異世界転移であっちこっち

さく・らうめ

序章

序章


「ああ、勇者様。よくぞ来て下さいました!」


 ・・・は?

 扉を開いたその先は、自分の知らない世界に繋がっていた。

 どこだここは?

 まず俺を“勇者”などと呼んだ女性に目を向ける。

 年の頃は二十歳前後。頭にカチューシャの様な物をつけていると思えば、ティアラだった。

 確か、絢羽あやはが結婚指輪を買う時に宝石店でお遊び混じりでつけていたのを思い出した。

 だけど、そんなチャチな代物じゃないってことくらいは俺にも解る。

 金髪碧眼で整った顔立ち、ウェディングドレスとはまた違った白を基調としたドレスを着ている。

 有体に言って、ファンタジー世界のお姫様そのものの格好だった。

 今の俺の格好を見ると変にマッチしていなくもない。

 次に周りを見渡す。

 かなり広いホールに俺はいた。

 市民体育館くらいの大きさだろうか。

 俺の足元にはレッドカーペットが敷かれ、真っすぐに伸びている。

 それもただ赤い絨毯ってだけじゃなく、見事な装飾が施されており、素人目にも上等な品なんだろうと理解できた。

 カーペット両端には兵士達が綺麗に並び、俺を見つめている。

 警戒と好奇心に満ち満ちた目だ。 

 レッドカーペットが伸びる先には二段ほどの階段があり、その階段の上には豪奢な椅子と、それに負けない服を着た老人が座っていた。

 まさかこのセッティング全てが俺へのサプライズってことは流石にないだろう。というかあり得ない。

 そんなのは魔法でも使わない限り不可能だ。

 まず魔法というキーワードが思い浮かんだことに苦笑してしまう。

 そんなゲームや映画等のフィクションに登場する異能力が頭をよぎるなんて、あまりにも荒唐無稽だ。

 本来であれば真っ先にこの状況を説明できるのは夢だろう。

 だけど、余りにもファンタジー要素が盛り込まれた世界に放りこまれて為、魔法という単語が真っ先に浮かんだ。

 まあ、いつまでも呆けてはいられない。

 一先ずコミュニケーションを取ってみよう。

 お姫様(仮)はどう見ても外国人だが、日本語を喋っていた。会話は成り立つはずだ。


「えっと、あの。何かのサプライズってことはないですよね? 私はどうやってこんな場所に移動したんでしょうか?」


 これがどういう状況か解らないので、自分の一人称は一先ず“私”にしておく。

 それに応え、お姫様(仮)は俺を見つめた。


「驚くのも無理はありません。まずこの世界はあなた様が住んでいた世界とは異なる世界、ロンレキア。そして今、勇者様がいる国が、わたくし達の国フォルキア。わたくしはその国の王女、エリーザと申します」


 俺は現実の受け入れを拒否する。やっぱ夢だこれ。

 アニメ好きの絢羽の影響で俺も異世界物は知っている。

 今の状況はそのまんまの展開だった。

 なるほどなるほど。

 最近仕入れた知識だからこそ、こうして夢で出てきたと言うわけか。


「・・・は、はは、嘘だろ?」


 拒否する心を理性が諭す。そんなはずないだろう、と。

 大体これが夢なら俺が寝たのはいつだ?

 夢と現実の境界線を明確に引けない。

 俺は扉が開いた時から夢に落ちていたのか?

 それこそ嘘だろ。

 ならなんだ。これが夢じゃないんだとしたら、他に合理的な説明ができるか?

 頭を抱えてセットした髪をかきむしり、自分の経験と発想の乏しさに絶望した。

 何も自分を納得させられる解答が見つからない。

 本当に、異世界転移したってのか?

 そう理解した時、俺は結婚式用にレンタルされたタキシードを着たまま自然に絶叫していた。


「じ、冗談じゃないぞおおおおおおおお!!」

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