第13話 まずは開きましょう

 地下室に戻ってきました。広がった血だけは拭いておいたのですが、また血溜まりができてしまっています。


 脚と腕をとる前と違って、だいぶ落ち着いてきています。あまり気にならなかった血の匂いのようなものも少し気になってきました。これからの作業の途中で鼻は利かなくなるでしょうから、匂いに顔をしかめるのも今だけだと思います。というより、鼻には死んでもらわないと困ります。これから私が今まで嗅いだことのなかったようなものを嗅ぐことになるでしょうからね。



 まずはお腹を切り開いて内臓を出さないといけません。何よりもここを真っ先にやってしまわないとまずいことになります。

 内臓を全部取り出したら、消化器とそれ以外に分けましょう。それ以外については手間はかからないでしょうけど、消化器は中にまだものが残っているでしょうから大変手間がかかりそうです。


 お腹の中が空っぽになったら、次は頭をとりましょう。脳みそもさっさと処理してしまいたいです。

 脳みそはプリオンがなんだかで食べてはいけないって良く聞きますけど、ちょっと調べてみたら聞いていた話とだいぶ違うようで、頭が混乱してしまいそうです。まあ、どっちにしろお肉以外は食べる気はありません。焼き鳥なんかでもレバーとかハツはあまり好きではありません。血なまぐさいのがどうにも好きになれないのです。


 中身を取り終えて骨と肉と皮だけになったら、あとは根気です。肉と皮を骨から取り外す作業が続くだけです。



 生っぽい部分が終わったら一休みできるはずです。がんばりましょう。



 お腹を切るときは内臓を傷つけないようにしたいところです。努力はしますがだめでも仕方はありません。そのときはそのときで臨機応変にいきましょう。


 あまり覚えてはいないのですが、中学でカエルの解剖をした際に、片方の先っぽが丸いはさみを使いました。内臓を傷つけないようにするためのものだったと思います。

 あれは文房具のはさみくらいのものでしたが、人間くらいの大きさでも使えるような大きなものもあるのでしょうか。もし手元にそういったものがあれば楽だったのですが、ないものねだりをしてもしかたがありません。さっさと気合をいれて包丁を握りましょう。



 腸だけは切りたくないので、肋骨のすぐ下あたりを始点にしましょう。確かこのあたりは肝臓があったはずです。キッチンから先のとがった包丁を持ってきておきましたので、それを使います。数日に一回は研いでいますから、切れ味は大丈夫だと思います。


 手で何度か肋骨の位置を確かめ、慎重に包丁を突き立てます。思ったより簡単に包丁は沈み込んでいきますが、その分、慎重にやらないとざっくりと深くまでいってしまいそうです。

 数センチほどの切れ込みを入れたら、指を差し込み皮を引き上げて空間を作ってやります。これで多少はやりやすくなるはずです。少し危ないとは思いますが、刃を上に向けて切り開いていきましょう。


 下腹部まで到達するのに十分以上はかかったかもしれません。でも、それだけかけただけあって、かなり綺麗に切り開くことができました。内臓もそれほど傷ついていないようです。



 真ん中を切ったら内臓がとれるだろうと思っていたのですが、これはちょっと無理そうです。

 縦に開いた穴というより切れ込みから両手を入れて作業しようとすると、目で確認できずにまともにすすまないでしょうし、切れ込みを広げながらじゃ片手で作業することになってしまいます。扉のように開ける状態にした方がいいでしょうね。上は肋骨の端に沿うように、下は骨盤に当たらないように切れ込みをいれていきましょう。


 さっきとは違って目で確認しつつ切っていけるので、スムーズに切り進められます。皮の端をもってピンと張らせながら包丁を動かしていきます。

 彼にはあまり脂肪がついていませんでしたが、これが太めの人だったら大変なんでしょうね。油で滑ってうまくいかないんじゃないかと思います。


 側面あたりまで切ってやると、皮の重さでうまく開いてくれました。

 欲を言うなら肋骨を切ってしまいたいのですが、電動のこぎりで内臓を傷つけずにやれるかはちょっと自信がありません。あきらめて消化器を取ってしまってからにしましょう。

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