それは糖を含んでいるからです
出汁を使った料理が、我が家ではいつしか当たり前になっていた。
「外で食べるよりも美味しいんだからなぁ。
『最近レイブンは付き合いが悪いぞ』なんて言われて困っちまうよ」
父レイブンは、普段は剣術の指南を行っていた。
稼ぎが少ないのは、その相手が新米の冒険者たちばかりだからだとは聞いたことがある。
本人曰く、『若い奴が育ってくれることで、俺たちの生活も守られている』ということらしい。
狩った動物を持ち帰ることもあるので、僕も少しだけ狩りに興味を持っていた。
猟銃じゃなくて剣で狩ってくるんだよ、鹿とか猪を。
だから僕が『剣を教えて』って時々言うのだけど、父は絶対に教えてくれない。
危険な目に遭わせたくはないそうだが、それ以上に街中で剣を振り回さないか心配だとさ。
「ねぇレイブン?」
先に食事を終えた母が父に話しかける。
「クロウがさ、やっぱり魔法を習いたいのかなぁって思うのよ」
それは、市場などで僕の様子を見ていたから思うことだった。
通常、魔法を習うのは10歳くらいかららしい。
特に火の魔法は最後になるのを聞いている。
誰からって?
そんなもの、自慢げに話をしている子供たちを見ていれば嫌でも耳に入ってきた。
だって、やっぱり羨ましいからなぁ。
魔力が無くても少しくらいは水を出したりできないかと、時々コッソリと真似事をしていたのだけど、見られてたのかな……
「僕は魔法はいいよ。
それよりもやっぱり剣を習いたいなぁ」
「そ、そうなの?」
きっと、どうして剣に固着するのだろうかと思うのだろうなぁ。
当然僕だって無知ではないのだし、父の書斎に魔法に関する本があることも知っていた。
こっそりと一冊を持ち出して、部屋で読んだことだってある。
魔力感知や、魔力操作。
他には、属性の事を理解しなくては、まともに魔法は発動しないようだった。
簡単に言えば、『水がどこからやってくるか』、『火はどうして熱いのか』というような事である。
日本だったら小学生でも習うような事も書いてあった。
だが、そもそも魔力が扱えないのでは、魔法が発動するはずもない。
「うーん……生活魔法ならカナリーの助けにもなるだろうが……」
もし習うとなっても僕も困ってしまう。これはどうやって伝えるべきなのか。
いっそ、僕に魔力がないのだと知られればいいのだけど、それを僕から直接言うのはやはり変なのだろうし……
食事を終え寝るために身体を拭いてもらうと、僕は悩みながら部屋へと入っていった。
僕みたいな子供が剣術を習うのは変なのか。
よほど家庭のない人以外には、冒険者になりたいと言う人も少ない世界のようだったし。
大きくなったら街のどこかで仕事を探して……何をするのかなぁ……
「素早さ……は、まだ5しかないや。
どうやって上げればいいんだろう?」
母は台所の片付けをしていて、父は少しだけお酒を飲んでいる。
僕だけが先に部屋で横になってステータスを眺めていた。
防御力はどんどん上がるのだけど、攻撃力も素早さも相変わらず低いまま。
「んーーー……!!」
腹筋を鍛えるには、やっぱりクランチとか呼ばれる上体を持ち上げるトレーニングだろう。
ゆっくりと動作することが鍛えるコツだと聞いたことがある。
そんな事をやって、僕は両親が部屋に来るまで防御力の底上げを行なっていた。
さすがに壁を殴ったりはできないし……
カツカツ……と、部屋の外を歩く音がする。
「ふふっ、大人びた事ばっかり言うから心配だったけど、そんな事ないみたいね」
「あぁ、はしゃぎ疲れたんだろうな」
ごめんなさい二人とも。
ただの寝たふりなんです……
なんだか身体がとても軽くなったみたいだし、もう少しトレーニングしたいなぁって気にはなっていた。
再び静かになって、僕はステータスを確認する。
他人には見えないけれど、隣で母が寝ているのでは慎重にならざるを得ないが。
「ステータス……」
パッと表示された僕のステータスを見ると、防御力が1だけ上がっているのを確認できた。
(よしっ! この調子なら……ん?)
今日のステータス画面は、いつもより大きく見える。
なにか新しい項目でも増えたのかと、気になった僕は視線を下の方へ。
『固有スキル:ドリンクバー(スープ・サラダ付き)』
あ、あぁ……そういえばそんなものを授けてくれると言っていたか……
今更すぎるとは思ったが、逆に今より小さい頃に使っていたら気味悪がられたと思う。
きっとそこまで気を使って、このタイミングで授けてくれたのだろう。
魔法を学ぶことになったとか、そういうのも見てくれているのかもしれないなぁ。
そうなると、早速なにができるのかが気になってしまう。
ドリンクバーというくらいなのだから……
うん、どう考えても飲み物が出てくるのだろう。
じゃあまずはカルピ○がいいだろう。
いやぁ、あれを発明した人は偉いと思う。
しかし、なにをどうすれば飲めるのか?
とりあえず、魔力感知みたいな感じで、カル○スを想像すればいいのだろうか?
僕は一口だけ飲まして欲しいと願い、そっと目を閉じた。
パシャ……
手元が一瞬だけ冷たく感じてしまった。
なにか液体が、僕のちょうど股辺りにこぼれ落ちたのだ。
いやいや……容器に入ってこないなら、せめて口の中に……
いや、後先考えずにスキルを使った僕が悪かった……
母は隣で寝ていて、とてもじゃないが隠すことはできない。
僕は諦めて、そのまま目を閉じた……
「ねぇレイブン……クロウのおねしょ、なんだか甘い匂いがするのよね……」
「なんだと? 病気かなにかか?」
翌朝、二人の会話を恥ずかしそうに聞きながらスープをすするクロウの姿がそこにはあったのだった……
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