一人で寝るのは怖いのです

 食事を終え、周囲に魔物がいない事を確認した僕たちは、少し休むことにする。

 ただ、半獣人がいたとなると、どうしても目立ってしまうものらしいので、サクアには耳と尻尾の隠せるローブを纏ってもらう。

 これはこれで『謎を秘めた女』といった感じで魅力的だ。

 ファンタジーにはよくいそうじゃないか。


「結構美味しかったね、サクアちゃん」

「えぇ、シンプルな塩焼きでしたが、悪くはなかったですわ」


 僕的にはムニエルを想像していたんだけどなぁ。

 でもまぁ、臭みなんか全然無かったし、やっぱり似ているだけでブラックバスじゃないんだろうなぁ。


「それにしてもブラックバスなんて魔物、私初めて見ましたわ。

 貴方たちの街ではよく見かけるのですか?」

 サクアが僕の顔を見て聞いてくる。

「さぁ……?

 僕、魔物のことは全然知らないんだ。

 そういうのはフロックスの方が詳しいと思うけど……」


 というか、声に出てたのかな?

 『ブラックバスみたい』とは思ったけど、確証なんて無かったし、正直魚を見分けられるほどそっちにも詳しくはないし……


「俺も見たことはないな。

 この辺りで見かける魔物も、本来は殻の硬いやつでな……

 しかしそうか、街に着いたらギルドで確認してみよう」

「えぇ。情報ならバッチリ、私の頭に入っていますわ」


 フロックスが言うには、ギルドに新しい魔物を報告すると、後日褒賞が貰えるらしい。

 特徴とか弱点とか利用用途とか。


 しかしなんだか不思議な会話だな。

 情報も何も、見た目くらいしかわからなかったと思うのだけど……


 その後は魔物に出会うこともなく、いやフロックスが適当に始末してくれたのかもしれないけど、順調に街に辿り着いた。

 ギルドカードを門番に見せると、『あぁ冒険者か』なんて言われてアッサリとスルー。


 そういえば関税とか通行税とかどうなっているんだろうと思い、フロックスに聞いてみた。

 ほら、街の整備費や補習費用、貴族様が豪遊されるためのお金なんかのことだよ、と。


「なんだそれは?

 っつか、他の街から来るような奴自体滅多にいねぇのに、それは取る意味あんのか?」

 あー……うん、ほとんど意味なさそう。

 魔物が出るって大変だね。


「それにしても広い街だねー。

 あ、美味しそうな食べ物の屋台があるじゃん!」

「本当だぁ、私も食べたいっ!」

 お金なら多分まだある。

 フロックスが財布の紐を握ってるわけだけど、大丈夫に違いあるまいて。


「なぁサクア様よ……

 アイツ本当に5歳児だと思うか?」

「ふふっ、とてもそうは見えませんわね。

 でも、あんな風にはしゃいでいるクロウ様は子供っぽいですわ」

「だよなぁ……

 ま、俺は金が儲けられそうならどっちでもいいんだがな」

「その割には親身になっているように感じますけど。ふふっ」


 屋台の前で大きく手を振るクロウの姿を見ながら、話をしているフロックスとサクアの姿がそこにはあった。


 ギルドに向かうと、フロックスはさっそく魔物の報告書をまとめ始めた。

 すでに目撃報告は出ていたそうなのだが、追加で詳細な情報を書き込んでいく。

 仮で『ギル』と名付けられていた用紙に、出現した場所、群れの数、体長や身体的特徴。

 そこにサクアが口頭で特徴を告げ、どんどん書き込まれていく。


「火魔法が弱点で、物理耐性は高いみたい。

 毒、麻痺無効。技は噛みつきぐらいで何も無かったわ。それと……」

 そんなサクアの言葉をそのまま書き込んでいくフロックス。

 しっかりと『ブラックバス』と名前まで上書きして……


「サクアって、もしかして魔物を鑑定するスキルとか持ってるの?」

「鑑定……ですか?

 うーん、そう言われれば鑑定という風にも捉えられますけど……」

 通りで僕がブラックバスと言った覚えがなかったのに、名前を知っていたわけだ。


「あぁ、そういや人族には持っている奴はいないらしいな。

 まぁ獣人族でも稀だけどよ、感覚の優れた奴は見ただけでそういうのを#感じる__・__#らしいぜ」

 フロックスが言うには、種族ではなく個人的に能力の高い者が持つ力だそうだ。


 『ちなみに、草花とかもその鑑定ってのができるわよ』なんてサクアが言うので、試しに剣を見せてみたら一発でスコルピだと見抜いてしまった。

 やばい欲しい、その能力僕も使いたい!

 女神様、何故私にそれを授けてくださらなかったのですかぁ……


 それはそうと……


 僕たちはギルドを出て、ひとまず近くの宿へと向かっていた。

「誰も噂とかしてなかったね」

「ん? まぁ今のところは目立った動きはないみたいだが……」


 いくらなんでも殺害した翌日では騒ぎにならないのか。

 情報が伝わるのが遅いんだろうな。

 情報社会のどこぞと一緒に考えるのは間違っている、か。


 宿は大きく、僕たちは3階にある2部屋を借りれるみたいだ。

 ベッドも4つあり、4つ……あるよね。

 ようやく解放されるんだ、あの眠れない夜から!


 ボフッ。

「わーい……うえしいあー……」

 ふかふかな布団に飛び込んで、僕はゴロゴロと。

 そういえばまだ風呂に入ってない……でもまぁ……いっかぁ……


 昼ごろまで寝ていたのだけど、移動はやはり疲れてしまう。

 僕が眠りにつくのには、そう時間はかからなかったのだった。


 なのに……

「ん……あれ……?」

 右腕にだけ感じるサラサラとした毛の触感。


 目を開け少し考えたが、僕は何も見なかったことにして目を閉じた……

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