後悔はして……

 獣人族というのは、様々な種族の総称である。

 代表的なワーウルフやバステトと呼ばれる短耳族、ガネシャという長鼻族もいれば、長耳族や赤鼻族、短足族なんてものいる。

 とりあえずまぁ、悪口ではない……


 その中でも長耳族エゾリスは、その小さな容姿に見合わず強大な魔力を持つ種族だと知られている。

 力が強かったり手先が器用だったりと、種族ごとにそれぞれ突出した特徴があるものなのだ。


 ただ、魔力が高いというのは何も良いことばかりではない。

 エゾリスの女性タエは、子を身篭っていた時から不安を感じてしまっていた。


 まだ生まれてもいない、そんな子供を護る自信がなくなってしまう。

 それも仕方がないことで、お腹の中で日々大きな魔力が動いているのを感じてしまっていたのだ。

 自身の力で子の魔力を抑え込み、時には睡眠を取ることもせずに子の心配を続けていた。


 それでも生まれてくれさえすれば幸せに暮らせるのだと信じたタエ。

 現実は残酷なもので、出産直前となったある日、事件は起きてしまった。

 『魔力暴走』


 行き場を失った魔力が、母と子の身体を駆け巡る。

 どうして自分がこんな目に遭わなければ……

 エゾリスには、稀に子供の頃から高い魔力を持つ者もいるのだが、それが生まれる前からなんてこと、聞いたことが無かったのだ。


『ちっ……失敗かよ……ったく』

 意識の薄れる中、誰かがそう呟いたように思った。

 それは自分の心が生み出した幻聴だったかもしれないし、手を握りしめる夫が本音で言った言葉なのかもしれない……


 とにかく、タエの心はそこで折れてしまったのだ。

 意識を取り戻した時には、大きな傷の残った自分の身体と、長くは生きられない我が子が傍にいた。

 生まれてからも時々魔力を抑え込みながら、タエは考えていた。

 そして実行したのだ。


ーーーーーー


『なんてことだい、奴隷市に赤子を捨てるなんて正気なのかねぇ?』


 夫にも黙って街を出ることになったのは、気持ちに余裕がなかったからだろう。

 自分のことを知られていない土地でなければ、簡単には手放すことができないと考え、周りは見えていなかった。


 ヤエと名付けた赤ん坊が、当時はとても憎らしく見えたものだ。

 だから全く戸惑うこともなかったし、どうせ短い命なのだから、魔道具を有する奴隷市で育てられた方が幸せだと信じて疑わなかった。


 新たな街でタエは必死に働いた。

 ようやく身体が動くようになってきたところだったというのに、人一倍働くのだから周囲の者は感心してしまう。


 そうしなければいけなかった。

 タエは何もかもから逃げ出した罪悪感で、身体を動かしていなければ耐えられなかったのだ。

 次第に少しづつ落ち着いたタエだったが……

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