第26話 仲直りのしるしは肉じゃが
「ただいまー。」
「あっ、柚葉ちゃんおかえり。今日もお邪魔してるよ。」
「美結ちゃんならいつでも大歓迎。一緒に住みたいくらい。ところでおにーちゃんは?」
「あー、えーくんならトイレだよ。」
「えーまたあ?相変わらずだなあ。まあいいや、先にご飯作っちゃお。」
玄関からそんな会話が聞こえてきた。よかった、柚葉もう怒ってなさそうだ。美結がメッセージ送ってくれてたし、柚葉も分かってくれたんだろう。後は怒鳴ってしまったことと家を出て行ったことを謝って仲直りするだけだな。そう考え早々にトイレを出てリビングヘ。意外と早めにトイレを出られたのも心が軽くなったからなのだろうか。まあそれはさておき、キッチンで晩飯の準備にとりかかっている柚葉に声を掛ける。
「柚葉、ちょっといいか。」
「なに、おにーちゃん。」
「この前のことだけどさ、柚葉に信じてもらえなくていくら腹が立ってたとはいえあんなにきつく当たってほんとに悪かった。それに家まで出て行っちまって、ごめん。」
「うん。ゆずも勘違いして責めちゃってごめんね。ちゃんとおにーちゃんのこと考えてなかった。」
「いや、いいよ。分かってくれれば。」
「そうだよね、よく考えたらおにーちゃんがゆずたちとは別の女の人と普通に話したり仲良くなったりできるはずないもんね。」
いや、それはそれで普通に傷つくんだけど。でもまあこの性格のおかげで誤解が解けたと考えればいいのか…?俺がもっとコミュニケーション力に優れた人間だったらまだ信じてもらえてなかったかもしれないしな。
「まあ否定はしないけど。でも話しかけられて普通に返答するくらい俺にもできるぞ、たぶん。」
「まあ他の女の子と話せなくてもいいじゃん?えーくんには私と柚葉ちゃんがいるんだから。ね?」
「そーだよ、おにーちゃん。おにーちゃんは無理に他の人と仲良くならなくていいの。」
「いや、お前らなあ。」
「なに、ゆずたちじゃ不満なの?」
「やっぱり私たちよりあの綺麗な人の方がよかった?」
「もうやめてくれよその話。2人の方がいいに決まってるだろ。」
「えへへ、冗談だよ。」
ふう、やっと仲直りしたと思ったらすぐこんなことを平気で言う。まったく、心が休まらないじゃないか。
「はーい、晩ごはんできたよ。美結ちゃんも食べて行ってね。」
柚葉がそう言うと美結が目を輝かせる。
「やったー!柚葉ちゃんのご飯美味しいんだよねー。今日は久々に3人そろったし。お酒でも飲んじゃう?」
「だめだ、まだ未成年だろ。」
「えーくんのけちー。」
美結はそう言ってふふっと笑う。
「じゃあ、いただきまーす。」
「おおお、肉じゃがだ。最高かよ。」
「おにーちゃんが帰ってきたからね。ちゃんと仲直りできたってことで。」
パクっとひと口頬張る。久々の温かい飯は最高だ。ネットカフェ生活でくたびれた身に染みる。
「さすが柚葉。こんなうまい肉じゃが初めてだ。また腕上げたな?」
「そ、そうかな。いつもと同じだと思うけど。」
「ううん、ほんと美味しいよ、柚葉ちゃん。」
「えへへ、ありがと。おかわりあるからどんどん食べてね。」
「よっしゃ、今日は食うぞー。」
久々の柚葉の味を心ゆくまで堪能し、満腹感と幸福感に満たされながら俺はまたトイレへ向かうのだった。
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