俺のトイレは長い

第5話 柚葉の肉じゃが

帰り道、美結と別れてから、というより逃げられてから駅前の本屋に立ち寄っていたので、家に着いた頃にはもうすっかり暗くなっていた。

「ただいまー。」

「あっ、おにーちゃんおかえりー。」

柚葉がキッチンの方から声をかけてくる。我が家は父さんが単身赴任で海外に住んでおり、正月くらいしか帰ってこない。そのうえ母さんは会社で重要なポジションを任されているらしく、帰りが遅くなることが多いので、食事や洗濯などの家事は柚葉がひとりで頑張ってくれている。昔は失敗することもよくあったが、最近ではすっかり我が家のお母さん代わりになっている。料理もうまいし、掃除や洗濯も難なくこなす。どこへ嫁に出してもやっていけるだろう。まあ出したくはないが。

「遅かったね、寄り道でもしてたの？」

「ああ、まあちょっとな。それより今日の晩飯なに？」

「今日は肉じゃがだよ。お隣さんがじゃがいもおすそ分けしてくれたから。」

かばんを適当に放り投げて柚葉の手元をのぞき込む。

「お、うまそうじゃん。じゃがいもたっぷりだ。」

「でしょ～、おにーちゃんじゃがいも好きだから多めにしたの。」

「そりゃ気が利くなあ。せっかくだし出来立てをいただくとするか。」

「はぁ～い、今用意するからちょっとまってねー。」

ただ待つだけでは柚葉にちょっと申し訳ないので、箸やら皿なんかをテーブルに並べながら待つ。

「ゆずがやるからいいのに。」

「いやいや、いつも晩飯作ってもらってるんだからこれくらいはな。」

「へえ～、おにーちゃんにしては良いこと言うじゃん。」

「うるさいな、そんなつもりじゃ…」

「はいはい、できたよ。食べよっ。」

さっそく出来立ての肉じゃがを口いっぱいに頬張る。ジャガイモのホクホク感と甘辛い味付けの最強のタッグだ。牛肉の旨味もニンジンや玉ねぎの甘味も主役のジャガイモを引き立てている。こりゃうまい。

「あーうまい。これほんとにうまいよ柚葉。」

「へへ、そりゃあゆずの手料理ですからっ！」

素直に感想を述べると、柚葉は自慢げに笑いつつ自分も肉じゃがを頬張る。

「うんおいしっ。おかわりもあるからね。」

「やったぜ。柚葉最高。」

「えへへ。喜んでくれてよかった。」

お言葉に甘えておかわりの分まできれいに平らげた。

「ふ～、食った食った。腹いっぱいだ。腹がふくれたらトイレ行きたくなるんだよなあ。柚葉、先に風呂入ってていいぞ。」

「えーおにーちゃんまたトイレ？朝も長い間入ってたじゃん。明日はもうちょっと早く出てきてよね。」

「善処するよ。」

早く出てこいと言われても出るものは出るのだ。どうしようもないじゃないか。

「じゃあゆず先にお風呂入るね。」

そう言うと柚葉は脱衣所へ入っていった。しばらくごそごそという音がしてガチャっと風呂の扉が開いた。今柚葉は一糸まとわぬ姿でシャワーを…って柚葉は妹！柚葉は妹だ！いかんいかん。あやうく妹で変な想像をしてしまうところだった。あぶないあぶない。そして俺は落ち着きを取り戻し、トイレへ向かった。