第6話 入学式
「どう? 似合う?」
「クルッポー!」
紺ブレザーにネクタイ、チェックの膝丈スカートに紺のハイソックスという学園の制服を着た桜子がコバたんの前でクルリと回って見せるとコバたんが純白の羽を広げて称賛する。今日もコバたんは丸くてフワフワで可愛い。
モダンな大和学園の制服が日本的な美少女の桜子に良く似合う。
「うふふ、ありがとう。それでは行きましょう」
守護精霊を連れて学園に通うことは認められているのでコバたんも桜子と一緒に登校する。
*******
「梅子…連れて行けなくてすまない。出来るだけ早く帰ってくるからな」
愛犬の梅子を置いて行くことに罪悪感を感じるヒロだったが、梅子はまったく気にしていない。別邸で働くみんなに可愛がられてご機嫌な梅子は今もヒロの背後で仕事をしている庭師のことが気になって仕方がない。今すぐヒロが出かけても気にしないだろう。
「ガチャ!」
ヒロの横で早く行こうと催促するのは“テックン”だ。テックンは
工学系の才能に恵まれたヒロが幼い頃から工業大学に入り浸っていた縁でテックンはヒロの守護精霊となり、ヒロと行動を共にしている。
「じゃあね梅子、行ってくるよ」
ヒロが手を離した途端、梅子はヒロを振り返りもせず庭師に向かって走り出した…。
*******
全国に86の領地が存在するが、今年の1年生は男女合わせて24名。学園全体で137名の生徒が在籍している。
領主の子弟は12歳まで自領の学校で学ぶ。
自領の学校では通常の授業の他、領地ならではの専門知識を学ぶ。
ヒロは工業大学の一般向け講座に通って才能を伸ばしたし、桜子は土木や治水に詳しい。(武蔵領の北半分は面積に占める河川の割合が多く水害に悩まされてきた歴史がある)
13歳から18歳までは親元を離れ、
学園を卒業後は個人の希望によって、より専門的な教育に進む。たまに自由過ぎる次男や三男が軍人になったり、芸術家になったり、卒業を待たずに中退する事例もある。
*******
「素敵な学園ね、コバたん?」
「クルッポー!」
伝統を感じさせる校舎にコバたんが大喜びだ。
教師の誘導に従って入学式会場に向かっていたら名前を呼ばれたような気がして振り返ると皇太子殿下がいた。
「入学おめでとう、桜子」
「ありがとうございます」
「桜子は
「お婆さまのお写真?」
「うん。
「ありがとうございます」
桜子より2歳上の皇太子は学園の3年生で、女子学生たちのアイドルだ。
「コバたんも一緒なんだね、真っ白でふわふわで可愛いね」
「恐れ入ります。殿下が褒めてくださったわよ。良かったわね?」
プイッ!
コバたんはオスが嫌いだ。相手が皇太子でもブレない。
「こら!」
「クポォ…」
桜子に叱られて落ち込むコバたん。
「構わないよ。コバたんは桜子だけにしか心を許さないタイプなんだよね」
「ごめんなさい…」
「今度ゆっくり話そうね」
桜子から見えない角度から睨んでくるコバたんを苦笑でやり過ごした皇太子は桜子を入学式会場に向かうよう促した。
皇太子が、ふと周りを見渡すと見覚えのある新入生がいた。
「ヒロ」
「…殿下、お久しぶりです」
皇太子は何があっても穏やかな表情を変えないタイプでヒロは子供の頃から皇太子が苦手だった。
「半年ぶりかな? 入学おめでとう」
「ありがとうございます」
「さっき会ったよ」
「桜子ですか?」
「コバたんもいたよ」
「そうですか。入学式に遅れそうなので失礼します」
2歳年上の皇太子は全国の領主の娘たちの憧れの的だ。桜子と距離が近いためヒロの要注意人物である。
皇太子がヒロをライバルと思っているかどうかは分からない。
*******
入学式の会場では来た順に前から座るよう促された。桜子の後から入ったヒロは桜子の斜め後ろに座ることになった。
── なんて幸運なんだ、ベスポジじゃないか…斜め後ろから見る桜子も可愛いな。
無表情をキープしながら学園長の話もほとんど聞かず一心不乱に桜子を眺めていたら入学式が終わっていたので教室に移動した。
── 席順は五十音順か…俺が春狩で桜子が武蔵だから…
── いやいやいや待て待て待て… 深呼吸だ。吸ってー吐いてー…もう一度見てみよう……
── 間違いない。このクラスは24名で俺の出席番号は20番、桜子の出席番号が24番、1列4人で横に5列…桜子が左で俺が右。
無表情をキープしながら振り返ると桜子と目が合った。
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