優しい面倒くさがり

巴菜子

優しい面倒くさがり

 怒るのって面倒くさい。

 私は怒っている、というのを相手に伝えるのも、伝えた後も面倒くさい。相手が謝ってくるまで無視し続けるだとか、怒ってますよという態度をとり続けるだとかいうことが。ましてや声を荒げるなんて、頭も使うし、疲れるし、そうまでして相手が謝らなかったら余計にいらいらするだけだ。だから怒らない。だから喧嘩することもない。そうはいっても私もいらっとすることはあるし、それを完璧に隠せるほど器用ではないから、私のいらいらを感じ取って謝ってくれることはある。そんなときはもちろん許す。変に「怒っていない」などと噓をついても、それならそんな態度をとるなよ、とうんざりされるだけだ。

「面倒くさい」

 それだけなのに、私は優しい人になっていた。別にそんなことはないのに。「全然怒らないよね」「すごいよね」「私はすぐに怒っちゃう」私だって怒ってる。意外かもしれないけれど、沸点は低いほうだと思う。ただ、面倒ごとを避けて、楽して生きているだけだ。だから、その代償をいつか払わなくてはならない。子供の頃に練習しておけばよかった。怒り方も、喧嘩の仕方も、分からないまま大きくなって、怒りたいときに、喧嘩になってでも理解してほしいことがあったときに、どうすればいいのかが分からない。私は全然寛容な人じゃないのに。許せないことだってあるのに。譲れないことだってあるのに。ぶつけられない。

 どうすればいいのか分からなくて、プライドばかりが育ってしまって、失敗したくなくて。今日も思いを飲み込んで。今日の私も、優しい人。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

優しい面倒くさがり 巴菜子 @vento-fiore

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ