ギルドカードを持ってみたいです

 ギルドの中には受付が四つあり、今の時間はその内の二つが開いている。

 素材や魔物に関する窓口が二つ、依頼関係やその他雑多な手続きや確認はもう二つの窓口らしい。


 今回は素材の買取なので、向かって右側の方へと進むフロックス。

 窓口に座る獣人のお姉さんたちは、よほどのことがない限り坦々と業務をこなしていくそうだ。

 おかげで並ばなくてはいけないことは滅多にないのだとか。


「買取を頼む」

 ただ一言そう告げて、素材を横に設置されたボックスへ。


 分厚い壁で仕切られているのは、金額に納得のいかない冒険者が暴れても大丈夫なように……とか怖くないか?

 確かに壁には真新しそうな傷が……


「あら、スコルピですか?

 ……二つともかなり状態が良いですね、これは査定に時間がかかりますよ?」

「あぁ構わない。

 俺たちはしばらく狩りに出かけるから、その間に査定しておいてくれ」

「わかりました。

 ではフロックス様、ギルドカードをお返しいたします」


 そういえば、さっき自分でシルバーランクとか言っていたな。

 カードの色もランクによって変わるっぽいなぁ……

 エゾリスも小さい種族だったし、近くにいたネズミっぽい種族も子供にしか見えないのに首にカードを下げていた。


「登録って僕にもできるのかなぁ?」

 何気なく呟いた一言だったが、お姉さんにも聞こえていて『はい、受付は向こうの窓口でやっていますよ』なんて返ってくる。


 じゃあついでにお願いしてこようかと。

 その方が色々と都合も良さそうだったし。

「まぁ……登録だけなら大丈夫だろうが、心配だからやめてくれ……」

 フロックスはため息を吐きながら僕を制止する。


 どういう訳かと聞いてみると、背後にある掲示板を指差して説明された。

 そこには多くの魔物の名前と、その部位が。

 さらには食材から聞いたことのない植物の名前まで、ビッシリと書き込まれているのだ。


 例えば、今回納品したスコルピの爪、討伐の難易度やそこに行くまでの道のり、現在の在庫状況が加味されて目安となる金額が書かれている。


「スライムゼリーやコボルトの牙くらいならどうってことねえが。

 クロウの実力なら貴重な素材もガンガン入手してくるだろう。

 そうなると、俺たちが採りに行ける素材の価値がグッと下がっちまうんだ」


 商人はもちろん、冒険者だって生活がある。

 ランクの低い狩場を荒らすこともマナー違反とされていて、僕がそんなことをしたらあらゆる方面から睨まれてしまう……と。


「えー……でも強い魔物と戦うなんて危険じゃん。

 死んじゃったらお金もランクも関係ないんじゃないの?」

「いやお前は冒険者をなんだと思ってんだよ。

 街を守るための大事な仕事だぞ?

 生活もできなくなるような収入じゃ冒険者は辞めていく。

 結果的に魔物の数が増えて危険が増すのは自分たちだ」


 今ここでスコルピの爪を10個納品すれば、確かに数ヶ月は働かなくていいお金が手に入る。

 だが、それと同時に実力が認められてランクが上がり、今後の狩りがやり辛い。

 しかもスコルピの相場はぐんと下がるのだから、いつまでも同じ魔物討伐では収入は得られない。

 加えて同ランクの者からは妬み恨み、スコルピで商売をしていた商人や防具やからも同様に。


 何事もやり過ぎは良くないということだ。

 ドラゴンでも狩れる力を持っているなら、そりゃあ誰もが万々歳だろうが、それはそれで相手がギルドではなく国になるみたいだが……

「……ってことでいいんだね……」

「おうっ、理解がよくて助かるぜ」


 いやしかし、冒険者の登録はさせてもらうことにしよう。

 ランクとか納品については、フロックスに任せておけば大丈夫みたいだし。


「ちぇっ、これだけ説明してもなりたいんだったら止めねぇよ。

 まぁクロウだったらゴールドどころかミスリルランクまで行けそうだしな。

 マジでドラゴンとか倒すんじゃねーぞ、俺が一緒についていけなくなっちまう」


 なんだかんだ言って、フロックスは色々と心配してくれるんだなぁ。

 そう思いながらも、実はちょっとだけ素材集めで稼げないかと思ってしまう僕だった。


「勝手に納品に行くんじゃないぞ、な、わかってるのか?」

「大丈夫だってば。

 僕だってそこまで馬鹿じゃないよ」


 ともあれギルドカードは手に入れた。

 最初は皆『アイアンプレート』から始まり、実力に応じてギルドが昇格させるものらしい。

 シルバーランクが多くて、ゴールドは少なめ。

 ミスリル……って伝説の金属だと思うのだけど、まぁそれが世界に数人いるみたい。

 ラグナロクが最上位で、いやもはや金属じゃないし。

 しかも存命している人は誰もいなくて、過去のラグナロクランクはみんな死んでから上がった人だとか……

 そうはなりたくないな……生きてランクを上げてほしいものだ。


「しかしまぁ……とりあえずは情報が欲しいだろ?

 近くの街に行くにも金はいるし地理は把握しないとな」

「これからどうするつもりなの?」


 フロックスは『狩りに行く』と受付で言っていた。

 とりあえず査定が終われば、移動する資金ぐらいにはなるらしいが、その前に僕に周辺のことを教えようと思っているそうだ。


 近くにあった雑貨屋で地図を書い、僕とフロックスは再び街の外へ。

「なんだにゃ、お前さんもついに子連れウルフかいにゃ」

 出入り口では、猫のような傭兵さんに絡まれるフロックス。

「うっせぇ、どう見てもヒューマンだろうが。

 それともミーアちゅう種族は目が腐ってやがんのか?」


 ケタケタ……いや、にゃはにゃはだろうか?

 とにかく傭兵は笑っていた。

 口は悪いけど、実は仲が良いとか、そういう感じなんだろう。

 門番と仲が良いなんて羨ましい。

 僕も冒険者に慣れたら、こうやってバカを言い合える者ができるだろうか……


 街を出てどこへ向かうのかと思えば、昨日と同じワイルディアのいる岩山の上だったのだ。

 街周辺を一望できる場所から、僕に色々と説明してくれるのだと言っていた。

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