第5話 5
――第19層
ダンジョンでは10層毎にボス部屋が設けられている。たいていのボスはそれまでの階層のモンスターに比べHPやパワー、スピードなどが大幅に強化されている。さらに、ボスなだけあって他のモンスターと違い魔物特有のスキルを使用してくる。
スキルというのは、ゲームでも同じ意味の習得できる技術のようなものだ。ある一定の習熟度になると自然に身につく神からの授け物とされている。スキルは一部の例外を除き努力すれば取得できるがそれを会得するまでに膨大な時間を要する。そのため、普通は軸となるもの一つを集中にして会得しようとする。中途半端に他のスキルに手を出してもかえって、器用貧乏のように扱いどころに困ることが少なくない。
俺は剣士と魔法は主に無属性魔法のスキルを修めている。今の剣士のスキルは60。そして無属性魔法は47。スキルの熟練度はMAX100といわれているので剣士のスキルは世間一般的に見ると王国近衛兵レベルに相当する。
なかなかにすごいと思うんだけどな…。
まぁこの話は置いといて、ボスモンスターはスキルを有することがほとんどである。普通のモンスターもたまにスキルを有しているが滅多に居ないため、主にボスモンスターがスキル持ちの魔物として周知されている。
次の20階層はボス部屋で必然的にパーティーの気も引き締まる。
「たしか、次のボスはミノタウロスだったか?」
「うん、魔法耐性が高くて全然魔法が通らなくてきらーい」
ミノタウロス。二足歩行の牛のモンスターで一般的には魔法耐性を有しているという話はないが、このボス部屋でのミノタウロスは攻撃手段のひとつの魔法が効きにくい。そのため、ここでは近接武器を有している俺とアレンがメインで戦うことになる。
エリーは今回は後衛として指揮や魔法を扱っている。今回のパーティーは俺とアレンが近接メインなので後衛が手薄になる。手薄になるといってもセーヤはそこらへんの魔法使いとは格が違うので万が一などのことはないがそこは優秀な王女様が直々に後衛に専念してパーティーの力を底上げしてくれる。
「基本的には先程の陣形で進む。アレンとレイがまずボスのヘイトを集めている間に私とセーヤで2人にバフをかけ一気に畳み掛ける。2人とも心配ないとは思うが気をつけろよ」
「わかってるって。ただ、こいつが俺の邪魔をしないかが心配だけどな。本当に気をつけろよ?わざわざお前に構ってる暇なんかないからな」
「……わかってるよ」
一々癇に障る野郎だな。戦闘中に間違えた振りをして斬りかかってやろうか。まぁ、そんなことした瞬間俺がバラバラに斬られるだろうがな。ははっ、笑えねぇ。
「そこまでにしとけ、アレン。今は次の戦いに集中しろ。それにしてもレイ。お前は何も思わないのか?アレンに言われたい放題で」
「…別に気にしてないよ」
「本当にお前は…。もういい」
なんだよ。俺がアレンに何を言っても無駄なことをお前は知っているだろうに。どこまでいっても人に優しくする王女を演じたいのか。その優しさが人を苦しめることをお前は知らないだろうな。精々、将来その優しさでこの国の民を苦しめることを望むとするか。
「それじゃ、行くぞ」
俺たちは20層に下りてボス部屋のドアを開けた。
部屋に入ると外壁の灯りが一斉に付いてボス部屋を照らし出す。
(相変わらずボス部屋はでかいな)
ボス部屋は広大な面積を有していて、その中心にボスモンスターが鎮座している。例えるとするならここはモンスターにとっての王の間と言ったところか。
(それにしても変だ。いつもは感じられるあの独特の緊張感がまるで無い。肌を刺すようなあの空気が)
俺がはじめてボス部屋に入ったのは2年前の10層のボス部屋だった。あの時のことは今でも鮮明に覚えている。あのボス部屋特有の雰囲気が嫌でも身体に警告する。死ぬな、と。
身体は自分が思うよりも正直だとあの時に身に染みて感じた。
昔の人もこのような場面があったのだろうか。
だから、おかしい。
俺があの空気感を忘れるはずがない。
今感じているこれは何なんだ…。
その時、俺たちは気付いた。
ボスモンスターであるミノタウロスが部屋の中央で血溜まりを作り息絶えていることに。
「おい、どういうことだ!何故ミノタウロスが死んでいる!?」
「え、なんで!?」
「いったい何が……」
3人が同じタイミングで目の前の異様な光景を口にする。みんな想像だにしなかった展開に動揺している。そしてそれは俺も例外ではなかった。
「…………戻ろう!何か嫌な予感がする」
俺はこの異質な空間はやばいと直感的に察した。
いったい誰が何故どうやってやったのかは分からないが身体が警告信号を鳴らしている。
この場所は危険だ、と。
「あぁ、そうしよう。さすがにこれは看過できぬ問題だ。急いで地上に戻るぞ!」
エリーは一旦は動揺したものの直ぐにこの状況を判断しパーティーに指示を下した。さすがの切り替えと言わざるを得ない。
「……くそっ!せっかくのダンジョンが!」
「うん、わかった」
アレンとセーヤもさすがにここまでの異変があってダンジョンを攻略しようとは思ってないらしくしぶしぶ俺とエリーの案を了承し、このボス部屋から出ようとした時、
「帰るだなんて勿体ない。せっかくだから僕と遊ぼうよ」
ミノタウロスの死体の上に座りながらこちらに冷酷な笑顔を向けている男を認識した瞬間、俺の体は震えていた。まさしくそれは、狩る側だったはずの俺がたった今狩られる側に変わった絶望の始まりだった。
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