第一章 結婚式

 今日、俺は人生の絶頂を迎えていた。


 俺の目の前にいるのは、偽りなく天使だった。


 それは俺の妻となる為國絢羽ためくにあやはだ。


 眩い純白のウェディングドレスに陽の光が差し、天使という形容を現実のものとしている。


 呆けている俺にアテンダーさんがフォローを入れてくれた。




「新郎さん、何か言ってあげてください」




 ハッとして、頬をぽりぽりかく。


 絢羽は「どう?」と首を傾げてはにかんでみせる。




「その、綺麗だよ。絢羽」




 思っていることそのままに言葉にした。


 ありきたり過ぎたかと後悔したが、そう思ったのは紛れもなく事実だ。


 俺は試着の時、絢羽のドレスを見なかった。


 絢羽には感想がほしいのにと文句を言われたが、今日この日の為に、断固拒否した。


 ちょっと揉めたが蒼穹そらが意地を張るなんて珍しいねと納得してくれた。




「白夜はくや様。準備ができましたらあちらの控室でお待ちください」


「はい」


「あ、はい!」




 一拍遅れて絢羽が返事をする。


 気恥ずかしそうに絢羽ははにかむ。




「えへへ。今日からあたしも白夜なんだね」


「あ、ああ。そうだな」




 俺としても絢羽が俺の苗字になるのは違和感がある。


 男女別姓の夫婦も珍しくなくなってきた昨今だが、絢羽は特に拘ることなく、俺の姓を名乗ると言ってくれた。


 まあ、役所での手続きが面倒だとぼやいていたが、俺もそこは申し訳なく思っており、一緒に役所に行くつもりだ。


 取りあえずは朝一番で婚姻届けを提出し、めでたく俺達は夫婦となった。


 その足で式場に向かい、こうして式の準備を進めている。




「ふぅ」


「緊張してる?」




 胸に手を当てて深呼吸していたら、絢羽がにょきっと顔を覗かせた。




「そりゃするだろ。絢羽は平気なのか?」


「あたしだって緊張するよ。でも、蒼穹が隣にいてくれると安心するから何とかなるかなって」


「お、おう」




 笑顔で応えてくれる絢羽が眩しすぎる。それに、アテンダーさんがいる前でそんな恥ずかし嬉しなことを言わないでほしい。見ろアテンダーさんが「あらあらお熱い」って言ってるぞ。


 ニコニコ笑っている絢羽。


 こいつ、確信犯か! 俺が恥ずかしがる姿が見たくてあんな台詞を。


 いや、待て。絢羽の顔が赤い。まさか、自爆覚悟、だと? 自分も恥ずかしいが、俺が照れる顔が見たいが為の発言だったというのか?


 お、恐ろしい奴。


 狙いに気付いた俺に気付いたらしく、顔を赤めながらそっぽを向く。


 やばい、可愛い! 俺のお嫁さんは滅茶苦茶可愛い。そんなお茶目な所も大好きだ。


 俺達は顔を赤めながら向かい合い、そして。




「あの~。その続きはどうぞ、式場で」


「「は、はい!!」」




 俺達は顔を真っ赤にした。


 もしかして、俺達は今、相当なバカップルなのではないだろうか?


 いやいや、今日婚姻届けを出した新婚出来立てがバカップルじゃないわけがない。だからこれは正しい反応なのだ。






 さて、俺は一足先に教会にやって来た。


 ゴクリと、唾を飲みこむ。


 き、緊張する。


 この中には両親や友人達、仕事関係の人達もいるんだ。


 俺、タキシード変じゃないよな?


 プロにも見立ててもらったんだ。間違いない、はずだ。


 第三者の目から見れば挙動不審者だろうけど、俺は自分の格好を確かめる為に姿勢を正し、見回した。




「新郎様。そんな緊張しなくても大丈夫ですよ」


「ええ、そうですよね」




 アテンダーが俺を励ましてくれる。


 深呼吸してぐっと腹に力を入れる。


 人生第二のスタート。


 大一番だ。


 ここで気張らなくてどうする!


 アテンダーさんが大丈夫かと頷き、俺も頷き返した。




「では、開けますね」




 そして、扉は開かれた。

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