第20話 レストランと2人の妹
「あのー、そろそろ腕離してくれない?」
上映が終わって映画館を出ても2人は俺の腕を掴んだままだ。両腕に美少女を連れて歩いていると、通りすがりの人からの目線が痛く感じる。それに平日の真っ昼間に駅の周りをうろついているので、あまり目立ちたくない。
「昼飯でも食べるか。」
そう言って映画館の隣にある大型ショッピングモールへ入っていく。さすがに腕を掴んだまま食事はできないだろう。我ながらいい考えだ。
「私ハンバーグがいいっ。」
「ゆずはオムライスっ。」
俺の右と左からメニューの要望が上がる。
「分かった。じゃあ洋食レストランに入ろう。」
平日のこの時間だとそんなに混んでいることもないだろう。
「いらっしゃいませー、3名様ですね。」
店へ入るとアルバイトらしきスタッフの声が店内に響いた。思った通り客はまばらで、店内にいるのは休憩中のサラリーマンくらいのものだ。
「空いててよかったな。」
「そーだね。私たち学校サボってるわけだし、お母さんの知り合いとかいたらまずいもんね。」
美結よ、それが分かっているなら早くその手をはずしてくれ。席に案内されると、俺の隣にどちらが座るかというくだらない争いが幕を開けた。
「ねえ、えーくんはどっちがいい?」
「そんなのどっちだっていいよ。早く座れって。」
「じゃあゆずが隣座るっ!」
「あっ、柚葉ちゃんずるいっ、私も隣座るっ!」
そう言って2人とも俺の方に座ってきた。もともと2人ずつ向かい合って座るタイプの座席なので、片側に3人も座るとぎゅうぎゅうでとても食事なんてできる広さじゃない。
「あーもう、2人とも反対側へ座れ!」
そう言ってなんとか難を逃れた。でも実はちょっと嬉しかったのは2人には秘密だ。ようやく席に落ち着きメニューを決めて呼び出しベルを押す。
「はい、お決まりでしょうか?」
「えっと、デミグラスソースハンバーグのセットが1つ、チキンオムライスのスープ付きが1つ、それから旨味チキンとパスタのセットが1つでお願いします。」
俺が全員分の注文をまとめて伝える。
「えーくんありがと。」
「おう。」
美結がニコッと笑って礼を言う。その後で美結に肘でつつかれた柚葉も、
「あ、ありがと、おにーちゃん。」
と続いた。
「なんかお前ら姉妹みたいだな。」
「そ、そう?じゃあ私はえーくんの妹かな。」
少し恥ずかしそうに、でもどこか寂しそうに言った。
「じゃあ美結ちゃんがゆずのおねーちゃんだね。」
そう言った柚葉もよくわからない表情だった。そうこうしているうちに料理が運ばれてきた。やはり空いているだけあって早かった。
「いただきまーす。」
「うーん、おいしっ。やっぱりハンバーグは最高だよ~。」
「ゆずのオムライスもおいしいよ。ちょっと食べてみる?」
「いいの?じゃあ私のもちょっとあげる。」
「ほんとだ、すごいおいしいっ!」
「でしょー!」
そんなやりとりを見ていると美結と柚葉が本当に姉妹のように思えてきた。美結と柚葉が俺の妹か…うん悪くないな。むしろそうであってほしい。それなら美結と付き合うか付き合わないかっていう問題も解決じゃないか。
「ねえ、ねえっ!おにーちゃん聞いてるっ?」
「え、あ、なに?」
「やっぱり聞いてない。またいつものくせが出たよおにーちゃんっ!」
「ああ、悪い。」
「えーくんってよく考え事するよね。それってもしかして私のこと考えて…なーんてね。」
完全に図星だったので内心ギクリとしたが、なんとか平静を装って答える。
「いや、そんなんじゃないよ。ただ2人がますます姉妹に見えてきたなって考えてただけで。」
「それって美結ちゃんに妹になってほしいってことなの?」
冗談ぽく聞いてきた柚葉の言葉にもまたギクリとしてしまった。
「いや、なんていうかそれは…違うような違くないような…」
動揺したせいか、うまく答えられなかった。
「私って妹に見えるのかなあ。」
「うーん、どうなんだろ。でも美結ちゃんはもともとゆずのおねーちゃんみたいなもんだし。いっそうちで一緒に住む?」
「お母さんに言ってみようかなあ。」
「うちはいつでも大歓迎だよ。」
そんなことを言って楽しそうに笑っている2人を見ていると、俺も別に本心を隠さなくてもいいかと思えてきた。
「俺も美結が妹になるって言うなら大歓迎だよ。」
流れに乗って本心を言ってみたのだが、柚葉の反応が思ったより冷たかった。
「おにーちゃん何言ってんの。冗談に決まってるじゃん。もしかして本気なの!?」
「え、あ、いや、冗談だよ冗談。」
あせって誤魔化したが、
「ほんとかなあ」
と疑われてしまった。
「えーくんは私に彼女よりも妹になってほしいの?」
消え入りそうな声で聞いて来たのは美結だ。顔を真っ赤にしてうつむいている。目線を合わせようともしない。何と答えていいのか分からず、俺がしばらく黙っていると、こらえきれずといった感じで柚葉が口を開いた。
「女の子にここまで言わせてまだ決心できないの!?おにーちゃんがバカなのは知ってるけど、ここまでバカだとは思わなかった。」
と仕草には可愛げがあったがそれを打ち消すくらいの辛辣な言葉が飛び出した。
ギュルギュル…
俺のお腹が鳴った。どうやら朝トイレに行けていなかったことと、急激にストレスがかかったせいで調子を悪くしたらしい。
「悪い、トイレ。」
それだけ言って2人から逃げるようにトイレへ駆け込んでしまった。
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