲兵衛はもうグラスをもって待っています。私も慌ててグラスをもって用意します。


「それじゃあかんぱーい!」


「かんぱいです」


 早速グラスのレモンサワーが消えていきます。その飲みっぷりには私も少し感動を覚えてしまいます。さらに、よほど空きっ腹だったのでしょう、イカに目をつけるとイカは形が崩れていき空き皿があるだけになってしまいました。飲みっぷりに食べっぷり、目を白黒させてしまいますよ。



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