無能と言われ続けた普通の高校生が無双で世界を救うまで

@axsis

プロローグ

 急に自分の目の前から魔法陣のようなものが浮き上がる。



 おそらく地面につまずいた拍子にあの壁のくぼみに手が触れってしまったのが原因だろう。


 何とも言えない浮遊感とともに霜月しもづきツバサは、必死に自分のことをつかもうと手を伸ばしてくる幼馴染の声が意識とともにだんだんと薄れていくのを感じる。


(こんなことになるならあの時素直に帰るべきだったかな・・・)



 なぜただの高校生であった彼が、夢とファンタジーであふれた世界で早速大ピンチになっているのか。


 始まりは一週間前までさかのぼる。



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「やべー。待ち合わせ時間20分も過ぎちまったじゃねーか。説教長すぎだろ」



 そう呟きながら校門まで走っている黒髪の少年、霜月ツバサは久しぶりに焦っていた。



 今日は久しぶりに幼稚園から一緒である幼馴染4人でそろって放課後に遊ぶ約束をしていたのだ。



 急いで校門の方に駆け寄ると、もうほかの3人は到着していたらしい。



「おーい、ツバサおせーよ。何してたんだよ」



「またなんかの課題を提出してなくて怒られてたんでしょ」



「あははは。確かにツバサって毎週違う先生に同じことで怒られてるもんね~」



 一番初めに声をかけたのは、身長180㎝を優に超えているであろう、見るからに熱血マンなツバサの親友、染谷竜也そめたに りゅうやである。彼曰く、染めてある明るい金髪は中学生のころからの夢だったらしい。バスケ部に所属していて、めちゃめちゃ暑苦しい性格をしている。



 次に声をかけたのは、クールビューティー、クラスの一部からはお姉さまと呼ばれ慕われている一条樹いちじょう いつきだ。一目で丁寧に手入れされているとわかるきれいな黒髪を肩まで下げて、腰に手を当てて立っている。弓道部の主将を務めていて 、その実力は全国クラス。当然、男子からの人気も高いのだが、どちらかというと女子からの方がモテているかもしれない。



 そしてその隣で楽しそうに笑っているのが、学校で一条と人気を二分する美少女、朝比奈文月あさひな ふづきである。天真爛漫でクラスのムードメーカー的な奴だ。自慢のポニーテールをゆっさゆっささせながら、ことあるごとにツバサに絡んでいくおかげで、ツバサは名前も知らないようなやつから恨みを買っている。



「悪い、今週は数学の課題の提出日だったらしくてさ。あいつにつかまっちまってた」



「はあ。まったく、課題も出してないのに、なんで毎回テストの順位は高いのかしらね」



「あー、あの人のお説教長いもんね~。それじゃ行こっか!」



 学校内ではそれぞれの部活に入っているため、そのメンバーとともに行動することがことが多い四人だが、たまにこうやって集まって遊んだりしている。


 

 ちなみにツバサは帰宅部、文月は陸上部にはいっている。



 周りからは、



「ああ、あの四人幼馴染なんだってさ。あれ、あいつ誰だっけ?」



「くそっ、陰キャのくせにいつも朝比奈さんたちと仲良くしやがって」



 とよくささやかれているツバサだが、いまさらそんなことを気にしてもしょうがないし、今のところ危害は加えられていないのであまり気にしていない。



 しばらく雑談をして歩きながら、遅れてきたため行き先を知らないツバサはどこに行くのかを聞こうとすると、



「ん?あれは何かしら。なんか道路がぱっくり割れているように見えるのだけれど」



 なにやら樹が妙なことを言い出したので、三人は同時に指さす方向を向く。見てみると道路にほんの少し黒い模様が入っていた。確かに模様のようにに見えた。



「なんだろー。見に行ってみようよ!」



「ああ、そうだな!」



 と文月と竜也が走っていくあとを樹もついていく。ツバサはその光景に少し違和感を感じたが、特に危険もなさそうなので少し遅れて駆け寄っていくと、文月がその模様を覗き込んだところで急にその模様が大きく広がった。



 周りを囲んでいた三人は急に広がった黒い何かの上で一瞬ふわりと浮いた後、その中へ落下していく。



「なんだこれ・・・くそっ」



 遅れてやってきたツバサも懸命に手を伸ばしてかろうじてのこっている誰かの手をつかもうとするが、広がり続ける黒模様に飲まれてしまい、共に暗闇の中に姿を消す。



 少しした後、その道路には再びいつもの静寂が戻っていた。


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