完璧な妹に育成されるダメな俺!?

スズヤギ

第1章 ミスターゼロと完璧な妹

第1話 ミスターゼロ

 ああ……学校ってホントつまらないな。


 俺の名前は如月勇樹きさらぎゆうき

 都内の高校に通う3年生である。

 積極性ゼロ。協調性ゼロ。おしゃれ度ゼロ。友達ゼロ。好感度ゼロ。

 ある意味学校内でも有名人らしくこう呼ばれている。


『ミスターゼロ』


 最近ではみんなの関心もゼロになってるとかいないとか。

 俺自身、他人に興味がないからどうでもいい。

 そんな退屈でなにもない高校生活だったけど、俺は春が待ち遠しくて仕方がなかった。


 やがて念願の4月になり真新しい制服に包まれた顔もあどけなくて初々しい新入生たちが入学してきた。

 その中に一際他の生徒たちとは明らかに違うオーラをまとった人物が。


 まるで天使のような神々しい輝きを放ち、ひとたび笑顔を向ければどんな人物も虜にしてしまう……そんな美少女が入学してきたのだ。


 横を通り過ぎるだけで見惚れてしまうような凹凸が有りながらもスレンダーな体、誰にでも優しい性格、成績はもちろん優秀で運動神経も抜群。

 周りには彼女を慕う女子たちがいつも天使さまを囲んでおり、欠点らしいものなどなにひとつ見当たらなかった。

 

 あえて名前を付けるなら……


『パーフェクエンジェル』といったところだろうか。


 この天使の登場によって勇樹の高校生活は、ここから一変していく。


 この日は新入生が入学してきて初めての全校集会が行われていた。

 在校生には有名な校長先生のありがた迷惑な長い話や生徒会からのお知らせなども終わり、最後に新入生代表の挨拶が行われる。


「新入生代表、〇〇さんお願いします」

「はい!!」


 可憐な声があたりに響くとそれまで退屈そうにしていた生徒たちそして教師までもが一斉に注目し、さながらアイドルのMCを聞くような雰囲気になっていった。


「やっぱ可愛いよなー!!」

「〇〇様~!!」


 そんな声が男女問わずあちらこちらから聞こえてくる。

 あるものはスマホを取り出して写メを盗撮しようとするもの。声を聞いただけで震えているもの。

 みんながいろんな意味で昇天していく。

 ただ一人を除いては。


 「早く終わらねーかな」やばい心の声がダダ漏れしてるな。でもあのハゲの校長の話が長いから仕方ないよな。

 「ふぁ〜」思い出しただけであくびが出てきやがった。せっかく……が話してるのに。

 

 ひとり言やあくびを見た生徒たちがミスターゼロを睨みつけてくるがまったく気付きもしなかった。この空気を読むのもゼロなのだから当然と言えば当然だろう。


「ミスターゼロのくせに大事な新入生代表の話の最中に関心集めんな」


 しかし周りの生徒から白い目で見られるのもまったくお構いなしである。

 人はどうして他人の目を気にするのだろうか?

 人間は所詮ひとりで生きていかねばならないのに。

 その中で本当に大切な物だけを守れれば俺はいいと思うんだけど。

 だから興味のないものにはまったく関心を持たないのだ。


 新入生代表の挨拶を終えてみんなの天使が全校生徒を見渡すとそれは突然起こった。

 天使がミスターゼロの方を向くと満面の笑みを浮かべ、軽く手を振っている。


「あ、お兄ちゃん!!」


「「「「えっ!?」」」」


「お、俺かな?妹欲しかったんだよなーーー」


「私はいつでも準備は出来ていたよ」


 おい!今日になって妹が突然出来る訳ないだろ。さらにそこのハゲ!お前は校長だろ。何十歳離れていると思ってるんだよ。キモいんだよ。


 そんな事態にも冷静な新入生代表はさらに笑顔で手を振っている。みんなの視線が一斉にその方向へ向けられると、視線の先には恥ずかしそうに手をあげる人物が一人。


「えっ?」

「うそ?」

「もしかして如月ってあの?」

「うわぁ~!!同じ名字!?」


 手を振り返していた人物こそ、別名「ミスターゼロ」如月勇樹(きさらぎゆうき)その人だった。

 そう新入生代表で挨拶したみんなの天使の彼女の名前は「如月新菜きさらぎにいな」勇樹の実の妹だったのである。


 ショックのあまりパタパタと生徒、さらには教師までもがうずくまるもの、倒れていくのをしり目に勇樹はーーー


「人間ドミノ……」とひとことだけ発していた。周りが倒れてもどうでも良かったのだろう。


 やっぱり勇樹には他の人にはあるいろんなものがゼロなのかもしれなかった。


 その後の一日は勇樹にとっても新菜にとっても大変だった。

 休み時間のたびにくるコイツら誰なんだよ。

 

 「本当に妹なのか?」

 「血は繋がってないよね?」


 そもそも出っ歯くんと眼鏡子ちゃんは、見た事もないぞ?

 同じクラスメイトなのかよ。次から次へと知らないやつが来やがる。

 

 普段であれば「ボッチ」生活を堪能するのだが、休み時間のたびに囲まれてしまったのだ。

 しかしほとんどが質問というよりは奇声や罵声に近いと言ったほうが正しいだろう。

 質問されても勇樹がいつものように関心ゼロ、覇気ゼロで相手にせず妹だよ以外の言葉を発しなかったからである。


「お、お兄ちゃん...」


 家に帰ってくるなり新菜が泣きながら勇樹の胸へとダイブしてくる。

 いつもの落ち着いたイメージからは考えられない行動である。


「みんながお兄ちゃんの事を…お兄ちゃんの事を……ミスターゼロってなんなの?みんなが言っているのは本当の事なの?」


 きっといろいろ嫌な話を聞いたのだろう。

 実際に中には兄妹の縁を切った方がいいとまで心無いものから言われたりもしていた。

 新菜は兄が大好きだった。小さな頃からすごく優しい兄。頼りになる兄。かっこいい兄。

 そう思い込んでいた新菜にはあまりにも残酷な現実だった。


 「新菜……ガッカリさせてごめん。みんなが言っている事はほとんどが本当の事だと思う。俺は新菜の事以外は今までどうでもいいと思っていたんだよ。それがこのザマだ」

 

 さらに勇樹は頭を優しく撫でながら新菜にこう言った。


「新菜、俺を変えてくれないか?お前のためなら俺は変わる。変われるから…2度と泣かせたりしないから」


 そこにいたのは今までのミスターゼロの姿ではなかった。

 勇樹は極度のシスコンであり大切な妹のためなら、熱くなれる男だったのだ!!

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