ヴァージンロードに特撮ソングを
椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞
第一章 絶対認めないから!
ドアキックは突然に
「アンタがあたしの父親になるなんて、絶対に認めないから!」
ドアを開けて早々、オレの腰の位置から怒鳴り声が響く。
最初、ドアを蹴る音で、オレは叩き起こされた。
こちとら、連日の作曲活動で今帰ってきたばかりだってのに。
時刻は、もう一五時を指していた。これが朝だったら、近所迷惑だったろう。
それに、オレはまだ一時間しか寝てない。
「アンタみたいなヒョロッヒョロの冴えないオッサンが、マジであたしのパパになるっての? 今時アフロとか」
「大きなお世話だ」
アパートの戸を開けた瞬間、幼い声に罵声を浴びせられた。
気の強そうな鋭い眼差しで、少女はオレの顔をなめ回す。
黒髪をツインテールに纏めてあり、服装は赤いワンピース。
年季の入ったピンクのリュックサックは、特に目立った傷はなし。
誰に対しても物怖じしない強気な態度、夜を櫛でといたような黒髪は、オレの知る女性によく似ていた。
「いきなりなんだよ、お前は?」
「だから、あたしはアンタの娘になるかもしれないの! 聞いてなかったの?」
「待て、話が見えない」
少女は眉をひそめ、首をかしげた。
「アンタがママの再婚相手なんでしょ? 違うの?」
初耳だ。酔った勢いで女性と事に及んだ、という可能性はない。
オレはアルコールが大の苦手だから。
少女はポケットから、クシャクシャに丸まった紙を取り出した。
「アンタ、本当に
肯定すると、今度は紙切れを寄越してくる。
「住所もココで合ってるわよね?」と、少女はメモを見返す。
間違いはない。
「それはそうと、お前の名前は?」
「
園部……ああ、なるほど。
「とにかく上がれ。ここにいると迷惑だ。近所に何を言われるか分からん」
華撫と名乗る少女を家に招き入れる。
何の疑いもなく、華撫は靴を脱ぎ始めた。
「ミュージシャンだって聞いてたから、一戸建てか、立派なマンションに住んでるんだとばかり思っていたわ」
オレの家は六畳一間だ。フスマを付ければ居間と寝室で分けられる。家賃五万五千円なり。
クローゼット付きの和室が欲しくて即借りた。これなら、畳の張り替えに家具を動かさなくていい。六畳一間しかないが、キッチン風呂トイレ付きでこの値段だ。
「失望したろ? 貧乏ミュージシャンみたいで」
「全然。自由人って感じで素敵じゃない。それに、あのクッキー、都内で有名な専門店のでしょ? そんなに立派なクッキーがもらえるなんて、そこそこ稼げる人よ」
そう言われると照れる。実際、それなりに金はあるが。
「畳のいい匂いがするわね。掃除が行き届いている証拠よ。ちょっと男くさいけど」
だいたい、この家に上がってくる客は、狭いだの日当たりが悪いだのと、文句を言う。
しかし、華撫はこんな部屋を褒めた。
「男くさいは余計だ。座ってろ」
まるで自宅のように、華撫はリュックサックをドンと畳の上に下ろして足を伸ばす。
うーん、と背伸びして、大の字になってくつろぐ。
「気持ち悪くないのか? おっさんが寝た畳だぞ」
「どうして、気味悪がる必要があるのよ?」
「そうかよ」
冷蔵庫を開けた。
子どもが喜びそうな食い物は何もない。
だが、二リットルのサイダーを発見。
下戸でよかったと思うべきか。
前にバンド仲間の家に泊まったときは酷かった。そいつはオレと違って飲兵衛である。炭酸も、酒を割る用の砂糖抜きタイプしか置いていなかった。無糖の炭酸ほど、甘党にとって残念な飲料はない。それ以来、そいつの家にあがる際は、コーラを自前で持っていく。
「炭酸は平気か?」
「ありがとう。大好物よ」
なるべく透明なコップに、炭酸を注ぐ。味気ないが、オレはマグカップで我慢だ。来客自体が久しぶりだ。
「お、こいつはいいな」
食器棚の上に、丸い缶を見つけた。確か、お中元でもらったクッキーだ。期限も切れていない。
「こんなんしかないけどな」
コタツテーブルに、クッキー缶を置く。
「バカにしないでよ。まるで催促しているみたいじゃない」
言った側から、少女の腹の虫が催促を始めた。
「いいから食えって」
オレは華撫に、缶入りクッキーを差し出す。
文句一つ言わず、華撫はクッキーを頬張り始めた。
「歳は、いくつだ? 小学生だよな。察するに、十一か十二歳か」
「失礼ね、八月で十五歳なんだけど!」
「まだ、十四歳だろうが」
その割には随分と小柄だな。ツインテールの髪型も、幼さを助長している。
「もうすぐ高校に上がる女子が、こんな場所に何の用だよ?」
サイダーで喉を潤し、華撫は話し始めた。
「家出してきたの。一言でいうとね」
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