第10話 真実へのアプローチ
雄二と理紗は豊国市立図書館四階の受付に居た。雄二は持参したパスポートと運転免許証で四階のアクセスIDを作成していた。この四階のエリアは日本人であれば誰でも入る事が出来たが、予めアクセスIDの作成が必要となる。理紗は既にIDを持っていたが、雄二は新規の作成が必要だったのだ。
雄二は入手したアクセスIDで四階の入口ゲートを通った。理紗もそれに続く。中は多くのワークステーションが置かれたデスクが並び、その奥に車の部品が並んだ広大なエリアが見える。その手前の左右に解析ルームと呼ばれる部屋が複数並んでいた。その一つのドアを開けて二人は中に入った。解析ルームの中には四人掛けのテーブルが在り、大型の液晶スクリーンを持ったワークステーションが置かれていた。
雄二は慣れた手付きでそのワークステーションを起動させ、プライムのデーターが保存されているスマホをUSB―Cケーブルでワークステーションに接続した。
「車載データー読み出しアプリに外部書き出しモードがあるから、このモードに入れるとワークステーションから外付けストレージとして認識されるんだ」
雄二はそう言いながらワークステーションを操作してく。スマホのストレージフォルダーをダブルクリックすると、『カメラデーター』と『ドライブデーター』という二つのフォルダーが見える。『カメラデーター』を開くと、更に『画像演算データー』と『外部モニター』という二つのフォルダーに分かれていた。
雄二が『外部モニター』データーを開くと、そこには日付と時間名で分けられた複数のMP4形式の動画ファイルが見える。雄二は昨日の事故のファイルを見つけ開いた。メディアプレイヤーソフトが自動的に起動し映像がスタートする。プライムの前方をカメラで撮影しているその映像は正蔵がプライムを起動した所から始まっていた。
図書館の駐車場が映っている。理紗の声がする。
「おじいちゃん、『パイロットセンス』を使うの? それって高速道路の上だけで使うんじゃないの?」
「理紗、この新型プライムには最新型の『パイロットセンス』が搭載されている。これは停止から高速までの安全運転支援を行う。一般道でも使える緊急ブレーキや誤発進防止機能が最初から搭載されているんだ」
プライムは緩やかに右折すると駐車場の出口に向かっている。出口ゲート前で停止すると正蔵が支払い処理をしている様だ。車は南側を向いている様で、真正面からの太陽光でカメラ映像がハレーションしている。
直ぐにゲートバーが開く。正蔵の声が聞こえる。
「さあ行くぞ」
その瞬間、プライムが急加速を始めた。
「何?」 「おじいちゃん! ブレーキ!」
「えっ? いや、踏んでる!」
二人の声に敦子の悲鳴が混じる。
プライムは図書館の出口を飛び出した。
「クソ!」正蔵の唸りが聞こえ、プライムはタイヤを軋ませ「キィー」と言うスキール音を響かせながら図書館の前の道路を左に曲がった。
「おじいちゃん! 踏み間違え! 足見て!」
加速を続けるプライムの中で理紗が叫ぶ声が聞こえる。
「理紗! 見てくれ! 私の右足はブレーキを踏んでいる!」
「ブレーキ踏んでるのに、何で止まらないの!」
理紗の悲痛な叫びが聞こえる。
目の前に赤信号で停車している車列が近づいている。
「チクショ!」
再び正蔵の唸りが聞こえ、プライムは対向車線に飛び出した。そしてあっと言う間に交差点の横断歩道上で女性とベビーカーを跳ねて本屋に突っ込み、店内の本棚を押し分け奥の壁に衝突した。映像はそこまでだった。
ワークステーションのモニター上の映像を見た二人は暫くその場を動けなかった。理紗は涙を浮かべている。あの『瞬間』は映像にもしっかり残っていた……。
「辛い事故だったね。気持ち分かるよ。でも大事な事が分かった。正蔵さんも理紗さんもブレーキペダルの確認をしている。だからこれは多分ブレーキとアクセルの踏み間違え事故じゃない」
理紗は涙を流しながら大きく頷いている。
「もう少し解析してみよう。走行データーも確認出来る筈だ」
雄二は次に『ドライブデーター』と書かれたフォルダーを開いた。やはり日時と時間がスタンプされたDATとい拡張子の付いたファイルが並んでいる。雄二がそのファイルを開くと大量のランダムテキストが並んだデーターが開いた。雄二がそのデーターを眺めながら言った。
「これはCANつまり“Controller Area Network”を流れる走行状態の履歴を十ミリ秒毎に取得したデーターなんだ。IDは全部で二五六個が割り当てられていて、その一つ一つに八ビットのデーターが取得されている」
理紗はその目がチカチカする様なテキストデーターの羅列を見ながら言った。
「でも、これをどう加工すれば走行データーとして見る事が出来るの?」
「それはCAN―IDリストが必要だけど……」
「それは、何処にあるの?」
「会社に戻れば……。今は無理か……」
ハッとして雄二が叫んだ。
「理紗さん、この図書館にはプライムの全ての図面が保管されているって言ってたよね?」
理紗が頷く。
「ええ、新型プライムの発売時点の全図面がある筈よ」
それを聞いた雄二がワークステーションのキーボードを高速で叩き始めた。彼はCADソフトCATIAを立ち上げた。そしてファイルメニューからCADデーター保存エリアを開く。
「完全に会社のデーターと同じ保管ツリー構造だ。そうすると車両制御システム図は……」
雄二がフォルダーを次々に開いて行く。
「有った、この図面だ」
そう言って一つの図面データーを開いた。そこにはPIDと書いたテーブルが見える。
「よしこれで解析出来る。取り敢えず、アクセル開度とブレーキ踏力、トルク司令とブレーキ制動力、そして速度の五つのパラメータを見てみよう。IDはアクセル開度が一七番、ブレーキ踏力が二二八番、トルク司令が一八六番、速度が一三番か……。これを並べれば……」
雄二は先程のテキストファイルを表計算ソフト上に展開し、物凄い速度でキーボードを叩いている。そして理紗の前に折れ線グラフが表示された。
「もう少し待ってね。さっきの動画と経過時間をシンクロするから……。このマクロで行けるか……? 多分、大丈夫だ……。よし、見てみよう」
モニターの上側に先程の動画ファイルが下側に表計算ソフトのグラフが並んだ。グラフには縦の線が入っている。
「動画の時間軸に合わせ、グラフの縦の線が動いて行くから見ていて。少し先送りするよ。駐車場のゲートバーが上がった所から見てみよう。良いかい、各グラフの線は緑色がアクセル開度、どのくらいアクセルを踏み込んでいるか。青色がトルク指示、つまりエンジンがどのくらい出力を出しているか。赤色がブレーキ踏力、ブレーキをどのくらい強く踏んでいるか。桃色がブレーキ制動力、どのくらいブレーキが効いているか。そして黒が車速だ」
雄二が時間を進めると映像上でゲートバーが上がる。アクセルを一五パーセント踏み込んだのがグラフで分かる。同時にトルク司令が一三パーセントまで出た。そしてアクセルが戻されるが、突然トルク司令が百パーセントに上がった。プライムが急加速を始める。そしてブレーキが一杯まで踏み込まれるがブレーキ制動力は全く出ていない。トルク司令は百パーセントに張り付いたままだ。速度は急激に増加している。
これはアクセルを踏まずにブレーキを踏み込んでいるのに車がフル出力で暴走しているという事だ。
「つまりあの事故は正蔵さんの運転ミスでなくて、プライムの不具合って事だ……。ブレーキを踏んでいるのに加速を続けるなんて信じられない。至急、解析して早く販売済みの全てのプライムに対策を行わないと……。第二第三の事故が発生してしまう」
雄二の説明に理紗は自分が間違っていなかったと安堵したが、一方でとても危険な不具合を抱えた車が今も日本中を走り回っている事に恐怖した。
既に時間は一八時に近づいていた。この図書館は二十四時間の開館サービスを運用しており、まだ充分に解析をする時間は有ったが、早く豊国自動車の正式検討を始めさせなければならない。
「私、父に電話して、至急、追加の解析を行う様にお願いしてみる。それに雄二さんの自宅謹慎もきっと解除されていると思うわ」
【同時刻、豊国自動車社用車 後席】
正一は社長室に戻る事なく、会社を後にしていた。暫くは自宅謹慎をする様にと中西社長代行に指示をされていたのだ。混乱しながらも自宅に向かっていた正一の電話が鳴る。電話を取り出すと、それは理紗からだった。
「お父さん、私。今、雄二さんとプライムの暴走事故のデーターを見たの。やっぱり事故は運転ミスじゃなかった。プライムに不具合があるの。早く対策しないと……。お父さん聞いている? 雄二さんの自宅謹慎は解けたの?」
少し間を開けて、正一は言った。
「残念ながら、川上君の自宅謹慎を解除する事は出来なかった。私は代表取締役を解職されて、今日から当面、自宅謹慎だ……」
理紗は衝撃を受けた様に電話を切った。
「社長が自宅謹慎ってどう言う事?」
電話を切って呆然としている理紗に雄二が尋ねた。
「中西副社長が取締役会で代表取締役解職の緊急動議を出して、取締役の賛成多数で父は解職されたんだって……」
「何だって?」
雄二が目を見開いている。想像もしていない事態だった。
「ねぇ? 雄二さん。代表取締役の解職ってどう言う意味なの? 解任って言葉はよく聞くけど、解職は初めて聞いた……」
「えっ? ああ、取締役は株主に選ばれているから、取締役の解任は株主総会でしか出来ない。でも代表取締役の解職は取締役会の多数決で実施できる。だけど、通常は代表取締役でない社長は居ないから、代表取締役の解職は社長解職と同義だ。でもお父さんは未だ豊国自動車の取締役には留まれていると思うよ」
「でも、中西社長代理に謹慎を命じられたから会社に出社は出来ないみたい……」
起こった事実を理紗も受け止められないでいた。祖父は未だ意識不明の重体、父は社長を失職した。たった二日でこれだけ大きな事が起こるなんて……。
「そうか……。中西副社長が……、クーデターを……。うん? ちょっと待てよ」
雄二は何かに気付いた様だった。
「昨日、社長が記者会見で発表したドライブレコーダーのデーターは、ここで僕等が解析したデーターと全く違っていた。あれは明らかに誰かがデーターを改竄している。そしてデーターにアクセスしようとした僕を自宅謹慎にして、社長まで解職に追い込み自宅謹慎にした。データー改竄は中西副社長が指示しているんじゃないかな……?」
「えっ?」理紗が驚いた様に雄二を見つめる。
「プライムの不具合は開発のトップである中西副社長の責任問題になる。確か最近ADAS開発課の大山課長が相当悩んでいるって聞いた事がある。想像だけど、プライムの不具合はADAS、つまり自動運転機能『パイロットセンス』の走行制御プログラムにバグが有って、未だ豊国自動車はその不具合の真因を発見できていないんじゃないかな……。これが白日の下に晒されれば中西副社長の進退に関わる。だから、不具合を隠蔽して事故データーを改竄して……」
「雄二さんと父を、自宅謹慎に追い込んだ……」
「多分、そうだ。豊国自動車が総力を挙げても、プライム発売から三ヶ月も経った今でも不具合の原因を特定出来ないなんて……。何か重大な点を見逃しているんだ……」
理紗は少し考えていたが、思い切った様に雄二に言った。
「私達で解析出来るかな……?」
「えっ?」
「中西副社長は都合の悪い不具合の情報が拡散しない様にデーターの閲覧範囲と解析する人材を限定していると思うの。それでは豊国自動車が総力を挙げて取り組んでいるとは言えないわ。一方で私達は事故時の詳細の映像データーと運転履歴のデーターを持っている。そしてこの図書館にはプライムの全ての図面、部品まで揃っている。それに……」
「それに、何?」
そう聞いた雄二を理紗は大きな目で見つめながら言った。
「それに、もう一つ重要なのはここには豊国自動車で最も優秀な技術者がいる事よ」
「えっ? それって……?」
「貴方よ、雄二さん。貴方ならきっと真因を見つけてくれる」
理紗は真っ直ぐに雄二の目を見ている。
「不具合の真因を見つけ対策案を示さない限り、豊国自動車はいつまで経ってもこの事実を隠蔽するだけよ。それではあの母娘の様な事故がこれからも発生してしまう。一刻でも早く事故の原因を見つけたい……。それがあの母娘へのせめてもの償いだと思うの……」
雄二は理紗の真っ直ぐな想いに感動していた。ADAS制御のプロ、大山課長が特定出来ない問題だ。その分野の素人の雄二に解く事が出来るのかは分からなかったが、彼等が気付かない別の視点からのアプローチが出来るかもしれない……。雄二の気持ちは決まっていた。
「分かった。理紗さん。やってみよう。でも一人では難しいかもしれないから、手伝ってくれるかい?」
その雄二の言葉を聞いて、理紗が満面の笑顔で頷いた。大きな目に涙が浮かんでいる。
「有難う。雄二さん。勿論、私も手伝わせて……」
雄二も大きくうなずいた。
「じゃあ、考えを整理していく事も含め、図書館の部品エリアでプライムの関連部品を見ながら考えてみようか。その時に今回の暴走に関わる運転制御、部品の機能を説明するよ」
「分かったわ」
二人は解析ルームを出ると奥の部品保管エリアに向かった。
【図書館四階 プライム部品エリア】
このエリアにはプライムに取り付けられている二万八千もの部品が整然と並べられている。その中にはエンジンの様な大型の部品からボルト・ナットの様なバルク部品も含まれていた。各部品は車への搭載位置を基本に並べられていたので、目的の部品を見つけるのは自動車技術者の雄二にとっては容易だった。
二人で『パイロットセンス』の自動運転制御に関連する部品を一つずつ確認した。
「理紗さん、これがアクセルペダルとそれに装着しているアクセル開度センサー。昔の車はこのアクセルペダルがケーブルでエンジンのスロットルに接続されていたけど、今はここに在るのはただのセンサーだけ。このセンサーでどのくらいアクセルが踏み込まれているかを測定して、その値を入力されたコンピューターが電動スロットル開度を決めて司令を出すアクセルバイワイヤーになっている」
理紗がアクセルペダルユニットを手に取って珍しそうに見ている。
「そしてこれがコンピューターの一つ、HCM(ハイブリットコントロールモジュール)。エンジンとモーターで走るハイブリッドカーの要だ。アクセルセンサーの値を見て、エンジン側と駆動モーターに対しトルク指令を出すんだ。そしてブレーキの踏力センサーの入力から、回生ブレーキで止まるか機械ブレーキで止まるかの判断をしている」
それは二十センチくらいの灰色のユニットで沢山のコネクター端子が設けられていた。理紗はやはり手に取りながら、一つ一つの部品を考えて設計している人って凄いって思っていた。
「そしてこれがECM(エンジンコントロールモジュール)、HCMからのエンジントルク使令を受けて、また外気温やエンジン温度を見ながら、電動スロットルの開度を決めている。また各気筒の燃料噴射量や点火タイミングの制御もしている」
雄二が理紗に渡したユニットはさっきのHCMと完璧に同じ形に見える。ただし端子の数は先程のHCMより少ない。
「これが電動スロットルユニット。ECMの指令を受けてエンジンのスロットル開度を電動で変化させる。フル出力を出すときは、このスロットルが一杯に開く」
そのユニットは直径十センチくらいの丸い円筒の中央にアクチュエーターとスロットバルブが取付けられていた。
「次にブレーキに行こう。これがブレーキペダルユニット。普通の車のブレーキはペダルが直接マスターバックの中の油圧シリンダーを押してブレーキ油圧を出す構造だけど、新型プライムからブレーキも完全にバイワイヤーになった。だから、このブレーキペダルも踏力センサーがあるだけで、その値はHCMに入力される。そして必要な制動力をコンピューターが計算して、車輪のディスクブレーキを電動で動かす」
そのペダルユニットはシリンダー式のダンパーも入れて三キロぐらいの重さのある頑丈なものだった。
「これがBCM(ブレーキコントロールモジュール)。HCMからのブレーキ制動力使令を受けて、各輪のディスクブレーキアクチュエーターに制動の指示を出す。また滑り易い路面でブレーキのロックを防止するABS(アンチロックブレーキシステム)の機能とコーナーでスピンに入らない様に内輪のブレーキ力を増加させるVDC(ヴィークルダイナミックコントロール)の機能もこのBCMが判断して行なっている」
これも先程のHCM、ECMとほぼ同じサイズのユニットだった。
「これが前輪右のブレーキユニット。ディスクローターとブレーキパッド、パッドを動かす電動アクチュエーターで構成されている。普通の車はパッドを油圧で動かすけど、新型プライムはパッドを電動アクチュエーターで動かす。ハイブリッド車や電気自動車は駆動モーターによる回生ブレーキが有って、この回生ブレーキで制動すると運動エネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリーに戻せるから燃費を向上出来る。だからまずは回生ブレーキで制動して、止まれなくなったらディスクブレーキで制動するという制御を行っているんだ」
その部品には複数の穴が空いたディスクプレートに取付られたパッドに電動シリンダーが固定されていた。
理紗は理解した。プライムはブレーキペダルを踏む事とブレーキが効く事は同義では無い。中間にコンピューターが介在していて、車がスリップしない様に、もっと燃費を向上出来る様にコンピューターが考えてブレーキを動かしているんだ。だからコンピューターのプログラムを間違えたらブレーキが効かない事もあるんだ……。
「そして最後に、これがルームミラーの前側についているADASカメラユニット。これが『パイロットセンス』の自動運転のキーデバイスだ。ここにある単眼(シングル)高解像度カメラで前車との距離、道路の車線、 そして信号や標識を認識する。そして内蔵されたADASコントロールユニットで、前車との距離や車の左右の位置、信号の色、標識の意味を高速演算している。そして自動運転中はこのユニットがアクセル開度指示、ブレーキ制動指示をHCM(ハイブリッドコントロールモジュール)に対し出している。勿論アクセルペダルやブレーキペダルの動きとは全く関係なく……。でも、それは基本動作だ……」
理紗は雄二から渡されたADASカメラユニットを手に取った。大きさは三十センチくらいで、ウィンドシールドに密着して固定できる様にカメラ側は斜め上方に切り欠かれている。
「基本動作ってどう言う事?」
「通常はブレーキやアクセル入力に関係なく、加速や減速を自動制御しているけど、ドライバーがブレーキを踏み込んだ時は自動運転制御がキャンセルされる。これを人間による上書き(オーバーライド)と呼んでいる。だから、昨日の事故でもブレーキを踏んだ時に上書き(オーバーライド)されるべきだ。そして自動運転はキャンセルされて暴走は発生しない筈なんだ。それがどうして上書き(オーバーライド)されなかったのか? それが今回の制御プログラムの不具合のポイントだと思う」
理紗は雄二の詳細の説明でプライムの運転制御、自動運転制御に関しての概要を理解する事が出来た。
そして、あらためてこの図書館で祖父が成し遂げたかった事が分かった様な気がした。文系の理紗でも雄二の説明と実際の部品を見る事で、自動運転技術の概要を理解する事が出来た。ここで理系の若者が学べば、それは彼等にとって素晴らしい技術の糧になるだろう。それを実現する為に祖父はこの図書館にこれらの情報や部品を展示する決断をしたんだ。それが豊国自動車に取っては情報漏洩のリスクとなったとしても。
その時、部品展示エリアの右の方を見ていた雄二が呟いた。
「ここには電装システムシミュレーターもあるのか……。凄いな」
「雄二さん、電装システムシミュレーターって?」
「プライムに搭載される全ての電気・電子系ユニットを搭載して、全てをワイヤーハーネスで接続して、電気系や電子・制御系の動きをシミュレート出来るんだ。あんな物まで準備されているなんて……。正蔵さんの想いを感じるよ」
理紗が、雄二が見つめる方向を見ると、車の骨格をパイプフレームで模擬した設備が見える。そこには様々な部品が取付けられ、それらが電気配線で接続されているのが見えた。
あれが雄二の言う電装シミュレーターだ。
「それじゃ、概要の理解は進んだと思うから、もう一度、事故の時の映像と他の走行データーもチェックしてみようか?」
「うん!」
理紗は雄二の提案に大きく頷いた。
時計を見ると午後八時を廻っていたが、二人の意欲は全く損なわれていなかった。
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