第15話 美結と柚葉と晩ごはん

コンコン。自分の部屋なのだが美結がいるので、そのまま入るのもどうかとためらい、ノックをしてから部屋に入る。美結は布団に倒れこむようにして転がっていた。


「おーい美結起きてるか?」


声をかけてみたが返事はない。仕方ない、晩飯の時間まで寝かせてやるか。それにしても美結って可愛くなったよなあ。中学の時は、まだあどけなさが残るただ元気な女の子って感じだったのに。別の高校行ってしばらく会っていなかったうちにほんとに綺麗になった。まあ化粧をし始めたことも大きいのだろうが、髪もサラサラになったし、ちょっと明るめに染めているのも似合っていてとてもいい。そういえば、美結が髪染めたのって、俺が好きでよく見ていた女優の髪を真似したんだよなあ。それってもしかして俺の好みを意識してとか…いや、さすがにそれはないか。んー、でも強引に彼女役なんて買って出るくらいだからありえるのか?そんなことを考えながら美結の寝顔を見つめる。俺、ほんとにこんな可愛い子に告白されたんだよな。やっぱり細かいこといろいろ考えずに即オッケーするべきだったのかな。って、いかんいかん。そういうチャラい男の考えそうなことは考えちゃダメだ。この件はちゃんと考えて結論出さないと。それにしても今日俺の家に泊まるんだよな。布団はどうする?柚葉の部屋に2人で寝てもらうか、でも狭いよなあ。俺の部屋…はさすがにダメだよな。あ、そうか俺がリビングで寝て、美結に俺の部屋使ってもらえばいいのか。そうだ、それが一番いいな。


「あれ、私…えーくん?」


あれこれ考えているうちに美結が目を覚ました。


「起きたか。」


「わっ、私寝ちゃってた…ごめんねっえーくん。あっ、もうこんな時間。ごめんね遅くまで、もう帰るね。」


「いいよいいよ。それにお前今日はうちに泊まることになってるから」


俺が笑ってそう言うと、美結はピクッと反応して固まった。


「そ、それは今日は帰さないぞ…ってことですか、えーくん…」


明らかに動揺していて顔も赤くなってきた。可愛いやつ。


「いやいや、そんな変な意味じゃなくて、もう時間も遅いから泊まっていけって柚葉が。お前の母さんにも連絡したって言ってたから。ま、まあ安心して泊まっていけよ。」


なんだか俺まで変に意識してしまって恥ずかしくなってくる。


「あ、そっそうなんだ。じゃあ…お世話になります。」


俺はなんだか気まずい空気に耐え切れず、目をそらして言った。


「晩飯食べようか。」


なかば逃げるようにリビングヘ向かう。美結も後ろからついて来た。告白されたばっかりでお泊まりなんて意識しない方がおかしいよな。落ち着けよ、俺。

リビングヘ入ると、すでに机に箸やらスプーンやらが用意されていた。


「あっ、美結ちゃん起きたっ!早く起こしてあげれば良かったんだけど、気持ちよさそうに寝てたから起こすのためらっちゃって。」


柚葉が美結に気づいて声をかける。


「ううん、遅くまでごめんね。ご飯まで用意してもらっちゃって。ほんとありがと。」


「いいのいいの。さっ食べよ。おにーちゃんもつっ立ってないで食べるよっ!」


「あ、ああ、いただきます。」


今日のメニューはカレーとサラダだ。なるほど、これなら3人分も4人分も手間は変わらないってわけか。


「おいしいよ、柚葉ちゃん、さすがだねっ。」


ひと口食べて美結が柚葉をほめる。


「そう?よかった!ゆずも美結ちゃんに食べてもらえて嬉しい。」


そんな当たり障りのない会話がしばらく続き、俺はそれを聞きながら黙々とカレーを食べ進めていたのだが、突然柚葉が、


「ねえ聞いて、おにーちゃんったら美結ちゃんのことひとりで帰らせようとしてたんだよっ。もうお外真っ暗だったのに。ひどいよねー、女の子ひとりで帰れだなんて。」


などと言い出した。


「い、いや、それはその…」


なにか弁明しようとしたがとっさにいい答えが思いつかない。


「それはなに?だってほんとのことでしょ。まったくもうおにーちゃんはっ!」


助けを求めるように美結を見るが、


「私はひとりでも帰れるよ。もう大学生なんだから。」


と明らかにさみしそうな顔でつぶやく。


「ほらっ、美結ちゃんもおにーちゃんにひとりで帰れーなんて言われてさみしいんじゃんっ!」


柚葉がさらに責めてくる。なんだかいつもよりも怒るのがきつくないか?それにそんなこと黙ってくれていればよかったのに。


「悪かったよ、ほんと悪かった。美結だって女の子だもんな。」


「そーだよ、私だって女の子だよ。」


そう小さな声で悲しそうに言われて胸が痛くなる。美結は俺のことが好きなんだ。好きな人にひとりで帰れなんて言われたら誰だって傷つくし悲しくなるよな。なんでもう少し頭が回らなかったんだろう。


「次からは気を付ける。」


気まずさと罪悪感でその場にいづらくなり、俺はそう言って残りのカレーを全部かきこむと、そのまま食器を流し台に置き、逃げるようにトイレへ入った。

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