少しお金を貯めたいだけだったのです
朝から広場は騒がしかった。
「幻獣姫様が革新派の手によって殺害されたって?
くそっ、何をやろうってんだよアイツらは!」
「革新派ってあれでしょ?
ガルム教の教えに反してばかりで口ばっかりの」
そんな会話があちこち聞こえるようになったのは、夜明けと同時に昨晩のことが公表されたからだった。
当然真実はねじ曲げられて、なのだが、まさか革新派の仕業にされてしまうとは……
そんなクロウたちが街にいることも知らず、ガルム教教皇ディストと枢機卿マルドールは教会の一室で祝杯をあげる。
ぶどう酒を片手に、邪魔者の始末ができたことを喜んだのだ。
教皇、そして枢機卿。
実質のトップと二番手は、大司教セドリックをとりまく革新派が目障りであった。
「一時は冒険者に救い出されたと聞いて驚いたが、間違いなく始末したんだな?」
「はい、小屋に現れたのは獣人の冒険者と十にも満たない子供が二人だったと報告を受けております」
「ならばよい。可哀想ではあるが、地下の施設を見てしまった姫には消えてもらわねばならんからな」
「可哀想とは異なことをおっしゃいます。
アレは半獣、人ではなく#モノ__・__#ですゆえ……」
「それもそうか、しかしまた用意せねばならんのも面倒じゃのぉ」
「どこかに都合よく置いてあったりしませんかね?
そうすれば我々の手間も省けるのですがねぇ……」
先代の幻獣姫のように、拾ってきて#不要__醜く__#なれば処分すればいい。
わざわざ1から作るなど無駄なことだと、枢機卿マルドールは言う。
ただでさえ見た目を保つのに金がかかるのだ。
初期費用はなるべく抑えたいものだからな。
対する教皇の考えも同じであった。
そうなると話は早い。
どこぞの民家に落ちていたりしないか、探して拾ってこい。
保守派の者たちにそんな命令が出されたのは、それほど先のことではなかったのだった。
そして、教皇たちがそんな邪な考えをしていることを、サクアはよく分かっていた。
「あの人たち、上辺は良いことばっかり言っているけど、あんなの全部ウソよ。
民の暮らしを第一にとか、人族と獣人の協和のためにとか」
街を散策しながら、黒いローブを着た少女が大声でそんなことを言うのだから、正直目立っている。
魔物同様に、草木やアイテムの鑑定ができる。
そしてそれは同時に人間の感情も見ようと思えば見れるということだそうで……
「もしかして、僕たちも見られてる?」
「そうよ、だから好きになったんじゃないの。
私の姿を見て好意しか感じない人間、
初めてなんだもん」
めっちゃ見られていた。
もしかして狐耳可愛いとか、尻尾でもふもふしたいのもバレバレだった??
サクアがこれまで見てきた人たちは、教皇や枢機卿も含めて『嫌悪感』か『無関心』しかなかったのだと。
だから、こんな力を持っていることも誰にも教えていなかったそうだ。
「でも最近、変な人の感情も混ざっている気がするんだよねぇ。
なんていうか、教皇しかいないのに、近くに別の人がいるような……誰かを嘲笑するような感じの……」
「実際にいたんじゃないの? 幽霊とか」
見えない存在で笑っている。
僕にはそうとしか思えなかった。
「やだよ幽霊っ、ねぇいないよねサクアちゃん……」
ヤエが僕の言葉に反応して涙目になってしまう。
サクアのローブを掴んで、僕を睨んでいるような感じ。
今なら僕も鑑定できる気がするぞ。
ヤエの感情は恐怖と憤怒だな、僕への……
「そんなんじゃないわよ。
多分地下の実験施設と関係あるんだと思うけど、ちょっと前に中に忍び込んだら速攻でバレて、追い出されちゃったのよね」
「教会の地下にそんなのあるんだ……」
「あるわよ、何やってるかは知らないけど」
フロックスが『どうせ、ろくでもない実験だ』と。
今までの話を聞いた限りでは僕もそう思ってしまう。
「別にもう、どうでもいいけどね。
私は#ちゃんと__・__#死んだことになったみたいだし、これからはクロウについて行くわ。
両親を探しているんでしょ?」
「うん。それは僕の方も助かるけど……」
本当にいいのか? お姫様なのに。
いや、#元__・__#お姫様か……
それから数日間、僕たちはギルドで素材を納品して稼いでいた。
冒険者や街の者から、最近街に来た人族の噂を確認して、次の行き先は東の港町へ向かうことになった。
周辺がほぼ山で囲われた聖地ガルムでは、やはり船で流入してくる者が多いのだとか。
転移はあまり関係ないだろうけど、情報が無ければ別の場所を探さなくてはならない。
小さい村なんかを回るよりも効率重視……のつもり。
「素材の納品ですね、ありがとうございます。
フロックス様のお持ちいただくものが、いつも状態が非常に良いので助かっております」
今日も素材の納品だ。
フロックスが受付に持っていく間は外で待っていた。
まぁ狩ったのは僕だったりするのだけど。
やはり明かに僕のステータスが人間離れしているようで……
ホントいつも思うけど、何か原因でもあるんだろうか?
「よぉ兄ちゃん、最近やけに羽振りが良さそうじゃねぇか。
俺たちにもちょこーっとだけ……
ん? なんだ子連れか……っ⁈」
僕たちが合流しようとフロックスに近付いたら、どうやら別の冒険者に絡まれていたみたいだった。
どこかで会った事でもあるのか、冒険者は僕たちの姿を見て驚いている。
いや、僕もどこかでこの冒険者を……
「チッ……」
ダッと駆け出して、冒険者は逃げていく。
そりゃあもう、周囲に人がいるのもお構いなしで全速力で。
フロックスを先頭に追いかけると、家の隙間から路地裏へ入り込む冒険者。
甘いなっ、その先は行き止まりだ!
という言い方をすると、まるで僕たちが悪役のよう。
「ヤエ、問題ない?」
「うん。人目につかない場所に入ったら閉じ込めれば良いんだよね?」
僕たちも追いかけて路地裏へ向かう。
「あっ、そうだわ。あの雰囲気、山小屋にいた人じゃないの」
サクアに言われて僕も思い出す。
逃げた冒険者が、山小屋のロビーで見かけた二人組の片方だということを。
「な……なんだよ、俺とやろうってのかぁ?」
追い詰められてなお強気な冒険者である。
それよりも、僕とヤエの姿を見て驚いたってことは、フロックスのことは視界に入ってなかったのだろうか?
「逃げた理由を聞かせてもらおうか?」
ゆっくりとフロックスが冒険者に詰め寄る。
「はぁ? そんなもん知らねえよ!
俺が何かしたって言うのかよ?」
「俺たちを教会に売った……いや、お前も保守派の一員ってところなのか?」
フロックスが剣を抜きながら語りかけると、冒険者もニヤッと笑って短剣を抜いていた。
「へっ、バレてんなら仕方ねぇな。
てめえらも姫さまみたいに大人しくあの世に行っちまいなっ!」
っと威勢よく襲いかかってきたところで、僕たちの敵では無かったのだった。
なんというか、ギリギリEランクくらいの実力しかない人で、即捕縛である。
殺すよりも生かして捕まえる方が難しいと思うのだけど、アッサリと捕まえてしまった。
さて、この男をどうするべきか。
「教会……いやギルドに突き出すべきだろうか……」
一応僕たちも命を狙われたのだし、幻獣姫殺害の手引きも行なっているっぽい。
そんなことで頭を悩ませていると、急にスッと辺りが暗くなってしまった。
「簡単だよ、余計なことを喋る前に全員消しちゃえば良いのさ」
誰もいなかったはずの場所に男が立っている。
できれば最も会いたくない種族。
その男は頭にツノを生やし、黒い翼を持っていたのだった……
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